生物多様性が日本経済21兆円を直撃? ── 名古屋議定書をめぐる諸問題
生物多様性条約締約国会議が韓国・平昌(ピョンチャン)で始まりました。生物の多様性や生態系の保全、その持続的な利用を話し合う場として注目されています。その一方で同条約に関連する「名古屋議定書」を巡る話し合いが、日本経済21兆円に影響するインパクトがあるかもしれないという懸念も出されています。産業界は「経済的な性質を持つ取り決めなのに、事前の調整もなかった。議定書を批准すべきでない」と政府に要請していますが、これにはどういう事情があるのでしょうか?
名古屋議定書とは?
「名古屋議定書」は、世界の生物資源や遺伝資源の利用について、先進国と発展途上国の間の利益配分を定めています。2010年10月、名古屋市で開かれた同条約会議で採択されたので、名古屋の地名が冠されています。同議定書は、企業が医療品や食品を開発するにあたり、途上国の遺伝資源や生物資源を使った場合、企業の売上の一部について、資源を提供した国に分配するというルールを定めています。 遺伝資源や生物資源は、発展途上国に多く、これを利用するのは先進国が多いことから、事実上、先進国が途上国に対して利益を分配する仕組みとして機能します。分配された利益は「生物の多様性や生態系の保全のために使いたい」という趣旨が議定書に盛り込まれています。 名古屋議定書は、2014年になってアフリカ諸国を中心とした50か国以上が批准したため、今年10月12日に発効します。日本はまだ批准していないのですが、2012年の民主党政権時代に閣議決定がされているので、議定書の仲間入りは既定路線となっています。
日本経済にどう影響?
これがどう日本経済に影響するのでしょうか? たとえば日本企業がフィリピンから果物の種子を買い、それを元に果実を販売した場合、フィリピンは「生物の多様性のため」に、日本企業に利益の分配を要求するようになるのです。フィリピンは議定書の発効に先立って、すでに売上の2%以上を分配金として設定すると大統領令で決めています。 ほかにもワクチンなどの医療品を開発するために必要な微生物、食肉をつくるための種牛、これらも生物資源や遺伝資源であるため、利益を分配しなければならなくなります。しかも、名古屋議定書は、利益分配の適用対象となる生物資源や遺伝資源を手にした時期について明文化していません。これがさらに問題を大きくしています。 現在だけでなく、昔にさかのぼって利益分配を求められるという主張を「遡及性の適用」と言います。もし、この遡及性が適用されると、日本国内では食料品や医療品、化粧品など「最大21兆円の産業規模に影響がある」と産業界は試算しています。特に利益率の低い中小企業の経営には大きな影響が出ると懸念しています。