「素晴らしい才能」「見つめたくなる魅力」青春映画の名匠が絶賛する20代俳優とは
「ほんとうに、よく見て、よく聞く俳優」
――奥平さんのキャスティング理由について、監督が寄せたコメントが面白かったです。「よけいなことはやらない。説明はしない。ただ立っているだけで風が吹いてくるような感じがします」と。 古厩:俳優にはテレビっぽい人とそうではない人がいると思っています。その意味で奥平さんはテレビっぽくはない。テレビではとにかく終始何かしていなければなりませんが、一方映画では大前提として、まずそこにいるということが大切です。 ――そこにいるということ、存在しているということに対して、よく“ナチュラルな演技”と表現されますよね。この表現にはいつも違和感を覚えます。ナチュラルとはつまり、何もしていないわけで、何もしていないこととそこに立っている佇まいとして存在していることはまったく違うことですよね。 古厩:彼はほんとうに、よく見て、よく聞く俳優です。普段の生活の中でもそうですが、何かを意識的に喋ろうと思うと、途端に相手を見られなくなったり、聞けなくなったりします。プロの俳優さんでもそういう人が多いなと思いますが、奥平さんはそれができるんです。 ――画面の中で演技が持続するんですね。 古厩:そうですね、素晴らしい才能です。
「ヤバいやつとは正反対の、優しく華がある鈴鹿くん」
――一点透視的な奥平さんに対して、鈴鹿央士さんは多方向的だと思います。映画やドラマだけでなく、NHKのコントバラエティ『LIFE!』にも出演するなど、振り幅があります。監督にはどんな姿が映りましたか? 古厩:鈴鹿さん演じる達郎をちょっとヤバいやつにしたいとは思っていました。どこか人を人とも思っていない、見ていない。そんな子が、人を人として見ていく話。かと言って、ほんとうにサイコパスっぽく見えるのもマズい。 じゃあヤバいやつと正反対の、優しさがにじみ出ていて、なのに凛とした中心があって思わず見つめたくなる魅力がある、そんな鈴鹿くんがやってくれたらどうだろうと考えました。 ――カメラを通して見たときはどうでしたか? 古厩:人を人とも見ていないサイコパスをツンとした雰囲気で演じることは難しいことではありません。むしろ、そのツンが解けていく過程を表現することが難しいわけです。どう変化するかなと見ていると、鈴鹿くんはすこしずつ目が開いていくように演じました。目が開く、世界が見えてくる、心が揺れる……というふうに。赤ちゃんが物を初めて見る時のようで、グッときました。 ――eスポーツ大会出場チーム募集に応募してきた郡司翔太(奥平)に田中達郎(鈴鹿)が会いに行く場面が素晴らしいです。自転車でピュッと走ってきた達郎が、翔太の写真をバシャバシャ撮ったかと思えば、さっさと帰ってしまう。 古厩:あの場面は、鈴鹿さんに「異常に速すぎるくらいに」とお願いして自転車を漕いでもらいました(笑)。達郎のクセ強キャラが炸裂する瞬間で、本人は楽しんで演じていました。 ――画面下手で波が揺れ、画面奥へ走る鈴鹿さんの後ろ姿がいいですね。映画冒頭では翔太も自転車を漕ぐ場面があります。 古厩:自転車は映画的な乗り物ですから、自転車を撮っておけば間違いありません。