「子どもが社会に出て得る賃金を狙う親が…」『零れるよるに』が描く 零れ落ちてしまう子どもたちの物語
漫画家を目指したのは30歳を過ぎてから
――有賀先生が漫画家になったきっかけも教えてください。 有賀 私が漫画家になったのは30歳を過ぎてからなんです。幼い頃から漫画家に憧れていたけど、社会に出て会社勤めをしていました。当時は『のだめカンタービレ』(講談社)が人気で、職場の同僚から借りて私もハマったんです。そのうち単行本になるのが待ちきれなくなって雑誌を買うようになったら漫画の新人賞があることに気が付きました。30代の方も投稿されていたので、「私も漫画家になりたかったな」と勇気をもらって30歳を過ぎてから初めて漫画を描き始めたんです。 ――会社勤めをしながら漫画を描くのは大変そうですね。 有賀 そうなんです。夫に内緒だったから、「ちょっと部屋に籠るね」とだけ伝えて帰宅後に2時間くらい描いてました。そうして3カ月かけてアナログ原稿を完成させたら、その作品が入賞したんです。それで「漫画家になれる!」と舞い上がっちゃって。 しばらくして「漫画家を目指す」と勢いで退職してしまいました。会社の人もあきれていたかもしれません(笑)。実際になれてよかったです……。 ――そこから漫画家デビューしていくんですね。 有賀 デビューしてからは読切漫画を3回、そして『オールトの雲から』の連載、次が『パーフェクトワールド』です。 今思い返すと、投稿していた時も、認知症の親をワンオペで介護する主人公の話など、シリアスな物語の方が編集部の評価が高かったです。もしかすると日常にある人の痛みを作品として伝える方が、描く側としては向いていたのかもしれません。
自分と違う環境で育った人がいることを理解して
――今後は『零れるよるに』をどんな作品にしていきたいですか。 有賀 以前別のインタビューで「この作品で子どもたちに何を伝えたいですか」と聞かれたことがあるのですが、伝えたいことがあるとするなら、子どもではなく大人だと思いました。今の厳しい環境に置かれている子どもたちに思いを馳せるきっかけになると嬉しいですね。そして、自分と違う環境で育った人に対して関心を持つ。あるいは、持つまではいかなくても存在を知ってほしいです。「子どもを愛さない親なんていない」とか、「子ども時代に受けた傷をいつまで引きずっているの」とか、世の中では安易に言いがちなところがありますけど、そういう思いを簡単に口にできない状況の人がいるってことを感じてもらえたら嬉しいです。 取材を通していろんな問題が解決されていないままだと感じたので、私はできるだけ世間から関心を持ってもらえるように、漫画としての面白さを大切にしつつ描いていきたいです。 有賀リエ(あるが・りえ) 長野県出身。読切漫画『天体観測』で「Kissゴールド賞」を受賞し、デビュー。初連載は、天文サークルに所属する大学生の恋を描いた『オールトの雲から』(講談社)。『パーフェクトワールド』(同)は車いす生活を送る男性との恋愛を描き、話題に。累計200万部を突破し、第43回講談社漫画賞少女部門を受賞した。ほかに性暴力の加害者・被害者の子ども同士が惹かれ合う『有賀リエ連作集 工場夜景』(同)がある。
ゆきどっぐ