「子どもが社会に出て得る賃金を狙う親が…」『零れるよるに』が描く 零れ落ちてしまう子どもたちの物語
零れ落ちてしまう子どもたちの物語
――『零れるよるに』というタイトルに込めた思いを聞かせ下さい。 有賀 世間から零れ落ちてしまう子どもたちのお話なので、『零れるよるに』というタイトルにしました。心情的にも我慢して零れてしまう気持ちがあると思うので。 あとは全体の世界観として夜のイメージがあるんです。漫画で深くは描いていないですけど、児童養護施設では夜になると強烈な不安に襲われる子が多いそうなんです。だからタイトルと主人公の名前につけました。 主人公の「よる」は、本当の名前は漢字で「夜」なんですけど、漫画で夜の場面を描くとわからなくなるから、ひらがなにしています。彼女は愛情に飢えていることをシンプルに表現していて、私も気持ちに寄り添える気がします。本当に寂しくて愛情が欲しいんだろうなと思いますね。 ――天雀くんの名前の由来は何ですか? 有賀 思いつきなんですよね。なんとなく格好いいなと思って。天雀ってひばりという意味があるんですけど、ひばりは朝の鳥なので、主人公のよるにとって朝の存在になれたらいいなという思いを込めています。 ――2人は千葉県の外房に住んでいるイメージなんですよね。 有賀 外房は海が美しくて個人的に大好きな場所なんです。でも都会と比べるといろんな意味で不便な場所ですし、選択肢も少ないです。景色がいいだけでは済まされない側面もあるのだと思いながら描いています。
必要以上にエピソードを盛らない“漫画道”
――有賀先生は『パーフェクトワールド』や『工場夜景』といった社会問題をテーマとした漫画が話題ですが、もともとそういう漫画が描きたかったんですか? 有賀 もとはラブコメを描こうと思っていたんですよね。最初に連載した恋愛漫画『オールトの雲から』はまさにラブコメ作品で、私はノリノリで描いていたけど、評判があまりよくなくて打ち切りになりました。 その頃に、当時の編集長から「有賀さんは、恋愛とは別に何か題材があった方がいいのでは」と障害をテーマにした恋愛漫画の提案を受けて『パーフェクトワールド』に取り組んだんです。掲載紙の『Kiss』(講談社)では障害をテーマにした作品に度々取り組んでいて、これまでに聴覚障害を描いた『君の手がささやいている』や、男女の性別が判断しにくい体に生まれた『IS(アイエス) ~男でも女でもない性~』を掲載してきていた実績がありましたから。 それでやってみたら、いろんな人に取材をして漫画に落とし込むやり方が、自分に案外あっていたんですよね。 ――有賀先生の漫画は当事者の方からも「現実に近い心理描写がされている」と好評ですが、取材方法などに秘密があるんでしょうか? 有賀 展開に応じて必要以上にエピソードを盛らないことを大切にしてきた、というのはあるかもしれません。「こういう風にしたら話が盛り上がる」というイメージが最初に出来上がる時もあるんですけど、取材して現実と違うようであれば、そちらは書かないようにしています。