中学受験シーズンまで残すところ3カ月。首都圏の中学受験率は2024年度に22.7%と過去最高を更新し、中学受験への関心は高まっている。中学受験に向けた準備を低学年から始めることで、どのような成長につながるのか。伸びる子にはどのような特徴があるのか。小学1・2年生から中学受験コースを展開する早稲田アカデミー中学受験部長・丸谷俊平氏に話を聞いた。
偏差値や進学実績だけではない、中学受験のメリットとは
--中学受験をするメリットはどこにあるのでしょうか。
早稲田アカデミーを卒塾した小学6年生に、受験校の選び方についてアンケートを実施したところ、偏差値や進学実績よりも「校風や校長が語る教育理念、教育内容を重視した」との回答が多くあがってきました。
もちろん、多くの保護者さまにとって、偏差値や進学実績は気になるところでしょう。しかしそれだけでなく、わが子にフィットする多様な選択肢が用意されている。これが中学受験を選ぶ最大のメリットではないでしょうか。
社会が急速に変化する中、どの学校もその変化を敏感にキャッチしながら自校の教育に真摯(しんし)に向き合い続けています。自由な校風の学校もあれば、ひとりひとりを手厚くサポートしてくれる面倒見の良い学校もあるし、探究、STEAM教育、キャリア教育、あるいはグローバル教育に力を入れている学校、高大連携を強化している学校など、その特長はさまざまです。私立中学校においてはその特長が顕著に表れているように感じます。
--少子化にも関わらず中学受験率は高まっています。最近の中学受験は過熱しているといった見方もありますが、実際に子供たちは塾でどのように過ごしているのでしょうか。
中学受験に対して、子供を長時間詰め込みで勉強させていたり、他者との激しい競争を強いたり、といったネガティブなイメージを抱かれることはありますし、当塾も入塾前にそのような印象をもたれることがあります。
しかし、実際の早稲田アカデミーの授業では、ときには授業中にどっと笑いが起きるような、和気あいあいとした雰囲気も珍しくありません。子供たちは、そのように楽しそうにリラックスしているときもあれば、ものすごい集中力で問題に取り組むときもあって、メリハリをつけながら入試へ向かっていきます。
--どのようにすれば、子供が主体的に「次もやってみよう」というやる気につなげられるのでしょうか。
われわれが日々徹底しているのは、スモールステップで進める学習です。これは、子供のやる気に火をつける上でとても効果的です。子供というのは、乗り越えられそうで乗り越えられないものに対し「もうちょっと頑張ってみよう」と挑戦するものです。自分の力でそれを乗り越え、小さな達成感を多く積み重ねていくことで「自分はできる」「もっと挑戦したい」という気持ちがさらに芽生えていくものです。ここで大切なのは、塾でも家庭でも、たくさん褒めてあげることです。スモールステップなら必然的に褒める回数も増えますし「頑張ったね」「できたね」と、近くにいる大人も一緒に喜ぶことで、子供のモチベーションを高めることができます。
取材に応じてくれた早稲田アカデミー中学受験部長・丸谷俊平氏
小1~小3の学習で大切にしたいこと
--中学受験に向けた準備は4年生から本格化しますが、低学年のうちにやっておいた方が良いことはありますか。
まず、絶対にやって欲しくないことからお話ししましょう。それは、ドリルなどを使ってたくさん知識や解法を詰め込もうとする先取り学習です。これにより子供が途中で伸び悩み、親子共に息切れしてしまうという状態に陥る可能性が高まります。先取り学習を否定しているのでなく、お子さまが目を輝かせて勉強へ取り組めているかという視点が重要です。
むしろ低学年のうちは、アニメのキャラクターでも折り紙でも何でも構いませんので、「夢中になってのめり込む」という経験をたくさん積むことが大事です。「アニメのキャラクターが全部言えても受験の役には立たないじゃないか」と思われるかもしれませんが、子供が笑顔を浮かべて取り組んでいることをとことんやらせてあげてください。実はこのような「没頭」する経験こそが、楽しい→知りたいという学びへの意欲につながる、揺るぎない土台になっていくのです。
