「今、すごく楽しいです」 不登校からeスポーツを通じて身につけた社会性
プロゲーマー養成ではないeスポーツコース開講の本当の狙い
自分でも驚くほどコールができるのは、チーム内のコミュニケーションが上手くいっているから。「僕が今いるチームのいいところは、隠さずに全部ストレートで言ってくれるところ。自分でも修正しやすいし、コミュニケーションがとりやすい。コミュニケーションが取れないと、本当に何もできなくなってしまうので、いい関係が築けていると思います」と信頼は厚い。 コミュニケーションを深めるために、キャンパスに通学すると「みんなで外で食事をしたり、ブラブラ歩きながら話をしたり、ボードゲームで遊んだり、意外とリアル(笑)」。そう話す井上くんの姿を、嬉しそうに見守るのが中田快先生だ。eスポーツコースの立ち上げに関わった1人でもある。 eスポーツコースと聞くと、主な目的はプロゲーマーの養成だと思う人は多いだろう。しかし、ルネサンス高校グループでは不登校を改善する方法としてeスポーツに着目。英語教育と合わせて、生徒が社会性を身につけて卒業することを目的としている。プロ養成を目的としたわけではなかったが、結果として大会で好成績を収める強豪となった。 月1回は掲げた目標に対して自分はどの位置にいるのか「振り返りシート」に自己評価を書き込むことなど、OODA(Observe・観察、Orient・状況判断、Decide・意思決定、Act・実行)ループを身につけ、高校生が中学生を指導する時間を作って教える難しさを感じることで他者の立場になって考えることを体感する。中田先生は「大会では勝つことより負けることの方が多い。負けの振り返りをしっかりして、次こそは!と挑戦し続けることで人間性が育つと思います」と話す。
練習を重ねて育んだチームワークで狙う日本一
井上くんも中学校へ行けなくなった時期があり、中学2年からルネ中等部に入塾。元々ゲームは好きだったが、eスポーツの存在を知ったのは入塾を決めた時だったという。「スポーツみたいに大会があると思っていなかったから、すごく不思議な感じでした」と振り返るが、今では「オリンピックにも出られるチャンスがあれば目指してみたいし、チームに入って海外の大会にも出てみたいです」と大きな目標を掲げる。 海外では、特にアメリカやヨーロッパで普及しているイメージがあるが、韓国や中国など東アジアも盛んで名だたるプロプレイヤーが誕生している。井上くんが憧れるのは、韓国のeスポーツチーム「T1」に所属する「Zeus(ゼウス)」という選手。「自分が使っているカ・サンテというキャラをメインで使う人で、かなり強いです」。 9月に開催された「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」オンライン予選に初出場した井上くんはチームの仲間と力を合わせ、全国決勝への切符を手に入れた。12月28日に予定される全国決勝はオンラインではなく、東京・品川プリンスホテル内にあるClub eXでオフライン開催となる。 「楽しく、そして勝てるように。やるからには勝つのは大事。勝つために楽しむ、みたいな感じです」 舞台がバーチャルな世界であろうが、リアルな世界であろうが、目標に向かって練習を積み重ね、仲間と切磋琢磨する姿は青春そのもの。「今、すごく楽しいです」。そう思える毎日が宝物だ。
THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato