ぶいすぽっ!で合流を果たした“黄金コンビ” 一ノ瀬うるは&小森めとの軌跡をたどる
現在のVTuberシーンにおいて、タレントの活躍する分野は日々拡がっている。そのなかで年々支持を強めているのがBrave groupが手がけるVirtual eSports Project「ぶいすぽっ!」である。 【画像】ぶいすぽっ!所属のVTuber・一ノ瀬うるは 業界においてさまざまな趣向のプロジェクトが存在するなかで、「ぶいすぽっ!」が特色としているのは、eスポーツに特化した事務所であること。とくにFPSジャンルを得意とするメンバーが多く、なかには各タイトルにおける認定ランクで上位に食い込む者もいるほどだ。 現在所属するメンバー20人は昼夜問わずゲーム配信をおこない、プロジェクト内外で催される大型大会や企画へ参加するなど、ここ数年ですこしずつ存在感を示してきた。配信を通じて印象的なシーンを生み出してきたことで、コラボ商品や商品広告にも起用されるようになっており、所属タレントが様々な形で活躍する場面が増えてきている。 現在の運営体制となってから約4年ほど、シーンをリードする「ホロライブ」「にじさんじ」にも劣らない「ぶいすぽっ!」の魅力が、広く知られつつあるのだ。 この1ヶ月ほどのあいだで花芽姉妹や『RAGE VALORANT 2024 feat.VSPO!』に出演するメンバーを中心に記してきたが、今回からはぶいすぽっ!に所属する他メンバーにフォーカスしていこうと思う。 今回は、デビューしてから長きにわたってぶいすぽっ!の勢いを加速させ続け、なにより“FPS系女性VTuber”という在り方を確固たるものにした2人、一ノ瀬うるはと小森めとの仲良しコンビについてだ。 ■飾らない振る舞いが魅力 ナチュラルな人物像を保ち続ける一ノ瀬うるは 一ノ瀬うるはは2019年3月20日にSNSへ初投稿、2019年4月19日にYouTubeにプレイ動画を初投稿し、活動をスタートした。2018年10月20日にデビューしていた花芽なずな・すみれの2人、彼女の前日にデビューした小雀とともに、Lupinus Virtual Games(現在のぶいすぽっ!の前身となるプロジェクト)の一員としてデビューを果たした形だ。 一ノ瀬はMMORPGの『TERA』やバトロワ系ゲーム『H1Z1: King of the Kill』などをきっかけにゲームの魅力を知り、その後にプレイしはじめた『PUBG: BATTLEGROUNDS』を通じてネットでの友人も生まれたという。その友人らのなかに花芽姉妹がおり、誘いを受けてデビューへと至ったそうだ。以前紹介した胡桃のあも同様の誘いを受けてデビューしており、あらためて花芽姉妹の影響力が感じられるエピソードだ。 ビジュアルはといえば、黒髪に青のメッシュを入れ、ロングヘアーやウルフカットなど様々に変えながら、目力のある姿が印象的。すこし低めの声でローテンションに話すことの多い一ノ瀬は、声色ゆえか配信上ではどこか近寄りがたさすら感じるクールな雰囲気を漂わせ、サバサバとした印象を与える。 一ノ瀬・小雀・花芽姉妹の4名は、当時大流行していたバトロワ系ゲーム『PUBG: BATTLEGROUNDS』を数千時間以上もプレイしていたほどのハードなゲーマーだった。そんな彼女らがLupinus Virtual Gamesとして集まり、プロチームも混ざってスクリム(練習試合)を組む『PUBG SCRIM JAPAN』に参加することになった。 当時を振り返って、デビューから間もない時期ということで、配信内外でケンカすることも多々あったと一ノ瀬は後年語っている。最初に降りる場所を街にするかどうか、高所のポジションで誰をどこに配置するか、どのタイミングで攻勢・守勢にまわるべきか。細かな点のひとつひとつにケンカした、とにこやかに思い出すのだ。 そうしてチームとして研鑽を経た4名はプロチームとも互角に勝負できるほどにまで成長。見事に総合1位を獲得するまでに至った。直後の感想配信で「当初の目的を果たせました!」とうれしそうにしていた一ノ瀬は、コーチ役だったPepperさんの「泣いちゃった」という連絡を見て、そのままもらい泣き。一ノ瀬や花芽姉妹のアーカイブは現在非公開となっているが、小雀ととのチャンネルでは今もスクリムの様子を見ることができる。 