ぶいすぽっ!で合流を果たした“黄金コンビ” 一ノ瀬うるは&小森めとの軌跡をたどる
快活・ポジティブなる小森めとの肖像
つづいては、そんな一ノ瀬うるはと共に大きくブレイクを果たし、それまでシーンにおいて前例のなかった「事務所間の卒業・移籍」を果たしたメンバー・小森めとについてだ。 小森めとは、774inc.(現:ななしいんく)が運営していたグループ・ブイアパからデビューしたバーチャルタレントだ。2020年5月23日にSNS初投稿、5月30日にYouTubeで初配信をした彼女は、同日デビューした同期・不磨わっととともに『Apex Legends』を頻繁にプレイしており、現在までつづくFPS志向な一面を早くから覗かせていた。 現在の彼女は、ブロンド色の髪をウルフカットにしあげ、赤・オレンジを基調としたショート丈のジャケットを羽織っており、そのルックスからは快活な印象を与えてくれる。実際の彼女もルックス通り、さまざまな場面で明るく場を盛り上げてくれるノリの良さを持ち合わせており、「現在のぶいすぽっ!で陽気なメンバーといえば?」と問われれば、彼女の名前をあげるファンは多いだろう。 さまざまな大会・企画でVTuber・ストリーマーと絡むことが多い小森めと。大会・企画に臨むなかで、新しい友好関係を築き、和気あいあいとしたムードを生み出すのがとても上手な人物である。 一方で、ときに“ズレた”エピソード・感性で周囲を困惑させることもあり、それを目の当たりにしたストリーマー・k4senは「当たり前だと思ってるヤバいこと、まだ絶対あるだろうな」と口にしている。とはいえ、人によっては恥ずかしすぎるエピソードすらも笑い話に昇華できるのは、小気味よい掛け合いで笑いを起こそうとする彼女の姿勢もあってこそだろう。 活気あるイメージ・ポジティブなスタンスが随所に現れるトークの源泉は、彼女が長く続けてきた定期雑談枠「ニチアサ」にある。小森めとのYouTubeチャンネルには専用の再生リストが作られており、その数に準拠すればブイアバ時代から現在まで130回以上に渡って続いてきた名物配信だ。 内容はいたってシンプルで、日曜朝8時から小森めとが約2時間ほどにわたってアレやコレやと矢継ぎ早にトークしていくというもの。オチもなにもない他愛のない話題から、自身の配信について、またVTuberやFPSなどのシーンで話題になっていたトピック、そして自身のプライベートな話題と、思いつくままにテンポよく喋っていくさまは、彼女のイメージ像を固めるのに大いに寄与した。 くわえて、この配信枠ではリスナーとの対話も積極的におこなわれており、イジリコメントに小森が怒ったかと思いきや、ひねりの効いた返しでリスナーを逆に笑わせるといった流れが頻繁に見られる。こうして配信者としての瞬発力を磨きつつ、「ニチアサ」内でなされた小森×リスナーの様々な掛け合いは切り抜き動画などで拡散されてきた。リスナーのコメントを快活に笑い飛ばしていく小森の姿を見て、彼女のことを知らなかったにもかかわらず見事に心を掴まれた……そんな視聴者も多いはずだ。 そして普段の振る舞いからは、小森自身がこの雑談枠をどれほど重要視し、リスナーとのコミュニケーションや繋がりを大切にしているかが伝わってくる。自身の体調が悪ければ早めに「ニチアサ」配信がないことをアナウンスし、ときにはFPS大会や大規模企画と丸かぶりしていても「ニチアサ」を優先していたこともあるほど。 こうした丁寧にコンテンツとして育ててきた甲斐もあって、日曜朝8時という時間帯にも関わらず、平均1万人前後の視聴者数を集めるほどの人気配信である「ニチアサ」。一方で、自身のファンとコミュニケーションを軸にした内容は熱狂を呼んでおり、ときにはいささか刺激的なコメントが投稿されることもある。 そういったコメントを「ボケ」「イジリ」としてうまく調理してしまう小森の配信スキルを評価する声は多く、まったく別の配信で「小森の配信者としてのスキル」「ライン越えなコメントやリスナーへの対処法」について話題が及ぶこともしばしばあるほど。 もちろん、度が過ぎない範囲であれば配信上でのネタとして昇華され、面白く楽しめるかもしれない。しかし、全く関係ない配信で同じようなテンション・内容のコメントをするのはご法度である。つい最近では、デビューしたばかりの紡木こかげの配信にセンシティブなコメントが投稿された際、「小森めとのリスナーだろ」とSNSに投稿されていることを知った小森は、配信の中でこのように語っている。 「こかげちゃんの配信で悪質なスパチャに反論するっていう切り抜きがあって、エゴサしたら『小森めとリスナーだろ』みたいなのがあったんだけど、関係ないから。ウチの配信もウチのリスナーも関係ない」 「めとの配信でやってるノリを他の配信でやるとクソ寒いからやめようねっていう話は再三してる。