渡辺恒雄氏の裏にあった読書家の顔 カントとニーチェを人生の支えに
「活字文化というものは、人間の教養の一番基礎的なものでね。たとえば電卓が発達したから子供たちに算術や数学の基礎知識を教える必要はないというのは正しいかどうか。(中略)ドストエフスキーの『罪と罰』、ゲーテの『ファウスト』、あるいはカントの『純粋理性批判』でもいいんだけれど、これをパソコンで読めますか。これは活字じゃなきゃ読めないんですよね。人間の一番基礎的な知性は活字文化によって磨かれるんですよ」
これが持論だった。渡辺さんは新聞の再販売価格維持制度の存続を先頭に立って訴えた。そこには経営感覚だけでなく、「活字文化こそが人間の知性を磨く」という自身に深く根ざした思いがあったのだ。
わが国から得難い役者がまたひとりいなくなった。寂しい。(桑原聡)