伊豆見香苗さんの絵本「えっびっ このこ だいっきらい」 子どものまっすぐな気持ちを受け止めてくれる人気キャラクターが大暴れ!
いい子じゃない主人公が成長していく過程を描く
――下の子のことを「このこ」と呼び、意地悪ばかりする「えっびっ」には、いつも大切に抱えているぬいぐるみがいる。この「えびてんくん」は、「えっびっ」と一緒に怒ったり泣いたりしていて、下の子との距離を縮めるキーポイントにもなっている。 主人公にとって「えびてんくん」は、イマジナリーフレンドとして描いています。さびしいときに心を支えてくれる味方として、一緒に悪さをしてくれたり、寄り添ってくれたりする存在が家族以外にいるって大事なのかなと思っています。 「えびてんくん」を取り合いになるところは、最初は違うストーリーだったんです。ひっぱりあって壊れて、綿が出てきてしまう……といった話だったと思います。でももう少しおもしろく、何か違和感がほしくて、小さいエビをいっぱい出しました。まさかの生き物という(笑)。絵自体がすごくシンプルなので、見どころを何回か作った方が楽しいかなと思って、ちょっと遊び心を入れています。 ――怒っていたのにびっくりすることが起きて、思わず笑ってしまう。そこから、上の子が下の子を受け入れていくようになっていく。「仲直りしなさい」や「お兄ちゃん/お姉ちゃんでしょ」という言葉でなく、嫌いな気持ちも肯定しながら、自然に受け入れていく心の変化をシンプルに描いた。 「いい子」にしないって決まってからは、あんまり迷いなくこういう風に描きたいっていう思いが溢れてきた感じですね。実は、最初のタイトル案は「えっびっ こいつ だいっきらい」でした(笑)。言葉づかいは、全体的に少し強かったかもしれませんね。こいつじゃなくてあいつ? そのこ? あのこ? なんて試行錯誤して、「このこ」に落ち着きました。子どもの素直な気持ちとしてとがっている部分がありつつも、やっぱり家族全員、みんな好きなんだよっていうのはちゃんと伝えたいなって思って、最後の見開きはハートでいっぱいにしています。
絵本の表現は自由すぎて逆に頭を悩ませた
――アニメーションの仕事をしている伊豆見さんは、物語としてキャラクターに命をふきこむという仕事を続けてきた。しかし絵本とアニメーションは、近いようでいて表現方法が微妙に異なり、そこが難しくもありおもしろくもあったという。 「えっびっ」の怒りが頂点に達した場面は、最初は背景が炎の写真だったんです。怒りの強さを表したくて。でも制作途中で知り合いのお子さんに見てもらったら「どうして火事が起きちゃったの?」と言われたんです。アニメーションだったら、怒っている=メラメラという動きがあってわかりやすいのですが、絵本はこの1枚の絵で伝えなくてはならず、すごく大変でした。動きがない代わりに、表情などで見せる必要があるんだと痛感して、子どもの感覚も取り入れつつ、いろいろ変えていきました。動きをつけるために、パラパラ漫画にしてみたらどうかとか、いろいろ案はあったんですけどね。でもLINEスタンプやアニメーションともまた違った作業として、考えていくことはやっぱりおもしろいなと感じました。 今回、はじめて絵本を作るにあたって、めちゃくちゃ絵本を読みました。実際にお子さんがいる方にどんなものを読んでいるのか聞いたりもして、人気作の『パンどろぼう』から、シュールな『ちくわのわーさん』までいろいろ読みましたね。絵本って本当に自由。自由すぎて、困ったなと思ったぐらいです。何をやってもいいんだ、どうしようって。でも結局どんな展開でもいいと思ったら、のびのび描くことができました。 やっと一冊できあがったところですが、絵本はこれからも続けていけたらなという意欲はあります。お話を考えるのも、さらに柔軟に頭を使って、やっていきたいですね。 絵本『えっびっ このこ だいっきらい』特設ページ https://303books.jp/ebi/ <伊豆見香苗(いずみ・かなえ)さんプロフィール> 沖縄出身。美術大学在学中からアニメ、イラスト、漫画など幅広く制作し「#GIFの伊豆見」でSNSに投稿している。激しく動く「えっびっ」は自身の代表作で、LINEスタンプがDL数で堂々のランクイン。YOASOBIの楽曲「ハルカ」のミュージックビデオ制作、テレビ東京「シナぷしゅ」のアニメ制作、日本テレビ「マツコ会議」への出演等、幅広く活動中。 (文:日下淳子)
朝日新聞社(好書好日)