狙い目は女性用アンティーク腕時計? 時計業界のジェンダーフリー、ここまで来た!
女性用アンティーク時計に注目すべき理由
今起こっている変化は、さらにもう一歩先にある。さらにめざとい男性たちは、直径30mmといったかつての小さな男性モデルに目を向けるだけでなく、より小さな、明らかに女性用として作られた腕時計を巻くようになったのである。 理由は、30年前の一部女性と真反対だ。曰く「小さい方がかわいいから」。 別の理由を述べるコレクターもいる。値段が高騰する男性用のアンティークに比べて、まだ女性用は価格が控えめだから、というものだ。数を揃えたがるコレクターたちが、手垢の付いていない女性用のアンティークに目を向け始めたのも納得ではないか。 では今後、こういったトレンドはどうなるのか。20年前を思い出して欲しい。出たばかりのパネライを着けた女性たちを見て、一部の時計好きたちは「アレは男性用、女性に似合わない」と酷評した。しかし、今や、パネライを牽引するのは明らかに女性を意識した「ルミノール ドゥエ」だ。直径38mmとわずかに小さくなったとはいえ、あのパネライが、女性から強い支持を集めるようになるとは、誰が想像できただろうか? と考えれば、女性用の時計を腕に巻く今の男性も、同じではないか。今眉をひそめる時計好きがいたとしても、20年後はどうなるか分からない。しかも、スマートウォッチの普及で、腕時計は今まで以上にアクセサリーと見なされつつあるのだ。であれば、今後ブレスレットと見まごう昔の女性用アンティーク腕時計が市民権を得ても、決しておかしくはないだろう。 ちなみに、1930年代に入るまで、腕時計は女性が着ける物と考えられていた。男性ならば、三揃えのスーツに懐中時計を合わせるべし。しかし、その後は皆さんもご存じの通り。腕時計自体がジェンダーの差がないアイテムだったと考えれば、今や女性用と男性用の壁がなくなり、女性が男性用を、男性が女性用の腕時計を着けるのは自然かもしれぬ。個人的には大歓迎だが、出来の良い女性用モデルの価格が高騰したらどうしよう? 悩める男性陣たちよ、ぜひ買える内に女性用のアンティークを買っておきましょう。
広田雅将 時計専門誌 『クロノス日本版』編集長 1974年生まれ、大阪府出身。時計ジャーナリスト。『クロノス日本版』編集長。大学卒業後 、サラリーマンなどを経て2005年から現職に。国内外の時計専門誌・一般誌などに執筆多数。時計メーカーや販売店向けなどにも講演を数多く行う。ドイツの時計賞『ウォッチスターズ』審査員でもある。 ILLUSTRATION BY OSUSHI MUROKI 文・広田雅将 編集・神谷 晃(GQ)