地元産大麦こだわり ウイスキー熟成中です “手作り感”で付加価値
主原料の大麦を地元産にこだわり、地域色を打ち出したウイスキーが続々と誕生している。ウイスキー業界では、小規模での手作り感が世界的なトレンドとなっており、国内でも地元産の活用で価値向上を目指す動きが出てきた。大麦は米の裏作で生産でき、作業負担も比較的軽い。安定した需要が拡大すれば、農家経営の安定につながる期待がある。 【画像】 静岡県産の原料にこだわることで、静岡らしさを追求したウイスキー(ガイアフロー静岡蒸溜所提供) 12月上旬、東京都新宿区のイベントホールで、国内のウイスキーが集結する試飲会「ウイスキーフェスティバル」が開かれた。100社超のブースが設けられ、約6000人の来場客があった。 会場で地元産の大麦を使った商品を提案していた新潟小規模蒸溜所(新潟市)に、長い列ができていた。同社が売り込んでいたのが、新潟市秋葉区産の大麦「ゆきはな六条」で仕込んだウイスキーの原酒(200ミリリットル、3300円)だ。ジャパニーズウイスキーを名乗るためには3年以上の熟成が必要になるため、同社は仕込んでから間もないものを原酒として販売している。来年以降、ウイスキーとしても本格販売を始める見込み。 同社は2021年からウイスキーの製造に乗り出した新興の蒸留所で、製造量は年間約10万リットル。初年度は4トンでスタートした県産大麦の活用も、24年産で70トン程度まで拡大する見込みで、原料の半分近くを県産が占めるという。同社は、原料を全て県産にした「メードイン新潟」を目指しており、堂田浩之社長は「県産大麦の調達をさらに増やしていきたい」と意気込む。
JAが原料調達 栽培にも手応え
静岡市のガイアフロー静岡蒸溜所は、水や酵母、燃料といった原料を全て県産にした「オール静岡ウイスキー」を手がける。同社も16年から製造を始めた比較的新しい蒸留所で、「手探りの状態で始めた」(中村大航代表)。当初、県内でウイスキーに使える大麦が少なかった中、JA大井川の生産者に依頼し、20年産から大麦の作付けを本格化した。 JAは25年産で、前年比9ヘクタール増の24ヘクタールで大麦「ニューサチホゴールデン」を作付けする。今冬には、米を収穫したばかりの田で大麦の種をまいた。JAの担当者は「水稲と大麦では、排水性など土壌に求める条件が正反対。ただ、土壌改良などを通じて収量が上がってきている」と手応えをつかむ。 広島県廿日市市のサクラオブルワリーアンドディスティラリーは、創業100年を機に再びウイスキーの製造に乗り出した。県産原料を使ったウイスキー造りを目標に、県産大麦は20年産から仕込み始めた。向こう数年以内に商品化を目指している。大麦は、JA尾道市を通じて世羅町産を調達し、24年産では100ヘクタール近くで作付けをした。山本泰平ブレンダー室長は「熟成中のサンプルは、すっきりとした香りに仕上がっている」と評価し、商品化に期待を込める。
製麦工程に課題 蒸留所連携が鍵
日本ウイスキー文化振興協会の土屋守代表は、世界的に注目度を高めているジャパニーズウイスキーについて、「これからは地元産の原料を意識した戦略でないと生き残れない時代が来る。そのため、地域の大麦を使いたいとする国内の蒸留所は増えていく」とみる。一方、ウイスキーで大麦を使う場合、製麦(モルティング)といった加工が必要だが、国内に製麦を請け負う事業者は少ないという。今後、製麦の工程がハードルになり得るとして、「複数の蒸留所が共同で製麦施設を立てるなどの取り組みが欠かせない」と話す。 (鈴木雄太)
日本農業新聞