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"30代前半"夢を諦めるには早いのか...遅いのか―― 千葉雄大×永山絢斗「WOWOWオリジナルドラマ ダブル」で描かれる"葛藤"が胸に響く

提供:株式会社WOWOW

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「WOWOWオリジナルドラマ ダブル」6月4日(土)放送・配信スタート

 「勉強させていただきます」「有村架純の撮休」など、地上波や既存のWOWOWドラマとも一線を画す、チャレンジングな内容で話題を集めるWOWOW"第3の枠"オリジナルドラマから、新たなる意欲作「WOWOWオリジナルドラマ ダブル」が6月4日よりいよいよ放送・配信がスタート。"30代前半の夢追い人"をテーマに、千葉雄大&永山絢斗をはじめ、主要キャスト&制作陣も30代前半が勢揃いし、ヒリヒリするような熱い思いをお届けする。(取材・文:坂田正樹)

「WOWOWオリジナルドラマ ダブル」プロモーション映像

夢を持つことの"喜び"と"苦しみ"がリアルに迫る

 天性の才能を持った俳優・宝田多家良(千葉)と、彼の才能をいち早く見出し世に送り出そうと支える"代役"俳優・鴨島友仁(永山)。だが、やがて2人の関係にも変化が訪れる...。30代、夢を追うか、諦めるか。人生の瀬戸際に立つ二人の役者人生は、大きく揺れ始める。

■原作ファンならずとも必見 濃厚な人間ドラマを描く傑作

 昔からあるといえばあるが、最近のコミックは特に、文豪小説並みに人間の心情に深く切り込む作品が目立つ。"30代前半の夢追い人"を題材にした野田彩子原作の「ダブル」もその一冊。成功に向かってがんばる姿を描いているが、その内容はきれいごとだけに終始しない。当然、訪れる才能と人間性の分岐点。同じ夢を追いかけていても、結果を出す者、出せない者、裏切る者、裏切られる者...ドラマ「ユ―フォリア」や映画「ソ―シャル・ネットワーク」でも描かれた"人の業"は、夢を持つことでより明確に、その本性を際立たせる。

 本作も天才肌の多家良と、努力がなかなか報われぬ友仁の間に、「アマデウス」のモーツァルトとサリエリ(とまではいかないが)のような"ほころび"が随所に現れるが、救いは"希望"。二人を追いかけてよかったと思える心地良さが、最後には視聴者をつつみこんでくれる。

■夢と現実の狭間での"葛藤"が胸を打つ

 30歳の頃、自分はどうだっただろうか...? 本作を観ながら、ふと、自分の人生を重ね合わせてしまうのだが、今この記事を読んでいる読者の方はどうだろうか? 誰しも少なからず夢と現実の狭間で葛藤した経験はあるはず。

 もし、あなたが多家良たちと同じ30代前半であれば「今何を考え、何を目指しているのか?」進んだり、立ち止まったりするきっかけになるかもしれない。自分の才能、適合性をしっかり見た上で最後の勝負に出るも良し、諦めるも良し。ただ、いかなる結論を出したにせよ、30代前半なら間違いを正して軌道修正できる時間がある。これがもし50歳だったら...もう一度やり直す時間も熱量も足りないのが現実だ。

■ともに1989年3月生まれの33歳、千葉雄大と永山絢斗の熱演に引き込まれる

 本作のテーマ性、物語の深さ、面白さも、キャストがイマイチだと全てが台無しになる。そういった意味では、千葉雄大と永山絢斗はベストマッチと言えるだろう。役者の話だけに、ドラマの中にいくつもの舞台シーンがあり、千葉はそのたびにいろんな表情を魅せるのだが、ときにはキュートに、ときには精悍にと、まさに変幻自在。これに対して永山は、つねに千葉の光に圧倒される真面目な好青年。このコントラストがいろんなドラマを際立たせてると言ってもいいだろう。

 また、中川和博監督の"表現的"な演出も効果的だ。例えば照明でいえば、悲しみを照らす蒼いライト、怒りの赤いライト、孤独を感じさせるピンスポットライトの差し込みなど、登場人物たちの気持ちに寄り添った"表現演出"が随所に施されているところも要チェックだ。

30代前半は、夢と決別する時期なのか? 製作スタッフに聞く

 主人公の二人と同じように30代前半の"夢追い人"を経験してきた本作の高江洲義貴プロデューサー(34)と中川和博監督(35)に、自身の生きざまを重ね合わせながら、ドラマに込めた思いを語っていただいた。

中川和博監督

■夢と現実の狭間にあるヒリヒリした感覚って何なのか?

――30代前半の夢追い人が本作の大きなテーマになっていますが、まず製作するにあたってもっとも意識した部分を教えてください。

高江洲:この原作に出会ったときは、僕もこの主人公たちと同じ30歳で、夢を追いかけるか、それとも諦めるか、その狭間にいるヒリヒリした感覚にとても興味が湧きました。

――ご自身も葛藤された経験があったのですか?

高江洲:僕自身は本当に運が良くて、いろんな出会いの中でWOWOWに入社することができましたし、こうしてドラマを作るポジションにも就けたので、あまり大きな葛藤に苦しんだという経験はありませんでした。ただ、こういう映像世界にいると、30歳という区切りで、夢を諦め普通に就職して家庭を持つ人、逆に夢を諦めきれず追いかけ続ける人をたくさん目の当たりにしますし、大学で切磋琢磨した仲間たちが苦渋の決断をするところも見てきているので、その切なる思いを作品に込めることができたらいいなと思いました。

――中川監督は、高江洲さんと同じ日本大学芸術学部映画学科出身で1年先輩に当たるそうですが、このオファーを受けた時、どんな思いを抱きましたか?

