「自由なウクライナ」を守るため戦場に散った、ただ一人の中国人義勇兵
<中国でも自由と民主主義の信奉者として勾留された彭陳亮は、釈放後、ウクライナに向かった。ウクライナの外国人義勇兵のなかでは、知られている限りただ1人の中国人だった>
ウクライナ兵とともにロシア軍と戦っていたただ1人の中国人義勇兵、彭陳亮(ペン・チェンリャン)が戦死したと、情報筋が伝えた。 【画像】猫を抱いて微笑む生前の彭陳亮 29歳の彭は、権威主義体制への怒りから、今年に入ってロシアとの戦いに加わることを志願。ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団に加わった。 何千人もの外国人義勇兵がウクライナ、ロシア双方のために戦っている。数は不明ながら、ロシア軍に加わった中国人が複数いることは分かっているが、ウクライナ側についた中国人は彭以外には知られていない。彭が実際にウクライナ軍に加わった唯一の中国人かどうかは、本誌の調査では確認できなかった。 「哀悼 ウクライナで戦っていた中国籍の志願兵、彭陳亮が戦闘の最中で尊い命を失った」──11月10日にフェイスブックにそう投稿したのは、台湾の主要都市・台北にあるキリスト教長老派の教会・済南教会の主任牧師を務める黄春生(ファン・チュンシェン)だ。 黄によれば、彭は今年4月にウクライナに到着し、外国人志願兵から成るウクライナ外国人部隊の第1歩兵大隊に配属されたという。 中国で弾圧を受ける 中国南部・雲南省出身の彭は、3人の台湾人志願兵がいる第2大隊への移籍を希望していたが、配属替えになる前にロシア軍の砲撃で死亡した模様だ。 彭は台湾の自由と民主主義を支持していたと伝えられ、孫文の三民主義に由来する青、赤、白の台湾の旗の下、「自由なウクライナ」に骨を埋めたいと述べていたと、黄はつづっている。 黄によれば、彭はX(旧ツイッター)への投稿が、反ロシア、反共産主義、親台湾と見なされて中国当局に7カ月間拘留され、釈放後に祖国を後にした。ウクライナ到着後に出会った同胞の中国人に諸手続きを手伝ってやると言われて数千ドルをだまし取られ、途方に暮れていたところをウクライナ人と台湾人義勇兵に助けられた。 彭が亡くなる1週間ほど前には、第2歩兵大隊にいた3人の台湾人義勇兵の1人、呉忠達(ウー・チュンタ)の戦死が伝えられた。ウクライナ戦争で死亡した台湾人義勇兵は、呉が2人目だ。 台湾の陸軍特殊部隊の退役兵である44歳の呉は、ウクライナで外国人部隊に加わって半年後にウクライナの正規軍に配属され、激しい攻防戦が続くウクライナ東部ルハンシクで11月2日、ロシアの砲撃を受けて死亡した。 進む中ロの連携強化 本誌の取材で、黄は彭に関する情報を、中国の民主派を支援する台湾のボランティア団体から入手したことが分かった。彭は生前、この団体にテキストや音声のメッセージを送っていた。黄は3人目の台湾人がウクライナで戦死したという噂を聞きつけ、この団体に確認したところ、3人目の戦死者は中国本土の出身者であることが分かったという。 本誌は中国とウクライナの外務省にもメールでコメントを求めている。 中国は台湾を領土の一部と見なし、「祖国統一」の悲願達成を誓っているが、中国共産党政権が台湾を統治したことは一度もない。 中国政府は公式にはウクライナ戦争に中立の立場を取っているものの、この戦争を「ロシアによるウクライナ侵攻」と呼ぶことは控えている。中国はまた、NATOの東方拡大にロシアが「合理的な懸念」を抱いたことに理解を示し、インターネット上ではロシアを批判する反戦的な投稿を検閲している。 ウクライナ戦争勃発後、中ロの経済・軍事的な絆は深化の一途をたどってきた。「限界なき」友情で結ばれた両国の貿易額は記録的レベルに達し、国際社会の対ロ経済制裁の打撃を弱めている。中国は軍事転用可能なハイテク機器などをロシアに提供してもいる。
マイカ・マッカートニー