オーバーツーリズムの象徴、コンビニ富士山 幕設置が迷惑行為の周知に 車道に柵設置でトラブルも減る
インバウンド(訪日客)の急増により、各地で発生している交通渋滞や観光地の混雑などのオーバーツーリズム問題。今年、その象徴として注目されたのが、山梨県富士河口湖町の「ローソン河口湖駅前店」だった。コンビニの屋根に富士山が乗っているような光景が撮影できるとして観光客が殺到。一時は撮影を妨げる幕が設置される騒動となった。現在の状況とともに、観光客と地元がウィンウィンの関係になれる可能性を探った。(樋口 智城) 年の瀬も迫った今月23日、ローソン河口湖駅前店は、変わらず旅行者であふれ、富士山をカメラに収める姿が絶えなかった。中国、インドネシア、米国、ドイツ、アルゼンチン、チュニジア…。1時間で話を聞けた人の国籍は10以上。世界一周した気分さえ味わえた。 富士河口湖町によると、2022年から既にSNSの投稿で同店が外国人の間で話題になり、人気スポットとして混雑するようになったという。それが顕在化したのが今春。危険な道路横断やごみのポイ捨てが頻発して苦情が相次ぎ、今年5月に車道を挟んだコンビニの反対側に黒い幕が設置された。その後、幕は外され、現在は車道の両側に柵が設置されている。 町によれば、幕が設置される前と比べて、トラブルは落ち着いてきたという。取材当日も、観光客は撮影の順番を守り、ポイ捨てもなし。柵のおかげか車道横断もほぼなく、押しボタン式信号の仕組みを知らずに待ちぼうけしている人が気になるくらいだった。渡辺英之町長は「ひどくならなければ、現状で楽しんでほしい」と当面、幕を再設置しない考えだ。 幕の設置について、オーバーツーリズム問題に詳しく「絶景プロデューサー」として自治体へのアドバイスを行っているインフルエンサーの詩歩さんは「『ここでの撮影は迷惑だ』と観光客は気付いてなかったと思います。告知の意味でもいい方策だった」と評価する。そもそも、自治体が推したいスポットと、実際に観光客が足を運ぶ場所が異なることが、今回のような問題が起きる原因という。 「以前、愛媛で仕事した時、『こんなに人気なのに県庁の人誰も知らないの?』とビックリしたことがあります。予算は自治体が売り出したいところにしか付かないので、ギャップが対処が遅れる原因になります」。ただ、行政ではSNSを逐一チェックすることは難しい。「私は、専門性がある外部企業との提携などが必要だと思っています」。分析した企業の情報をもとに駐車場の増設やトイレの設置など先手を打つことができれば、混雑緩和の可能性も広がる。 何より最も大事なのは地元の土地の人の気持ちだという。「SNSに罪はない。映えると、すぐ人がなだれ込む。その時に現地の人に嫌と思われない『思いやり』が重要」。これは整備する自治体側にも訪問する観光客側にも求められる姿勢。同店の問題は、SNS時代における観光地の在り方を問い直す一例となっている。
報知新聞社