ルポ・若者たちの都知事選2014 第一回・大学を飛び出してきた選挙スタッフ
東京五輪や原発問題が争点となった2014年の都知事選。それぞれの想いを胸に選挙活動に参加した若者たちがいた。彼らは何を考え、どのように行動したのか。若者たちの選挙に捧げた17日間を追った。(河野嘉誠)
1月31日午後5時。厳しい寒さにも関わらず、JR新橋駅前のSL広場には人々の熱気が充満していた。聴衆の熱い眼差しの先に、二人の元首相が立っていた。細川護煕と小泉純一郎ーーー歴代総理の中でもとくに人気の高かった二人は、「脱原発」のためにタッグ組み、今回の都知事選に挑んでいた。 政治から遠ざかっていたとはいえ、「改革派」として知られたかつての総理大臣たちの人気は根強い。細川氏が首相を務めたのが20年前というのもあってか、演説を聴いている人々の顔ぶれはそれほど若くはない。 「危ないので後ろに下がってください」。警察官の声を背中にうけながらそこら中を歩き回っていると、緑のジャンバー姿でビラ配りをする一人の青年に出会った。
選挙権なし、給与なし、取得単位もなし…?
木村和浩、20歳。地方の国立大学に大学に通う木村は、大学を休み、細川陣営の選挙ボランティアに参加した。「このチャンスを逃したら次はない」と、大学のある地方都市から飛び出してきた木村だが、都民でないため知事選の投票権はない。 選挙期間中は、実家のある宇都宮市から毎日電車で片道2時間以上をかけ、千代田区にある細川氏の選挙事務所に通った。早い時は朝4時に起床する。交通費は片道だけで2000円近くかかる。当然ながら、選挙ボランティアに交通費や給与は一切支給されない。 「理想をど真ん中で実現する二人の力になりたくて」。選挙権なし、給与なし、取得単位もなし(?)ーーー”三重苦”をものともせず、木村は選挙活動に没頭するのだった。
選挙権はなくても、声はあげられる
これまでも「脱原発」の必要性は感じたという木村だが、特定の党や候補者を支援しようという考えはなかった。「脱原発」という言葉が、「党利党略や私利私欲のために」利用されていると感じていたからだ。 しかし、細川氏と小泉氏の登場により木村の考えは変わった。すでに地位や名誉のある二人が立ち上がった理由は何か。首相在任中に原発を推進してきた二人だからこそ、自らの手で原発に幕を引く責任があると思ったのではないか。木村はどうすれば自分が二人の力になれるかを考えた。 「自分は20歳になった。ただ都民ではないため投票することはできない。しかし、声をあげることならできる。そういう発想でやっています」。