狙い目は女性用アンティーク腕時計? 時計業界のジェンダーフリー、ここまで来た!
機械式腕時計のユニセックス化が急速に進んでいる。女性用として作られた腕時計を積極的に選ぶ愛好家がなぜ増えてきたのか? 時計ジャーナリストの広田雅将が考察する。 【写真を見る】IWCとパネライのユニセックスモデル
今、男性が女性の腕時計を着けるのが熱い?
筆者は『GQ JAPAN』の4月号で、非常に興味深い座談会を翻訳した。座長は女性向け時計フォーラム“Dimepiece”の創設者であるブリン・ウォールナー。彼女が時計業界の女性リーダーたちと、時計の世界における女性の進出を忌憚なく語るという内容だった。時計の世界に男しかいなかった時代を思えば、隔世の感がある。 もっとも、昔も時計に興味を示す女性たちはいた。筆者の知る限り、その萌芽は1990年代だ。この時代、一部の女性たちはこれ見よがしに男性用の腕時計を着けるようになった。ジェンダーフリーが取り沙汰されるはるか前のことだ。 彼女たちは理由をこう語った。「男性用のほうが、女性用の時計よりかっこいいから」。女性用の腕時計は、男性用のそれに比べてケースと文字盤が小さい。そのため、時間を読み取りやすくしたいなら、針とインデックスを大きくせざるを得ない。腕時計の見た目はどうしても、少女漫画の主人公っぽくなってしまうだろう。かっこよさを求める一部の女性たちが、いち早く男性用の腕時計に目を向けたのは当然だった。 それから四半世紀。一部の時計メーカーはユニセックスを謳うようになり、男性用と女性用の腕時計は、サイズやデザインもほぼ同じになった。仮に女性を意識したモデルでも、ケース径25mmといったモデルは数を減らし、かつてなら男性用とされた大ぶりなケースに女性好みのディテールをあしらったモデルが見られるようになったのである。 好例は、直径40mmのケースにムーンフェイズを加えた「ポートフィノ・オートマティック・ムーンフェイズ」だろう。IWCは女性向けとは明言しないが、男性向けの腕時計ならば、ムーンフェイズにはカレンダー表示を合わせるのが定石だ。日付表示を持たないムーンフェイズは、このモデルが女性ユーザーに向けたことを示している。 こういう変化を受けて、一部の男性たちは、新しい着けこなしを取り入れるようになった。つまり、女性用の腕時計を好んで巻くようになったのである。なるほど、インデックスや針のバランスが、かつての男性用と変わらなくなれば、例えばケースにダイヤモンドをあしらった、文字盤がピンクの女性向けモデルであっても、男性は着けられるだろう。しかもカラフルな文字盤を選ぶとなれば、明らかな男性用よりも、女性を意識したモデルのほうが、バリエーションは豊富なのである。