「ここ数年のテーマは“赦し”」水上恒司が振り返る、“悔しさ”も想像以上にあった2023年
累計発行部数85万部を突破した汐見夏衛さんのベストセラー小説を映画化した『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』に特攻隊員の佐久間彰役で出演した水上恒司さん。NKH朝の連続ドラマ小説にヒロインの相手役として出演されるなど、めざましい活躍ぶりです。映画や役者への思いについてもお聞きしました。 【画像】水上恒司さんの撮り下ろし写真をすべて見る
人のために動けることに魅力を感じる
――今回水上さんが演じた佐久間彰の、どのような部分に魅力を感じたか教えてください。 自分よりもまずは人のために動ける。そこに大きな魅力を感じました。自分の思いは横に置き、まずは目の前にいる好きな人を元気づけたり、同僚を励ましたりする。どんなに理不尽でも、どんなに苦しくても、「俺だって苦しいんだよ」とか、「もっと生きたい」などと弱音を吐かずに、にっこり笑ってみせる。こんな生き方は、僕にはできません。そこが彰の最大の魅力で、目指すべきところだなと思って演じました。 ――彰は最後に自分の思いを、福原遥さん演じる現代の女子高生・百合への手紙に託します。思いは伝えないほうがよい場合もありますが、水上さんが彰なら、百合への手紙は残しますか? 残しますけど、僕だったら内容を変えます。自分の思いは書かない。書けば書くほど、百合がつらくなると思うので。 でも一方であの手紙は、絶対に自分の気持ちを見せてくれなかった彰がはじめて見せた本音でもあると思うので、読んだ百合は嬉しかったと思います。と、話していたら、やっぱり僕も手紙を書いたほうがいいような気がしてきました。 僕はもともと、躊躇や不安があっても、自分の気持ちを伝えることが相手にとって迷惑にならないと判断できるなら、相手に自分の気持ちを伝えられるほうなので、やっぱり伝えてしまうかもしれません。だから同じような状況になったら、僕も手紙を書きます。前言撤回で(笑)。
「赦す」って余裕がないとできないこと
――今作では、彰を通してどのようなことをいちばん伝えたいと思われましたか? 僕の中で、ここ数年のテーマでもある「赦し」でしょうか。赦すって、自分に余裕があるときはできるんですけど、忙しかったり、自分でもつらいことがあったりして心や時間に余裕がないとなかなかできないものなんです。 作品の中でも、彰と同じ隊の板倉(嶋﨑斗亜)が大きな決断を迫られる場面があります。当時それは赦されない決断でしたが、彰は黙って赦す。あのシーンは、男同士の友情を超えた絆のようなシーンで、あの決断を赦せた彰には、人として大きな魅力を感じました。 現場では「彰のあの時の“赦し”が大事なんだよ」と議論になるようなことはありませんでしたが、僕にとっては大事なシーンのひとつです。 ――今作は戦争の悲惨さやつらさに加え、「言えない」「気持ちを表せない」という役柄上のつらさもあります。演じていて苦しくなりませんでしたか? それはないです。僕、殺人犯も演じたことがありますけど、基本的に芝居にそんなに引っ張られないのでしんどさはなかったです。お芝居を自分とくっつけ始めると、これから先も、演技できなくなると思うので、日頃から意識して役柄は自分とは切り離すようにしています。 今作ではそれよりも、自分の戦争に対する思いみたいなのがこれで伝わるかどうか、そちらのほうが不安でした。僕があまりにもひょうひょうと演じているので、大げさですけど「水上って戦争についてそんなに考えていないと思われたらどうしよう」という不安はありました。