--塾の先生方から見て、伸びる子にはどのような特徴がありますか。
問題を解くことや塾に通うことを「楽しい」と感じているところですね。保護者さまがどんなに熱心にスケジュール管理や勉強の指導をしたり、必要以上に家庭教師や個別指導を追加したりしても、子供自身が楽しさや必要性を感じることができなければ結局成績は頭打ちになります。
では、どうやったら楽しいと感じられるのか。それには、子供の個性を見極め、その子に合った学習方法で勉強できているかが重要なポイントになります。ゲーム感覚で一緒に誰かと競争しながら取り組みたいタイプ、1人でじっくりと時間をかけて考えたいタイプなど、子供によってマッチする勉強法は異なります。
どうしても、うまくいっている他のご家庭のようすを見て、わが子や自分の家庭には欠けているものがあるのではと考えてしまうケースはあると思います。ただ、その子にあった学習方法というのは人それぞれ異なるので、他のご家庭のまねをすることが必ずしも良いとは限りません。たとえば、一般的に、苦手な科目の克服をいちばんに考えがちですが、中学受験の場合は得意な科目を伸ばす方が良い場面もあります。
徹底的に考えることを楽しむ...低学年から身に付けるべき「考えることを楽しむ力」
--早稲田アカデミーでは、中学受験対策として低学年向けコースも開講されていますね。コースの特長をお教えください。
私たちが重視しているのは「わからないことにワクワクするマインド」や「考えることを楽しむ力」です。
だからこそ、1・2年生向けのスーパーキッズコースでは、興味や好奇心を育み、その芽をしっかり育て、枝葉を広げていく土壌づくりを目指しています。そのために、教え込まない・強制しない・急かさないをモットーにしています。じっくり考えてもらい、子供たちの発言にしっかりと耳を傾け、対話を大切にする。そうやってひとりひとりと丁寧に向き合うため、1クラス数名の少人数制をとっています。
子供たちは皆、新しいモノやコトに常にワクワクしながら成長しています。私たちは、すべての子供がもつこのワクワクを壊すことなく、大切に育みたい。中学受験を検討されるご家庭から「早くから塾に通うと息切れするのでは?」というご質問をよくいただきますが、私たちは真逆と捉えています。低学年のうちから「考えることが楽しい」「ワクワクする」という感覚を会得している子ほど、高学年でぐんぐん伸びていくのです。
小1・2対象「スーパーキッズコース」の詳細はこちら--低学年で培った、わからないことにワクワクするマインドや考えることを楽しむ力は、その後どのように中学受験対策へつながっていくのでしょうか。
新学習指導要領において思考力が重視される今、中学受験でも思考力が問われる問題が増えてきています。中でも難関校では、旧指導要領のときから知識やテクニックだけでは解けない、思考力をフル活用して臨む良問が数多く出題されてきました。これまで見たこともない問題に出会ったときにワクワクできるか、ひるむことなく「よし、解いてみよう」と挑める気持ちになれるかどうかが合格につながる大きなポイントになります。
今年度、早稲田アカデミーではスーパーキッズコースの次のステップとして、3年生向けの「3JS」クラスを開講し、15校舎で展開しています(2024年10月時点)。「3JS」は、これまでの小3ジュニアコースに、早稲田アカデミーの最難関中学受験専門校舎「SPICA(スピカ)」のエッセンスを加えた、論理力を徹底的に鍛え、考えることに特化したクラスです。
スーパーキッズコースの次のステップとして開講した3年生向けの「3JS」クラス
知識や解法を教える一般的な受験対策の授業とは大きく異なり、「3JS」クラスの授業は自分の中でひらめいた直感をもとに、その場で突き詰めて、とことん考えてみるぜいたくな時間です。同じ問題を解くとしても、答えに至るまでの考え方やアプローチはひとりひとり違うものです。模範解答にとらわれず、各々の考えをシェアしながら、自分では気が付つかなかった着眼点を得たり、ユニークな発想に触れたり、どんどん頭を柔らかくして、考える力を伸ばしていきます。