それでもするやつがいるなら、そいつは話を聞かないバカだから、他人です。めとの話をちゃんと聞いているリスナーはそんなことはしないし、知らないです、そんな人は」 他人に迷惑をかけるコメントについては大鉈を振っていく彼女の言葉は忘れずにおきたいところだ。とはいえ、自身のフィールドに限ってはそれをボケとしてうまく調理し、自身のリスナー・ファンへ注意喚起をしつつ、独特のノリ・ムードを楽しむ姿はさすがだ。彼女に熱い支持が集まる理由がよくわかる。 ■配信・大会を通じて高まった『VALORANT』熱 “黄金コンビ”はどこへいく? 小森めとといえば、『Apex Legends』ではさまざまなレジェンドを使ってプレイしてきた。だがそれ以上に驚かされるのは、どのキャラクターを使っていてもそのエイムにはブレがないことで、様々な場面でチームを助け、驚きのハイライトをいくつも生んできた。 そんな彼女だが、意外にも『Apex Legends』の大会・企画で優勝したことがない。この事実には、ファンはおろか本人も驚くかもしれない。Crazy Raccoon所属のありさか、ふらんしすこの2人と組んで出場した2021年9月の『REIGNITE CUP』での2位が最高順位なのだ。 しかもこの大会はゲーム内のエラーが重なった結果、本来のバトルロワイアル形式ではなくアリーナ形式として開催されており、普段とはまったく別のバトル内容であった。 そんな彼女が優勝した大会・企画は、すべて『VALORANT』。2023年6月に開催された『VCC VALORANT』と11月に開催された『VTuber最協決定戦 Ver.VALORANT Act.1』でそれぞれ優勝を果たしている。 それまでも何度か『VALORANT』を用いた大会には出場しており、本人いわくそれまでは「ふんわりやっていた」のだが、第6回『Crazy Raccoon Cup』でClutch_Fiからコーチングを受けたことが、彼女に変化をもたらしたようだ。 大会は3位で終わったものの、Clutch_Fiが「オレが育てた」と語れば、小森も「今までふんわりやってたけど、Clutch_Fiさんが根元の部分まで教え込んでくれた。間違ってはない」と返しており、良好な師弟関係の甲斐もあって、後日開催された『VTuber最協決定戦 Ver.VALORANT Act.1』での優勝に繋がった。 その影響もあり、今年に入ってから小森は『VALORANT』の公式インターナショナルリーグ『VALORANT Champions Tour 2024』(VCT)の『VCT Pacific』をミラー配信するようになっている。以前から『VCT』を観戦していることをSNSに投稿はしていたが、Clutch_Fiの薫陶をうけて一気にゲーム理解度があがったおかげで、配信ネタとして取り上げようと判断したのだろう。これは一つの変化と言っても過言ではない。ちなみに小森が愛しているのはPaper Rexのd4v41選手だそうだ。 こうして現在活動する彼女だが、冒頭で述べたように2023年2月1日にななしいんくから卒業、ぶいすぽっ!への移籍を果たしている。小森本人から移籍について相談をうけた当時のななしいんく運営スタッフが、ぶいすぽっ!運営スタッフと相談・オーディションを経て正式に合格したという流れだ。それに伴い「小森めと」という名義、それまで使っていたYouTubeチャンネルやSNSアカウントなども以前と変わりなく使うことができ、以前の事務所に所属していたころの配信アーカイブも見返すことができる状態だ。 以前の記事で分析させてもらったが、それまで前例のなかった「移籍」という形でぶいすぽっ!へ加入できたのは、彼女自身の強い意志があったこと、両事務所が小森めとの活動をリスペクトし尊重したこと、なにより「小森めと」が配信者としてが傑出した影響力を持っていたことにあると考えられる。 ストリーマーやVTuberがスクラムを組むように産み出してきたこの独特なムーブメントにおいて、小森めとが存在感を発揮していたことは、VTuber~ストリーマーファンならば共感できる部分があるだろう。 一ノ瀬は2019年4月から、小森は2020年5月から、それぞれに活動をスタートしたわけだが、2人が揃って駆け抜けたこの約4~5年ほどは、まさにストリーマーやVTuberが共になってシーンを盛り上げてきた期間であり、2人はそのど真ん中を駆け抜けてきたのだ。 だからこそ、小森めとが自身の盟友である一ノ瀬うるはが所属するプロジェクトへと移籍を果たしたことは、驚きはあれども納得の流れである。これまでシーンを彩ってきた“黄金のコンビ”が、今後どのような活躍を見せてくれるのか。ファンならずとも非常に期待するところだ。
草野虹