また、現在も交流が続く白雪レイドや叶らとはこの頃から配信をともにしており、2020年以降は『Apex Legends』『VALORANT』へとプレイするゲームを移行、『VTuber最協決定戦』『Crazy Raccoon Cup』などのコミュニティ大会への出場をつづけていくことになる。 2020年8月からは盟友・小森めと、白雪レイドの2人と積極的にコラボするようになり、3人は「BIG STAR」というコラボネームを掲げて一気にブレイクしていくことになった。FPS/TPSを中心にさまざまなゲームでコラボ配信をし、ゲームプレイ・雑談トークともに“爆発力を伴ったトリオ”として、今につながる人気を集めていったのだ。 冒頭でも述べたように、一ノ瀬うるはといえばクールな面持ちが印象的。しかし、意外に珍プレイを見せることがあったり、仲の良いメンバーとともにいると急に間の抜けた言動をしてしまったりという、意外に“素朴”な部分もあるところが広まっていったようだ。ストリーマーサーバーなどの企画にも欠かさず参加しており、さまざまなストリーマー・実況者と絡み、それまでにない友好関係を築くようになった。彼女の周囲のみならず、ファンのなかでも飾らないナチュラルな人物像に魅了された方はきっと多いだろう。 『VTuber最協決定戦』『Crazy Raccoon Cup』両大会では『Apex Legends』を使った企画を何度となく開催しているが、一ノ瀬はいまのところすべての回に参加している。参加したチームが好成績を収めることも多く、人気・実力ともに備えたVTuberであることは間違いないところだ。 配信を見ていると、『League of Legends』「MONSTER HUNTER」シリーズ『SEKIRO』にホラーゲームとさまざまなゲームをプレイし、初見のゲームでもクリアまであまり時間をかけることなくプレイできてしまうあたりに、彼女のゲームセンス・勘の良さがうかがえる。その時期において流行っているゲームや、プレイしたいゲームに触れつつ、彼女にとってメインゲームといえる『Apex Legends』では冴えたプレイをいまでも見せてくれる。 そういったゲーム配信とともに一ノ瀬の人気コンテンツとして親しまれているのが、雑談配信である。ときに1万人近いリスナーを集める彼女の雑談は、先述したような“無駄に着飾ったりはしない”一ノ瀬うるはのパーソナリティが全開となった内容となっており、多くのリスナーに愛されている。 その飄々とした性格・パーソナリティはぶいすぽっ!の同僚や後輩らからも慕われており、イジリ役・イジられ役として会話に混ざることが多い。たとえば英リサ・八雲べに・小森めと・白波らむねが口火を切った話題に対し、彼女が「それって……」とヒネった視点で会話を広げて少々“ズラす”ことで一気に笑いが起きるのは、もはやぶいすぽっ!の日常風景と言っていいかもしれない。 ■素行不良にジャックナイフ……“どこかにいそうで、どこにもいない”一ノ瀬の深化 そんな一ノ瀬だが、自身の過去を振り返る際には、「昔のあたしはジャックナイフだった」「狭いコミュニティで生きてきた」「新しく友達が入ってくるのも嫌だった」と過去を振り返ることがあり、「デビュー当初は失礼な態度を取っていた」と、当時を思い出して省みることがしばしばある。 実際、デビュー以前・以後に語られた一ノ瀬の身の回りで起こった様々なエピソードも踏まえてみると、彼女のトンデモない一面を知ることができる。その一部をあげてみよう。 ・両親が医者ということもあり厳しく教育され、医者を目指して私立の中高一貫校を受験し入学。だが学校の校風と合わず素行不良に。 ・「学校成績は一切悪いわけではないのに、なぜ授業に出なくていけないのか?」かが分からず授業をサボりはじめる。 ・夏休みに髪を金色に染めてそのまま登校・教員らに叱られるなど、さまざま校則違反を犯した結果、校長や教頭を踏まえた八者面談の後、退学することに。 ・その間、両親からとある山の中にある更生施設に送られ、10代から30代ぐらいまでの人たちと共同生活を送らされる。携帯電話などもなく周囲もヤバい人(一ノ瀬談)しかいなかったため、ストレスで血尿が出るなどして、実家へと帰らされることに。 ・運転免許取得のために教習所に通うも、知らない人たちしかいない空間でご飯を食べられず、トイレでご飯を食べていた。なお、教習所を卒業したが本免許試験に落ちている。 ・自身が住んでいる部屋が非常に汚く、「業者が来て清掃してもらう」レベル。コラボ相手は絶句し、リスナーからは何度となくツッコまれた。 ・友人から誕生日に「『Overwatch』を買ってプレイしてほしい」とウェブマネーをもらったが、意に介さずMMORPGのガチャにつかった。後年、雑談配信で思い出すまでこのことをすっかり忘れており、「あのとき買ってプレイしていれば…」と後悔している。 ・2020年から引っ越しを考えていたが、コロナ禍などのさまざまな要因が重なった結果一向に進まず、結果的に引っ越しができたのは2023年1月。その間も“汚部屋”が続いていた。 ・コラボ配信を控えていた前夜にローストビーフを食べたところ、賞味期限が数日以上オーバーしており、その影響から配信活動を休むハメに。 ・2024年4月に貧血を起こして転んでしまった際に足を負傷した。にも関わらず、病院に行かずにそのままゲームをしていたところ、橘ひなのに一喝されて病院にしぶしぶ行くことに。救急車が必要かどうかがわからず、叱られつつ諭された。 デビュー以前から関優太(当時のstylishnoobやSHAKAといった実況者/配信者を見ていたという一ノ瀬。だが当時はまだVTuberやストリーマーが今ほどの影響力や視聴者を持てていない時期でもある。 「こんな人になりたい」といった明確なロールモデル・理想像がないままにVTuberとしてデビューしたであろう一ノ瀬。そんな事情も、彼女の特異なキャラクターができあがった理由のひとつだろう。彼女はデビュー当時から「やりたいことをやって、話したいことを話すだけ」といったナチュラルかつ尖った姿を見せていた。そこに、現在も変わらぬ“無理に着飾らない”彼女の原型が見えてくる。 デビューから付き合いのある花芽姉妹、白雪レイド、にじさんじ・叶たち。くわえてデビュー前からリスナーとして彼女をみており、現在では同僚としてともに活動するようになったぶいすぽっ!の後輩たちも、たびたび一ノ瀬の“口撃力”に魅了され……そして胸に刺さっていたのだろう。 “無駄に着飾らない”ことにくわえて、今の彼女に通じる魅力といえば、一種の図太さ・無神経さ、言い換えれば肝の据わった性格にあるだろう。 一ノ瀬うるは史上でもっとも「肝が太い」と評価されるシーンといえば、言うまでもなく彼女の初めての生配信だろう。デビューして間もない新人であったにもかかわらず、開始早々にお菓子をボリボリと食べており、先輩である花芽姉妹の話に食ってかかるシーンもある。なにより自身が遅刻したことで配信開始が遅れているのにもかかわらず、なぜかドンと構えたままなのだ。 VTuberの初配信といえば、いまでこそ「初配信では自己紹介をする」「ファンネームなどを決める」「自分の好きなものについて熱く語ってみる」といった定番の内容が儀礼的におこなわれることが多い。だが当時のシーンはいまほど整った環境でもなければ、タレント・リスナーの間にユルい空気が漂っていたのも事実。それゆえに、一概に現在と当時の“当たり前”を比較するのは野暮なのだが……さすがにこの振る舞いには当時のリスナーも驚いたはずだ。 もちろんここまで書いてきたように、いまの彼女は当時とは全く異なる。相手との立ち位置・関係性・タイミングを図りながら、ヒョイと口にする挑発/煽り/ツッコミ/イジリの数々で笑いを生み出すエンタメ力は、ぶいすぽっ!のなかでは比肩する者がいない魅力を持っており、さまざまな場面でハイライトシーンをうみ出してきたのだ。 最近の配信では、橘ひなのとの『League of Legends』配信において、寝起きすぐのローテンションでボイスチャットに入ってきたうえに、自分が見ていた夢の内容についていきなり話しだし、橘ははおろか数千人のリスナーをおいてけぼりにしてしまうという、“一ノ瀬うるは節”を炸裂させていた。ここまでくると、天然という形容では捉えきれない図太さすら感じられるだろう。 テンションが高くキャピキャピとした言動やいわゆる「おしとやかな振る舞い」は、一ノ瀬うるはからはあまり多く出てくるものではない。だが、自身の同僚・後輩・友人には柔和なスタンスをみせつつ、時折生来の尖った言動を炸裂させ、周りを笑わそうとユーモアを挟むように彼女は変わっていったのだ。 かつて筆者は彼女のことを「どこかにいそうで、どこにもいない」と評したが、今の彼女は「どこかにいても、不思議ではない」といった温度感まで深化したようにみえる。その振る舞い・口調・イメージ、なにより言動と実績においてぶいすぽっ!の大黒柱の1人といっても過言ではないほどに成長したといえる。