倉本聰脚本、本木雅弘・小泉今日子共演「海の沈黙」…老練と純情を同居させドラマチックに「美」を問う
最初は、石坂演じる「大先生」がすべてを手にしたように見える。だが、見るほどに、果たして本当にそうだろうかと思えてくる。画家はなぜ絵を描くのか、脚本家はなぜ脚本を書くのか、物語は何のためにあるのか。この映画は、果敢な表現をもって人の心を揺さぶり、視界をひらく。「美とは何か」という観念的な問いを中心に据えながらも、高踏的にならず、みんなに届く映画としてつくられている。
脚本の倉本は1935年生まれ。70年代の「前略おふくろ様」や、81年から2002年まで放送された「北の国から」シリーズなど、テレビドラマ史に残る作品を手がけてきた。17年の「やすらぎの郷」もそうだったが、この人の脚本によるドラマに触れると、つくづく思う。誰もが楽しめる面白さと、世の中のありよう、人のありように対する鋭い問いは両立し得るのだと。若松監督と組んだ、この「海の沈黙」は、老練と、大人の純情が同居する、贅沢で熱い映画になっている。
人は、日常を生きていると、つい目の前の損得勘定を優先してしまう。だが、この映画は、普段は置きざりにしてしまう大切なことと、観客を正面から向き合わせる。それこそが、ドラマを見るということの、真の効能ではないか、とも思う。
◇「海の沈黙」=2024年/上映時間:112分/配給:ハピネットファントム・スタジオ