戦争の「終わりのない苦しさ」を描く映画『コヴェナント／約束の救出』【米倉涼子の新作レビュー】
米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。 【場面写真】アフガニスタンの戦争を描く『コヴェナント/約束の救出』
激しすぎるアクション映画はあまり得意ではありませんが、ガイ・リッチー監督の作品は大胆で軽妙なニュアンスがあるところが好きなんです。 新作が届いたら観たいなと思っていたので、チェックしたのが『コヴェナント/約束の救出』。 実話をもとにしているということを知ったうえで観たのですが、今までの監督作とはまったく違うタッチに驚かされました。 エンターテイメントとしての面白さを追求した作品というよりも、社会派の題材を描いた考えさせられるサスペンスになっています。 舞台になっているのは2018年、アフガニスタン。 米軍のジョン・キンリー曹長はタリバンの武器や弾薬の隠し場所を探す部隊を率いています。 優秀なアフガン人の通訳、アーメッドを雇い、爆発物製造工場を突き止めるのですが、タリバンからの激しい襲撃で多くの命が失われてしまいます。
瀕死の重傷を負ったキンリーを救い出したアーメッドが、山のなかを進んでいくシーンの過酷さは想像を絶するものでした。 通訳の人たちへの報酬として約束されているのは、アメリカへの移住ビザ。 アーメッドも家族を連れてアメリカに渡りたいという強い思いがあるからこそ、キンリーを救ったのだと思いますが……ただ、歩くことができないキンリーを運んでいる途中でタリバンに見つかったら、自分も殺されてしまう。通訳として働いていた彼にとっては、ものすごい覚悟をともなった行動ですよね。
キンリーはアーメッドに命を救われて、家族が待つアメリカへと帰国します。 アーメッドがタリバンに狙われたまま行方不明になっていることを知った彼が選択したのは、再びアフガニスタンに戻って命の恩人であるアーメッドを探すこと。 ここから先は、ふたりの“約束”をめぐる物語が描かれていきます。
この映画を観ながら、タリバンについても知らないことばかりだなと思い知らされました。タリバンとはいつどこで結成された組織で、どんな風に静かに大きくなっていったのか。 どんな方法でアフガニスタンの人々を支配下に置くようになって、女性の権利をどこまで制限しているのかーー。 この映画では帰国したキンリーが戦場でのトラウマを抱え、苦しむ姿も描かれています。 アメリカとタリバンそれぞれの正義がぶつかり合って、終わりが見えないような苦しさも感じました。 もっと歴史や宗教、文化について学ばなければと思わせてくれることも、映画の持つ力だと思います。 取材・文/細谷美香 構成/片岡千晶（編集部）
米倉 涼子
