いい人よりも強い人が尊重される競争至上主義の韓国、昔ばなしを読み聞かせても将来の役に立たないという教育ママも
(立花 志音:在韓ライター) 「お母さん、○○ちゃんが友達の男の子のことをつねったり、押したりしたみたいです。それも、話を聞いたら女の子3人くらいでやったようです。こちらで話を聞いて、相手にはきちんと謝らせて解決しましたが、家庭での指導が必要だと思ってお電話しました」 【写真】20年前「冬のソナタ」を筆頭とした第一次韓流ブームが来た時に、日本人女性は日本では見ることができなくなった懐かしさを求めてソウル観光に来たが、今では日韓の状況は逆転している 末娘が小学生に上がって落ち着いた5月、担任の先生から電話がかかって来た。 しかも、複数で一人の男の子を泣かせたということだ。なんということだ。 男の子を2人育てながら、トラブルも多少あったが、だいたいが「サレタ側」だった。そんな我が家に初めて「やった側」のお知らせが届いた。 その晩さっそく聞き取り調査に取り掛かった。娘の供述によると、友達に「やれ」と言われてやったのだという。我が家にもこのような問題が来たか、と鈍く重たいショックを受けた。 何人かで徒党を組んで友達に被害を加えることはしてはいけないことと、それを人のせいにすることは断じて許されないことだと、厳しく言って聞かせた。自分が反対の立場になった時のことを考えてみなさいと。 現在の韓国では「いい人」であることよりも「強い人」であることが正義だとされる。「いい人になること」よりも「いい大学に行くこと」を皆が望む。その後の人生も目的のためなら、手段を選んでる場合ではないという雰囲気が蔓延している韓国の競争社会である。 このような環境で、自分の教育哲学を貫くことには厳しい戦いを強いられる。 ここ数年の子育てのトレンドを見ると、韓国の教育ママたちの間で面白い移り変わりがあった。
■ いい人になっても正直者が馬鹿を見るだけ 子どもの学力を上げるためにあの手この手を使って読書をさせるトピックで、「昔ばなしを読み聞かせても将来の役に立たない。親切でいい人になることを奨励したとしても正直者が馬鹿を見るだけだ」という意見にたくさんの親が賛同していた。 韓国の昔ばなしは、テーマとして親孝行を善としたものが多い。代表的な作品に「沈清」がある。日本のかぐや姫のように、知らない韓国人はいない。一昔前は幼稚園児が発表会でよく披露していたものだ。 主人公は貧しい家で生まれ育ち、父親は盲目だった。米300石を仏に供えれば治るという話を信じて、守れもしない約束をした父の代わりに、中国船に自らの身を売り、海を鎮める供え物として身を投げる悲しい話だ。 こんな話を読み聞かせたところで、厳しい競争社会を勝ち抜いて、有名大学に入るためには何の役にも立たないという親たちの判断である。 一昔前までは「親孝行」であることが絶対的な正義であった韓国人の思考回路が、大きく変わった瞬間であった。 筆者が12年前に買い揃えた60巻セットの韓国の昔ばなしは、3年前に38巻セットに大幅に改定された。時代と共に取捨選択されていくのであろう。 少子化と共に児童書にもデジタル化が進み、危機にさらされている教育図書業界も必死になっている。 直近のトレンドは「偉人伝」である。