京大初のプロ野球選手は誕生するか?
確かに東大卒のプロ野球選手は、過去に5人いるが、そのうち中日の井出峻さんとダイエーの小林至さんなどは、フロントマンとして活躍している。京大初のプロという注目度と、プロのトレーニングで体が出来ていった後のノビシロ、そしてフロント候補生という付帯部分を期待値に置き換えれば、プロ指名の可能性が高まってくる。ただ、肝心の田中自身が、まだプロ志望を明言していない。今春のリーグ戦前には、「春の結果を踏まえて考えたい」と語っていた。4勝5敗だったが、防御率は1点台。しかも、昨秋よりも、スピードが増したという評判だ。結果は、プロ志望を決断させるに十分なものだったが、この日、田中は、「今、終わったばかりで正直何もいえない。もう少しゆっくりと考えさせてもらいたい」と、プロ志望の結論を保留し た。 現役で京大工学部に合格している“理系男子”だから、民間企業へのリクルートに舵を切れば、それこそ引っ張りタコだろう。田中が人生の大きな決断を迷うのも無理はない。しかし、京大野球部の監督で、京大の防災研究所の教授でもある寶馨さんは、「あくまでも結論を出すのは本人の意思次第」と前置きした上で、プロへのススメを説く。「人生は長い。定年も65歳に延びている時代です。若いうちに、ぜひプロへチャレンジしてもらいたい。今は理系の人間が、あらゆる社会のリーダーになっている時代です。理系のマインドというものが必要とされています。彼は、それを分析力という形で野球に生かしている。もちろん、プロでやるには課題はたくさんあるでしょうが、自分の持っている能力を活かしチャレンジをしてもらいたいと僕は考えています」 京大の“快進撃”を引っ張ってきた指揮官の応援は、田中の決断に影響を与えるだろう。だが、田中にとって人生での挑戦の前に、秋季リーグでの大きな挑戦が残っている。「一番上が一度は、見えました。弱いところを見つめなおし、全員で優勝を狙うための力に僕もなれればと思っている」。田中は、堂々と、そう宣言した。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)