【MLB】バットスピード、スイングの長さ 打者の特徴を楽しめる新たな指標
MLBが先月データサイト「ベースボールサバント」でバットの動きに関する大量の情報を公開し始めた。各球場に設置された高速カメラを利用したもの。これによって私たちが野球を見る目はさらに科学的に研ぎ澄まされていくのだと思う。 興味深いのは5月28日までの時点で最もバットスピードが速いのがヤンキースのジャンカルロ・スタントンで80.5マイル、最も遅いのがパドレスのルイス・アラエスで62.4マイルだということ。だがアラエスは昨季打率.354を記録し2年連続の首位打者、通算打率は.324だ。一方でスタントンは昨季が.191、今季は.235。違いはどれだけ芯でとらえられているかで、アラエスはリーグ1位の45.5%、スタントンは21.1%に過ぎない。このデータだけを見ると、スイングが速くても正確さがないと意味はないとなってしまう。 しかしながら今後このデータがもたらすであろうインパクトは逆で、多くの選手がバットスピードの向上を求め、そのためのトレーニングに主眼を置くことになるだろう。バットを速く振れば振るほど、ボールに大きなエネルギーを伝えられ、強い打球がより遠くまで飛び、結果、長打率が上がるからだ。 「ベースボールサバント」は75マイル以上を速いスイングと定義しているが、これはMLB全体の約23%。そして速いスイングが生み出す打撃成績は打率なら3割、長打率なら6割を超える。アラエスのようにスイングが遅くても傑出したバットコントロールを持つ選手はまれな存在で、球団は速い球を投げる投手を求めるように、速いスイングの選手を獲得したいと考える。 ちなみにドジャースの大谷翔平のバットスピードは75.4マイルで15位。トップ20には、ヤンキースのフアン・ソト、アーロン・ジャッジ、アストロズのヨルダン・アルバレスなどの優れた打者がいる一方で、タイガースのハビエル・バエス、エンゼルスのジョー・アデル、カブスのクリストファー・モレルなど低打率の打者もいる。 さらに興味深いのはスイングの距離。始動からインパクトまでで、平均で一番長いのはバエスで262センチ、短いのはアラエスで180センチ。メジャー平均は222.5センチで、大谷は平均よりも長い231.6センチだ。一般にスイングが長いほうが長打率は上がるが空振りも多くなる。 短いほうが打率は高いが、長打は増えにくい。大谷の同僚ムーキー・ベッツは小柄だが、スイングも210センチと短く、バットスピードも69.3マイルで平均以下だ。しかし芯でとらえる能力は38.2%の全体3位で、今季もOPS.954は6位とエリートレベル。それでも向上心旺盛な彼は、近年バット速度を上げることをオフのトレーニングの目標にしている。 もう一人の同僚で強打者のフレディ・フリーマンは大谷より長身の196cmだが、実はスイングは約207センチとベッツよりも短く、バット速度も69.9マイルと速くはない。だから打球速度はエリートレベルではないが、三振も少なく、堅実で二塁打が多い打者として長く活躍している。 新たな指標で、より適切に打者の特徴を見定め、楽しむことができるのである。 文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール