トヨタ「RAV4」は、4WD を“泥”から“街”へと変えた都会派クロスオーバーSUV【歴史に残るクルマと技術062】
1990年代のRVブームの真っ只中、1994年に本格オフローダーではなく、オフロードでも街乗りでも快適に走れる乗用車ベースのクロスオーバーSUV「RAV4」が登場した。今までになかった新感覚のRAV4は、アクティブな若者やファミリー層を中心に人気を獲得し、現在も人気の都会派SUVのパイオニアとなった。 TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・RAV4のすべて RAV4が誕生するまでのSUV トヨタ・RAV4の詳しい記事を見る SUV(Sport Utility Vehicle:多目的スポーツ車)という言い方は比較的新しい表現で、広まったのは1990年代後半のこと。それまではSUVに相当するクルマは、RVブームで人気を獲得していた三菱自動車「パジェロ」やトヨタ「ハイラックスサーフ」のようなオフロード走行が楽しめる4WDモデルが中心だったが、当時はRVやクロカン(クロスカントリー)車、あるいはオフローダーと呼ばれていた。 一方で、市場では本格オフローダー車だけでなく、もっと安価で扱いやすいコンパクトなオフローダーを求める声が上がった。これを受け、1988年にスズキ「エスクード」、1990年にはダイハツ「ロッキー」といったコンパクトサイズの4WDオフローダーも登場した。 しかし、いずれも堅牢なフレーム構造の本格4WDのコンパクトオフローダーで、街中でも扱いやすいことをアピールして一定の評価を得たが、パジェロやハイラックスサーフを小型化したボクシーなスタイリングは、ターゲットにした若者から十分な支持を受けることはできなかった。 コンパクトな都会派SUVのRAV4登場 1994年、それまでの本格オフローダーとは違う、乗用車をベースにした新感覚SUVのRAV4が、“フレキシブルビークル(多様な用途に応えるクルマ)”のキャッチコピーでデビューした。 ラダーフレームではなく、乗用車をベースにしたモノコック構造のRAV4は、車高を上げたコンパクトなボディに、オフロードでも街中でもフィットするアクティブなフォルムと、立体的で開放感のある室内空間を実現。パワートレインは、最高出力135psを発生する2.0L直4 DOHCエンジンと5速MTおよび4速ATの組み合わせ。駆動方式はセンターデフにビスカスカップリングを組み込んだフルタイム4WDが採用された。 オンロード走行を重視したRAV4は、高い着座位置による取り回しの容易さ、女性でも扱いやすい運転感覚から、アクティブな若者やファミリー層を中心に人気が爆発、記録的な大ヒットになった。 車両価格はMT車で176.9万円、AT車で189.8万円という破格の低価格も人気を加速。ちなみに、当時の大卒初任給は19.1万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算で現在の価値では約213万円(MT車)に相当する。 都会派クロスオーバーSUVブームに火を付けたトヨタ RAV4の大ヒット受けて、ライバルも黙ってはいなかった。ホンダから「CR-V(1995年~)」、スバルから「フォレスター(1997年~)」、そして日産から「エクストレイル(2000年~)」と、RAV4のコンセプトと似通ったライト感覚のコンパクトクロスオーバーSUVが相次いで登場し、それぞれ人気を獲得した。 トヨタは、1997年にRAV4に続いて新たな都会派SUV「ハリアー」を投入した。高級セダンと4WDのいいとこ取りをしたハリアーは、プレミアムSUVという新たなジャンルを開拓して大ヒット。翌年に米国でレクサス「RX」としてデビューして人気は世界的なものとなり、世界中にプレミアムSUV旋風を巻き起こしたのだ。 現在も人気を獲得している都会派SUVの火付け役となったのは、コンパクトSUVのRAV4とプレミアムSUVのハリアーであり、日本におけるSUVのイメージが“泥にまみれた4WD”から“街を華麗に走る4WD”に変えたのは、RAV4とハリアーである。 グローバルモデルへと成長したRAV4 “オフロードだけでなく街乗りもできるSUV”というRAV4のコンセプトは、日本だけでなく米国でも人気を獲得した。2代目(2000年~)は、海外市場からの要望に応えて3ナンバーボディに大型化し、海外でも高い人気を獲得。さらに大きく本格的な世界戦略車となった3代目(2005年~)は、日本よりも米国で数多く売れる大ヒットモデルへと成長した。 一方で、大きくなって海外で好まれる曲線を多用したダイナミックなフォルムに変貌した3代目の人気は、国内では人気が低迷。その結果、2013年に登場した4代目(2013年~)の国内販売は見送られてしまった。 世界市場で大人気となったRAV4は、2017年末までにグローバル販売約812万台を達成。2017年は、世界80万台超、アメリカで約41万台の販売を記録し、RAV4はトヨタを支えるグローバルモデルの中核のひとつとなったのだ。 ちなみに、大型化したクロスオーバーSUVのRAV4は、国内の需要もあるとの判断から5代目は再び2019年から国内での販売を始めた。 RAV4が誕生した1994年は、どんな年 1994年には、RAV4以外にもホンダの「オデッセイ」、三菱自動車「FTO」などが誕生した。 オデッセイは、従来の商用ワゴンベースのミニバンでなく、乗用車のような背の低い3列シートのミニバンで、現在も人気のミニバンのパイオニアとして大ヒットした。FTOは、前年の「コルトギャランGTO」の弟分という位置づけでデビュー、比較的高価なGTOに対して安価でより若い層をターゲットにしたクーペである。 F1の世界では、衝撃的なことが起こった。5月のサンマリノGPでF1界のスーパースター、アイルトン・セナがレース中に事故死するという悲報が世界中を駆け巡り、多くのファンが涙した。 自動車以外では、大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞。日本人初の女性飛行士、向井千秋氏が初めて宇宙に飛び立った。その他、関西空港が開港した年である。 また、ガソリン110円/Lビール大瓶320円、コーヒー一杯390円、ラーメン482円、カレー600円、アンパン100円の時代だった。 ・・・・・・ 乗用車ベースでオフロードでも街乗りでも快適に走れる新しいタイプのクロスオーバーSUV「RAV4」。今や全世界で人気となっているクロスオーバーSUVを開拓した、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。
竹村 純