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舞台は令和の飛田新地......"自分との折り合いのつけ方"を探す、製作委員会「メイン通りの妖怪」

提供:演劇ユニット製作委員会

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左から砂山康之、秋山ゆきを、小谷陽子、宮坂公子、ナグラドウチエ、渡辺千穂

製作委員会は小谷陽子が代表を務める演劇ユニット。三十代以上の俳優たちと共に、ミドルエイジに焦点を当てたコメディを発表している。12月に上演される「メイン通りの妖怪」は、令和の飛田新地を舞台にした"自分との折り合いのつけ方コメディ"。本作では、六十代の風俗嬢・ゆきの物語が描かれる。長い人生を生きる中で、自分との折り合いをつけていくためにはどのようなことが必要なのか? 作・演出を手がける小谷に、作品について、そして自身の人生観について語ってもらった。

令和の飛田新地を描く

大阪府大阪市西成区の歓楽街・飛田新地。今もなお多くの料亭が軒を連ね、料亭内では客と女性従業員の"自由恋愛"が繰り広げられている。飛田新地にはいくつかの通りが存在し、従業員の年齢層が比較的若い"青春通り"や"メイン通り"、熟練の従業員が在籍する"妖怪通り"に分かれている。「メイン通りの妖怪」の舞台となるのは、六十代の風俗嬢・ゆきが働く架空の料亭・富士屋。飛田新地を題材にして作品を執筆した経緯について、小谷陽子は「昔、とある事務所で働いていたとき、飛田新地のことについて書きたいというフリーライターの方と知り合いになったんです。その方が『飛田新地に取材をしに行きたいけど、足を踏み入れたことがないから不安』と言っていたので、私も一緒に飛田新地の料亭へ何日間か通うことになりました。そのときに飛田新地の特殊な業務形態に興味を持ったんです」と明かす。

小谷陽子

"飛田の記憶"が薄れないうちに

飛田新地を訪れて以降、近代日本における風俗の歴史に関心を持つようになった小谷。彼女は「いわゆる"ちょんの間"と呼ばれるお店は全国的に見てもほとんど残っていなくて、今では珍しいものになってしまいましたよね。ちょんの間がなぜ下火になってしまったのかを考えたときに、風俗情報サイトができたことが1つの要因だったのではないかと思ったんです」と分析する。

小谷は、飛田新地での取材をもとに「メイン通りの妖怪」を執筆。2020年に公演を行う予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発出で、公演直前に中止を余儀なくされてしまう。そして2022年、小谷は再度企画を練り直し、上演を決意。「自分の中にある"飛田の記憶"が薄れないうちにこの作品を上演しておきたいと思って、今回もう一度上演することを決めました」と真っすぐに前を見つめた。

自分と折り合いをつけながら演劇を続けていく

「メイン通りの妖怪」では、長らく料亭に勤めたゆきが飛田新地を卒業し、再出発するさまが描かれる。ヒロイン・ゆきを囲むキャラクターとして、ゆきと同じ頃に飛田に入った友人・さやか、富士屋へやって来るスカウトの三井、飛田新地のコミュニティラジオのパーソナリティーを務めるはっしー、飛田新地にある喫茶店のマスターの娘・ほのかなど、個性豊かな面々が登場。飛田の街に生きるキャラクターたちを、いずれも製作委員会の作品に出演経験のある宮坂公子、秋山ゆきを、砂山康之、ナグラドウチエ、渡辺千穂らが演じる。

小谷は、中心人物となるゆきに思いを馳せ、「自分自身の人生について考える時期に差し掛かったゆきの生き方を通して、何か感じてもらえたら」という願いを込めて、本作に"自分との折り合いのつけ方コメディ"というキャッチコピーを付けた。

新型コロナウイルスの影響もあり、演劇活動を継続していくことが難しくなった時代。そんな中、演劇を続けていくうえで、自分自身の中でどのように折り合いをつけているのか。そう小谷に問うと、「人はある程度の年齢になると、今までやってきたこととこれまでの自分自身との折り合いをつける作業が必要になってくると思うんです」と前置きして、「演劇をやるのは大変だし嫌なこともたくさんある。ただ、ずっと前から薄々感じていたんですが、「どうせ自分、(演劇)やるんだろうな」って。演劇をやっていくのは苦しいんですけど、今の自分にとっては『演劇をやらない』という選択をするほうが苦しいんですね。なので、とりあえずやれる限りは演劇を続けていきたいなと思っています」と強いまなざしで語った。

取材の様子。

人生からの"降りなさ"を観てほしい

三十代以上の俳優にスポットを当てていきたいという思いから、ミドルエイジを主人公にした作品を精力的に発表してきた製作委員会。最新作「メイン通りの妖怪」は、その中でも最もチャレンジングな作品の1つになるだろう。

公演に向けて、小谷は「飛田新地を題材にしたコメディを上演するにあたって、拒否反応を示す方もいると思うんです。観ているときにはいろいろなことを感じるけれども、劇場を出たときにフッと気持ちが軽くなっているものがコメディだと私は思っているので、まずこの題材をおもしろおかしく扱おうと思っているわけではないということを知っていただきたいですね。飛田を卒業しても、ゆきは生きていく。この作品を通して、彼女の強さや人生からの"降りなさ"を観ていただけたら良いなと思います」と語った。

前列左から秋山ゆきを、小谷陽子、後列左から砂山康之、渡辺千穂、ナグラドウチエ、宮坂公子