中川:"夢を追っている人"の物語であるところに共感しましたね。さらに面白いなと思ったのは、映画「アマデウス」じゃないですが、才能を持つ者、持たざる者という、その二人の関係性ですよね。僕も大学時代、藤井道人(「新聞記者」「余命10年」)っていうすごい才能を持った男が同級生にいたので、やはり羨ましいなぁという気持ちが大きかったですからね。これは謙遜でもなんでもないんですが、僕自身は本当に才能のないタイプの人間だと思っていたので。だから、原作を読んだ時、才能のかたまりのような多家良と、才能がないけれど諦めない友仁の関係性にすごく興味を持ちました。

――キャスティングも絶妙でしたね。多彩な表情で周囲を魅了する千葉雄大さんと、誠実で信頼感の持てる永山絢斗さんの相性がとても良かったです。今後もこうした20~30歳代向けのドラマができるといいですね。

高江洲:当社の連続ドラマWは1時間枠で、50代以上の男性をメインターゲットに設定し作品をお届けしていたんですが、若年層にもリーチできる30分枠で、いろんなジャンルにもトライしていきたいと思っています。

■30代前半は夢と決別する時期なのか?

――大小の違いこそあれ、誰もが夢を持って生きていると思いますが、30歳を迎えたあたりから、現実と対峙する時間が増えてくるような気がします。改めてお聞きしたいのですが、30代前半は夢と決別すべき時期だと思いますか?

中川:そうですね......。先程の高江洲くんの話じゃないですが、僕も周りの人に恵まれましたし、「この世界を辞めて、じゃあ何をするんだ?」っていうところもあったので、うまくいかなくても辞めるという選択肢はなかったですね。ただ、当時、助監督をやっていたんですが、さらに上を目指して監督に挑戦するか、それともこのまま助監督でいるかっていう葛藤はありました。なので、"決別すべきか"は人それぞれですが、分岐点であることは間違いないと思います。

――やはり、「30歳になった、さぁこれからどうするんだ?」みたいなものって、自然な尺度として根付いているんですかね?

中川:自分の場合、30歳ぐらいで監督になっていないと「これから先、好きなことができないんじゃないか」という思いはありましたね。でも、監督になることが全てじゃないし、助監督も本当にやりがいのある素晴らしい仕事です。それを専門にしているプロフェッショナルな方もたくさんいます。だから、どっちが良い、悪いじゃなく"もう一度初心に帰る"という意味で、30歳という区切りは僕にとっては意味のあるものでしたね。

――高江洲さんはいかがでしょう?

高江洲:私の場合は、30代になる少し前ぐらいが分岐点だったかもしれません。その時はフリーランスだったんですが、もともとは大学では映画監督コースに入って、まがりなりにも自分で作品を撮ったりもしていたので、フリーランスのプロデューサーとしてこのまま続けていくのがいいのか、自分が本当にやりたいことができているのか...いろいろと迷いはありました。ところが、ちょうどそのタイミングでWOWOWに入社できることになって踏ん切りがついたというか。30歳のころには、「ダブル」を皮切りに自分の企画が通るようになって、自分のポジションも見えてきましたし、プライベートでは結婚し、子供も生まれました。そういった意味では、30歳は、「ここから自分のプロデューサー人生が始まるんだ」という新たなスタートの時期だったかもしれませんね。

■コロナ禍で気づいた新たな可能性とチームの大切さ

――コロナ禍は、「これから夢に挑戦する」という若いクリエーターに少なからず影響を与え、もどかしい思いをしながら30代を迎えた方も多いと思います。改めて本作を今、放送する意義についてどのように考えていますか?

中川:コロナ禍になって、軒並み仕事が無くなった時、僕自身は改めてスタートするいい機会だなと思いました。大きな現場で助監督をしたりもしてたんですが、これまでは当然のように毎日撮影が進んでいくものだと思っていましたし、実際にそうでした。でもコロナで現場が、急に止まってしまった時に考えたんです。大きな組織やベテランがいなくても、何か自分たちでできることがあるんじゃないかと。コロナ禍の中、30代のメンバーを中心に「ダブル」を作った時に、さらに強く思いましたね。「僕たちだけでも何かができる」...一度立ち止まったからこそ見えてきたことだと思います。

 苦しい思いをされている方はたくさんいると思うのですが、止まることは決して悪いことばかりじゃないということをこの作品を通して感じていただければうれしいです。

高江洲:本作もデルタ株が大流行していた1~2月の撮影だったので、ロケ現場が使えなくなったり、スケジュールが大幅に変わったり、いろいろと大変だったんですが、同世代のスタッフと力を合わせて、なんとか乗り越えることができました。あと、私はプロデューサーという仕事をしているので今大変な思いをしている映像関係の方の仕事を生み出していかなければならないという責任も感じています。それはこの作品を作って改めて痛感しました。

 「ダブル」はコロナ禍でもネガティブな感情を抱かずに、みんなで前を向いて作った思い入れたっぷりの作品なので、この熱量を視聴者の皆さんに受け取っていただけたらうれしいです。