問題指摘相次ぐ「あいちコミュニティ財団」は信頼を取り戻せるか
市民とのコミュニケーション欠く財団運営
しかし、全国コミュニティ財団協会は事態を重く見ました。4月3日にはあいちコミュニティ財団は同協会の中部ブロック代表の役割を担っていましたが、4月3日にそれを解任しました。協会理事の石原達也さんは、取材に対し「寄付に関する規定が定められておらず、運用をチェックする機能もなかったことは問題」と答えました。また、「寄付金の流用により、本来であれば財団が地域の団体へ助成をしなければいけないタイミングに助成ができない事態を生んだ可能性もある」とも指摘しています。 「詳細な事実関係については確認中ですが、資金繰りのため一時的に流用するとしても、助成事業に影響が生じないように、理事会や監事が議論を尽くすことが重要です。財団内部や寄付者との間で丁寧なコミュニケーションがなされていたのでしょうか」。石原さんは疑問を口にします。 協会は、各地のコミュニティ財団が自ら運営の透明性や正確性を向上させることをねらいとして、組織運営に関するガイドラインを策定。寄付金取扱規定、就業規則など運営全般にわたる約40の規定類の雛型を作成し、各団体に導入を勧めています。さらに、今夏からは規定類の運用を確認する第三者認証のしくみも導入する予定です。 「あいちコミュニティ財団でも、このガイドラインを参考に規定を整備している途上だった」と戸枝さんは語ります。「他のコミュニティ財団は寄付者と強固な信頼関係を築き、地域に必要な事業に資金を届けています。真摯に見習いたいと考えています」。 しかし、あいちコミュニティ財団には再生に向けた具体的なビジョンは未だありません。「少しずつ事業を拡大していくのか、それともいったん立ち止まってからやり直すのか。理事や評議員の間でも意見が分かれている」。戸枝さんは苦悩の表情を見せました。
根強いコミュニティ財団への期待の声
不祥事や問題の指摘が相次ぐ財団を、寄付者や助成を受けた団体はどのような目で見ているのでしょうか。 「スキャンダラスに報道されることが多く、財団スタッフは辛いと思います。でも、これで終わっては地域に寄付文化が根付くことはありません。あいちコミュニティ財団は設立時の原点に立ち返り、再起してほしい」。寄付などを通じて財団に協力してきたある会社社長はこう語ります。 財団の不祥事が取り沙汰される中、それでも寄付者や助成を受けた団体、財団に関わったボランティアは「一人ひとりがお金を出して地域のために使う仕組みは大切」「必要とする人にお金や人をつなぐ機能は地域に必要」などと口にしています。 財団の助成プログラムに参加した福祉系のNPOは「助成金をもらうだけでなく、会社員や行政職員の方など、たくさんのボランティアが活動を手伝ってくれました。おかげで新しい事業を軌道に乗せることができました」と話します。助成が終了した後も関係は続き、今もボランティアに活動の相談にのってもらっているといいます。 財団を通じてNPOにボランティアで関わったという男性も「会社員生活では出会えない人に会える魅力的な活動でした。本業の情報システムの知識を生かしたお手伝いで喜ばれるのもうれしかったです」と語りました。 同時に、財団を案じる声も聞かれました。助成を受けた別の団体は「財団スタッフと信頼関係を築けた頃に退職してしまい、担当者が代わることがよくありました」と、職員の定着率の低さを憂います。「パワハラで問題となった前代表は、新事業を起こす企画力や実行力には目を見張るものがありましたが、マネジメントは苦手だったのでは。これからは地域のために熱心に働く財団スタッフが、長く働き続けられる体制を整えて欲しいです」と要望しています。 「現在の理事や評議員は、スタッフを入れ替えることでゼロの状態から財団をやり直そうとしているように見えます」。財団でボランティアをしていた男性は、「継続性」という観点から、新執行部への懸念も口にしました。「また一緒に頑張りたいと思っている人も少なくないはず。今までに助成を受けた団体やボランティアの声も聞いてもらいたい」と話します。 「先日は新しくボランティアを募集していると聞き、内容を見て驚きました。ボランティアスタッフにも謝金を出すとあったのです。以前の私たちは逆に財団に賛助会員費を“払って”ボランティアをしていました。自分も財団やNPOの仲間になって一緒に活動したいと思ったからです。その気持ちを分かってもらえなかったのかと寂しく感じます」。 設立から6年、多額の寄付金を集めてきたあいちコミュニティ財団ですが、その金額以上に財団を支えていたのは多くの人の思いと行動でした。関係者からは「寄付や助成金を通じて、地域で新たな人とのつながりを得られたことが一番の存在意義だ」という声が聞かれました。 財団は今後、法人運営経験のある評議員が経営に携わることで立て直しを図っていく方針です。しかし、真に求められているのは前代表のような強いリーダーシップではなく、寄付者やボランティア、助成先団体など、地域の人の意思を尊重したコミュニティ財団ならではの運営ではないでしょうか。 (石黒好美/Newdra)