「泣けるほど頑張るラガーマン」トンプソン”引退マッチ”に1万4599人。なぜ彼はこれほどまでに愛されたのか?
大勢のファンに秩父宮ラグビー場へ足を運ばせ、最後に何とかトライを決めさせたいとチームメイトたちを動かす。 トンプソンの何が周囲を惹きつけ、魅了するのか。ひとつは「生まれた国は関係ない。僕には日本のプライドがある」と公言してはばからなかった、人生の半分近くを過ごした日本を愛し、日本のために粉骨砕身して戦ってきた侍魂である。 もうひとつは日本代表と近鉄で貫かれた、愚直なまでのプレースタイルとなる。縁の下の力持ち的な存在となるフォワード陣のなかで、トンプソンはとりわけ「倒れたらすぐに立ってまた走る」を繰り返してきた。ラックやモールで黒子に徹し、攻守が入れ替われば真っ先にタックルを仕掛ける。変わらない姿勢は日本人の心の琴線に触れ、トンプソンにはいつしかこんな枕言葉がつけられた。 「泣けるほど頑張る男」 トップチャレンジリーグが開幕したのは昨年11月。ワールドカップの余韻が冷めないなかで近鉄に合流したトンプソンは、有水ヘッドコーチをして「チームにまったくフィットできていない」と言わしめる状態だった。一度は引退した日本代表へ2017年6月に復帰し、特にワールドカップへ向けて240日を超える合宿を敢行し、絆と連携を深めてきた代償でもあった。 それでも、トンプソンは全7試合を戦うトップチャレンジリーグで、1試合を除いて先発に名前を連ねてきた。有水ヘッドコーチは「もちろん、名前で使っているわけではない」と目を細める。誰よりも献身的な姿勢と、タックルに象徴される危機察知能力の高さは誰も及ばない領域を維持していた。 迎えた最後の試合。トライが無理ならば得点を、とチームメイトたちも考えたのだろう。ナンバー8のロロ・ファカオシレアがトライを決め、60点差とした直後の後半32分。これまでのラグビー人生でほとんど経験のなかったコンバージョンキックを、トンプソンはゴールほぼ正面から決めている。 「ラグビーには引退する選手に、ゴールキックのチャンスを与える伝統があるんだ」