--ほとんどの中学受験塾では4年生から受験本番に向けた体系的な知識や解法のインプットが始まるため、こうした思考力の強化に十分な時間を割くことは難しい印象です。だからこそ、低学年のうちにたっぷり時間をかけて「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤する経験は貴重ですね。
先ほども述べたように、難関校ほど「柔軟な思考力や発想力のある子供に来てほしい」というメッセージが出題傾向からみてとれます。以前からわれわれには、塾のテストでは高得点が出せても、入試問題になると急に点数が取れなくなる子供たちを何とかしてあげたいという思いがありました。
難関校の入試問題に向き合うには「考えることを楽しむ力」が大切です。そしてそれを身に付けるには、たっぷりと時間をかける必要があるのです。一見遠回りのように見えるかもしれませんが、これを身に付けておくことが入試本番における大きな力となります。
早稲田アカデミーでは、4年生以降も通常授業とは別に、じっくり思考力を鍛える講座として、小4算数トップレベル講座・小5NNジュニア・小6NN志望校別コースを設けていきます。「考えることを楽しむ力」を継続的に育んでいきたいと思っています。
中学受験を親子が笑顔で終えられる家庭の共通点
--数多くの中学受験に臨む親子を見守られてきた先生方から見て、子供も親も笑顔で中学受験を終えられるご家庭には何か共通点はありますか。
笑顔で終えられるかどうかは、入試の合否が出る前にすでに決まっているような気がします。つまり、第一志望の合否ではなく、入試に至るまでの日々そのものが充実していたかどうか。親子で一緒に頑張ってきたご家庭であれば、辛い日々だけではなかったはずです。たとえば成績が下がったときにも、「もっと頑張れ」「勉強しろ」とひたすらに激励するだけではなく、「どこでつまずいたのかな」と一緒に課題に向き合い、何をすべきか考える。子供はそこから一歩ずつ、できなかったことができるようになり、それを親が一緒に喜んでくれることで自分の成長を実感し、努力が習慣化していく。そうすれば、第一志望の合否に関わらず「やり切った」という達成感が生まれ、「充実した時間だった」と親子共に実感できるのではないでしょうか。
--親が子に向き合う姿勢が大切なのですね。
中学受験は、親が「子供に失敗させたくない」という思いで臨んでしまうと良い結果は得られません。親のマインドセットは、それほど子供に大きな影響を与えるのです。子供がテストを受けたら、結果だけではなく、それまでの努力を認めねぎらうこと。成績が乱高下しても、わが子を信じること。ご縁があったところが最高の進学先なのだと親がドンと構えていれば、子供は自信を失わずにゴールまで走り切ることができるはずです。
--最後に、中学受験をするかどうか悩まれているご家庭へ、メッセージをお願いします。
冒頭に申し上げた通り、わが子に合った学校を選ぶことができるのは中学受験の大きな魅力です。そして、正解のない時代といわれる今、中学受験を通じて、見たことのない難しい問題にもチャレンジすることを楽しみ、「わからないから面白い」とワクワクできる力を育むことができます。入試当日まで、子供のことを一生懸命考え、ともに挑戦する時間は、子供にとってはもちろん、保護者の方にとってもとても貴重な時間だと思います。早稲田アカデミーでは、親子で笑顔になれる中学受験となるよう、低学年からしっかりと伴走していきますので、ぜひ一度、体験授業など、最寄りの校舎にお気軽にご相談ください。
早稲田アカデミーで中学受験を乗り越えた子供たちは、「難しい問題を解けたときはすごく嬉しかった」「学校では教わらないたくさんの面白い問題に出会えて楽しかった」と話してくれるという。中学受験にとどまらず、これから正解のない時代を生きていく子供たちにとって、難しい問いに対面しても、それにワクワクできる力は大きな武器になるだろう。親子で楽しく笑顔になれる中学受験。中学受験を子供の可能性を広げるための機会として考えてみたい。