どうして園児に野球教室? 元プロ野球選手・宮本慎也さんが始めた試み
サッカーより難しいルールもネック 野球人気のかげり目の当たりに
ルールが難しいのも野球離れの一因です。オフサイドがなければ、サッカーはボールを蹴ってゴールに入れるという、ちびっ子にもルールが理解しやすい競技といえます。大人には難しくないように感じるかもしれませんが、ちびっ子にとって「ボールを打ったら一塁に走る」という野球のルールは難しいのです。そうした面から、小さな子供たちが最初に始めるスポーツが野球からサッカーに移りつつあるのです。 「小学校にあがってから何かスポーツを始めたいと考えても、野球という選択肢がなければ、野球を始める子供は増えません。『小学校に入学してから野球を始めればいい』という意見もありますが、小学校からいきなり野球を始めることはハードルが高いのです。野球を始めるにしても、幼少期から野球に親しんでいる必要があるのです。そうした理由から、幼稚園・保育園を回って野球を身近に感じてもらおうと考えたのです。」 野球人気のかげりを目の当たりにしていた宮本さんは、現役引退後に地域の幼稚園・保育園を回って、子供たちに野球を教えたいと考えていました。引退から2年。ようやく、それが実現した形です。
野球ができる公園も原っぱもない品川区だからこそ
品川区はリニア開業が決まり、都市開発が盛んにおこなわれています。大規模な商業施設も多く、園庭がない幼稚園・保育園もあります。また、野球ができるような広い公園や原っぱもありません。閑静な住宅街にある幼稚園・保育園でも、園庭は決して広くないのが現状です。宮本さんが開いている野球教室では、小さな園庭でも子供たちが楽しめるように工夫されています。 とはいえ、4歳・5歳児に野球のルールを教えても、すぐに理解はできません。宮本さんの野球教室では、園児でも安全なスポンジ製のボールとバットを使って、「投げる」「打つ」という基本動作だけでできるゲームで楽しく遊びます。野球を覚えるのではなく、まず基本動作を体験することで野球を身近に感じてもらうことが主眼にあるのです。また、1時間ほどの野球教室終了後に、宮本さんはボールやバッドといった用具を園にプレゼントしています。普段から野球に触れてほしいという思いがあるからです。さらに、子供たちだけではなく、保護者の参加も歓迎しています。 「家に帰ってからもキャッチボールで遊ぶなど、野球に触れる機会を少しでも増やしてほしいと思っています。そのためにも、お父さん・お母さんの協力は欠かせません。いまは野球をまったく知らないお父さん・お母さんもいます。子供たちが野球に夢中になるには、親にも野球を経験してもらい、身近に感じてもらう必要があるのです」(宮本さん)。 品川区子ども未来部保育課は、「宮本さんと保育園・幼稚園とをマッチングするなどの協力を区はしていますが、野球教室そのものは区の事業ではなく、完全な宮本さんのボランティアです」と話します。 Jリーグでは、早くから現役選手や引退した選手などが地域を回るなど、自治体と連携した地域密着型のサッカー振興に力を入れてきました。最近では、野球でもそうした取り組みが始まっていますが、サッカーと比べると、まだ活動歴は浅く、地域とのつながりは強くなっていません。宮本さんは「野球人気を取り戻すためにも、地道に活動を続けていきたい。まずは地元である品川区内の幼稚園・保育園を1年かけて回りたい」と抱負を話します。 野球振興にかける宮本さんの情熱で始まった幼児を対象にした野球教室。今後も、宮本さんの取り組みに注目したいところです。 小川裕夫=フリーランスライター