難しい哲学が一転しておもしろく感じるプロセス 哲学YouTuberがひもとく、哲学の秘話
一方で中世では、過去の哲学者たちの考えに「註解(注釈)」をつけることによって、哲学のテクストが保存されました。たとえば、イブン・ルシュドの作品は、すべてアリストテレスの著作に注釈をつけたものでした。著作の題名も『アリストテレスの「魂について」の大註解』などという名前です。これらは大学・スコラ哲学の流れです。 これに対して、修道院では古くから「命題集」という形式で哲学者たちの作品を保存しました。代表的なものがペトルス・ロンバルドゥスという神学者の『命題集』です。これは、信仰上の疑問に対する教父たちの考えを、彼らの著作から収集したものです。たとえば冒頭は「三位一体説」がテーマで、三位一体説を理解する助けになる記述をアウグスティヌスの作品から整理しながら集めています。
命題集は非常に重宝され、大学でも利用されます。教えるうえでの教科書としてはもちろん、特定の命題集に註解をつけることが大学の試験科目として課されたりしました。 こうして、中世で展開された思想が保存されるとともに、ルネサンス期に古代作品の再発見がなされます。このような伝統を受けた近代において、はじめて古代からの哲学史が登場します。 もう1つ、物理的な観点からの話もあります。当たり前ですが、作品を保存するには、それを書く紙が必要ですよね。古代ギリシア時代の紙は、主として「パピルス」という草を原料にしていました。しかし、パピルス紙は何百年単位での保存には適しておらず、新しい紙に書写し直すことで作品を保存してきました。これらを「写本」といいます。
古代末期から中世にかけて、「羊皮紙」など、動物の皮を原料にした紙が用いられるようになりました。羊皮紙は貴重でしたが、そのぶん長期保存に適しており、重要な著作が厳選されて羊皮紙に書き写されました。書き写す仕事をしていた人々のことを写字生といい、修道院で生活するキリスト教聖職者の重要な仕事でした。 また、羊皮紙は再利用されることもあり、書かれた部分を薄く削って別の作品が書かれました。主に、古代ギリシア・ローマの作品を削り取って、キリスト教関係の作品を上書きしました。現代の科学技術によって、削り取られた部分も一部復元されて、貴重な作品が見つかったこともあります。