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建てっぱなしでは終わらせない――マンション建設の舞台裏・地域の「伴走者」という思い

提供:横浜市住宅供給公社

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このビルを建て替えて大型マンションにするなら、保育園も入れてくれたら地域は助かるのにな...。なんでこの駅前はバスが入れないほど道が狭いんだろう...。街のあり方を変える再開発には、「公(おおやけ)」の側面が切り離せない。大都市、横浜で地道にその役割を担ってきたのが横浜市住宅供給公社だ。約半世紀前、住宅不足を背景に団地などの整備を目的として設立され、時代に即して役割を変えながら、日本最大の政令指定都市を裏方として支えてきた。住宅販売という「民」の側面と、地域貢献という「公」を兼ねそろえた同公社ならではの街づくりとは―。

地域貢献という再開発

横浜駅と桜木町駅、そしてみなとみらい駅。2017年、横浜を象徴する3駅の中間点となる西区花咲町に、18階建ての「横浜MIDベースタワーレジデンス」が完成した。今風の分譲マンションの下層階はスーパーに老人ホーム、デイサービス、保育所まで入り、さながら地域ニーズに応える複合施設のようになっている。

下層に保育園などが入る横浜MIDベースタワーレジデンス

民間企業の社屋が建っていた同地の事業化に向けた検討を開始したのは、2012年だ。
「事業性を優先するのであれば分譲マンションのみ建設するという選択肢がありましたが、検討当初から地域貢献というコンセプトはありました」
同公社の街づくり事業部で事業推進担当課長を務める太田祐輔さんが強く意識したのは、「単に分譲マンションを建てるだけでは民間事業と変わらない。公社だからこそできる開発とは何か」という点だった。

地域課題解決型のマンション

同公社は約半世紀前に人口急増に対する住宅供給を使命として生まれたが、社会情勢の変化に伴いその役割はかたちを変え、事業の中心は街づくりそのものや公的な性格を生かした再開発などに移っている。
「西区役所に地域課題をヒアリングしたところ、同地域には福祉施設や保育園、スーパーなどが不足していることがわかった」

横浜市住宅供給公社の太田さん

マンションには上述した施設のほか、地域交流スペースや各種防災設備も設けられ、地域の核となり得る工夫が施されている。太田さんは、次なる課題はその交流をいかに活性化していくかだ、と語る。
都市計画に詳しい横浜市立大学の中西正彦准教授は、公社が手がける「半官半民」の性質を帯びた事業をこう評価する。
「民間も街づくりという観点から開発に取り組む時代だが、やはり民間は民間の論理で動く。地域のニーズとのギャップは結構大きかったりする。そこはやはり行政ないし公的な団体が積極的にやる余地がある。日本ではこの30年、行政がそこから手を引いてきた。でも手を引き切ってはいけないということは、あらゆる街づくりの課題からも明白だと思う」

何十回も繰り返した「地域のために」

JR横浜線と東急田園都市線が交わるターミナル駅として、1日約25万人が利用する長津田駅の北口も、同公社が手がけた再開発の一つだ。
構想から30年以上がかかった大規模な再開発が終わったのは、2014年。バスターミナルとタクシープールが整備され、下層階にスーパーや郵便局などが入ったマンションが建つ。

バス・タクシープールの後方にスーパーなどが入った高層マンションが建つ長津田駅北口

1908年に開業した同駅周辺は第2次世界大戦後、市営住宅が立ち並ぶ住宅地として発展した。結果として駅前広場が整備されず、道路も狭かった。バス路線はなく、慢性的な渋滞に悩まされ、災害時に消防車が通れないなどの懸念も消えなかった。

1980年に撮影された長津田駅の航空写真。写真右側がかつての北口に当たる。駅前に広場がなく、住宅が密集していることがわかる。

平成に入り横浜市が都市計画を策定し、市営住宅を移転。地元の地権者らも検討会を組織して都市計画と一体となった駅前の整備に取りかかった。そして事業実施の段階で主体となったのが横浜市住宅供給公社だった。対象地域の7割が市有地であることや、地権者の高齢化によって長期的な組織運営が困難なことから、公社の持つ「公」の側面が期待されることとなった。

長津田自治連合会の井上会長

長津田自治連合会の井上敏正会長は、当時をこう思い返す。「駅前の再開発はどこでもそうだと思いますが、反対する人もいたわけです。公社の方々は、粘り強く住民の意見を聞いてくれた」
事業が本格化した2003年以降、完工までを見届けた同公社の街づくり事業部の吉川和男さんと今井恭介さんは、こう言葉を重ねる。
「工事の進展ごとに開く説明会は、何十回やったかわからない。町内会や商店街など、地元の組織ごとに頼まれれば全て出向き、地域のためですと、少しずつ理解を求めていきました」
工事現場の見学会や餅つき大会に加えて、住民が親しんだ公園を取り壊すときにはお別れの花見を催すなど、地域の思いに寄り添い続けた。「徐々に公社の持つ公平性という部分が理解され、信頼してもらえるようになった」(今井さん)。バスプールの完成で駅北口を起点とする新たなバス路線が複数通り、区民文化センターや駐輪場など、地元の要望に最大限応えた整備が成し遂げられた。

横浜市住宅供給公社の今井さん(左)と吉川さん

どこかの誰かの伴走者として

駅周辺の再開発にせよ、大型マンションの建て替えにせよ、地域や地元にとっては、その後の数十年が左右される事業となる。整備して終わり、建てて終わりではなく、本当に求められるのは地域、周辺住民と共に歩む伴走者のはずだ。
中西准教授はこう語る。「再開発をやれば良くなるよね、という場所は多い。経済的な成長がなかなか望めなくなっている中で、大きな利益が出なくても長く一緒にやってくれる存在が大事。それが公社の重要な役割になっていくはず」
地域のニーズは時代と共に変わっていく。地元と関わって公益性を担保していく道のりは、多くの収益は期待できず、ひたすら地道な対話の繰り返しになる。同公社の太田さんは、将来をこう見通す。
「ただ住まいを提供するのではなく、地域課題を解決する手だてとして、周辺地域を含めた暮らし方を提案する。こうした考え方自体が、街づくりや団地再生などを含め、公社だからこそできる事業の一つのモデルになると思っています」
どこかで誰かが、地元が少し良くなったと感じる時に、ほほ笑める黒子でいられるように。