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日本農業遺産「丹波黒」の加工品続々――「もったいない」で始まった思いの結晶

提供:兵庫県丹波篠山市

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日本農業遺産にも認定された黒大豆「丹波黒」。少しの傷やしわがあるだけで規格外とされるものを活用した加工品が続々と誕生している

大粒でほくほくとした食感が人気で、日本農業遺産にも認定された黒大豆「丹波黒」の産地・兵庫県丹波篠山市。秋には完熟前の黒枝豆を、冬にはおせちの定番の黒大豆を求め、全国各地から多くの人が「黒大豆のまち」に押し寄せる。一方、年間を通して人を惹きつけているのが黒大豆の加工品。土産物店には煮豆やパンをはじめ、きな粉、そば、うどん、ケーキ、クッキー、ジャム、茶、コーヒー、酒など、ありとあらゆる商品が並ぶ。使用されているのは、味は変わらないものの、少しの傷やしわがあるだけで規格外とされた黒大豆が原料。本物の素材で出来た加工品も、また本物。「遺産の味を年中いろんな形で味わってほしい」と願う生産者や加工業者の試行錯誤の結晶が近年、次々と誕生している。

米の生産調整で転作増加 扱いに困った末

丹波篠山で栽培される黒大豆は「丹波黒」と呼ばれ、その栽培面積は日本一。江戸時代中期の1730年に出された料理本「料理網目調味抄」に「くろ豆は丹州笹山の名物なり」と記されるなど、約300年の歴史を誇る。農林水産省は2021年2月、長きにわたって村ぐるみで生産する中で育んだ歴史、風土や文化、景観などを「丹波篠山の黒大豆栽培――ムラが支える優良種子と家族農業」として、日本農業遺産に認定した。

名実ともに市を代表する特産。長い歴史に裏付けされた品質に疑いはないものの、かつては少しの傷やしわがあるだけで、見た目の悪さから買いたたかれた。そのため、自家消費用としたり、畑の肥やしにしたりする農家も少なくなかった。そんな規格外の豆に光を当てたのが加工品だ。

転機は1980年代にさかのぼる。当時の加工品は、煮豆、炒り豆、きな粉、パンといった伝統的なものなど、わずかしかなかった。米の生産調整で転作が行われる中、黒大豆は山の芋や小豆と共に特産品として栽培が奨励されたが、生産量が増えた分、見た目の悪い豆も増え、農協もその扱いに困っていた。「新たな加工品として販売できるものが何かできないか」。旧丹波農協(2002年に篠山町農協と合併し、丹波ささやま農協が誕生)で販売課長を務めた佐野文一さん(70)が当時を振り返る。

大粒の丹波篠山産黒大豆を使った「しぼり豆」。今なお根強い人気を誇る

佐野さんは取引があった京都の和菓子店に相談し、北海道産の黒大豆で「しぼり豆」(豆菓子)を作っていた業者を紹介してもらった。ただ、北海道産とは豆の性質も粒の大きさも違う。試行錯誤を繰り返し、丹波篠山産黒大豆のしぼり豆が完成する。

数年後の1988年、同市などで開かれた「ひょうご北摂・丹波の祭典 ホロンピア88」でしぼり豆を本格的に売り出したところ、大ヒット。程良い歯応えがあって甘過ぎず、甘いものが苦手な層にも受け入れられた。黒大豆が健康食として脚光を浴びたことも後押しした。煮豆、炒り豆、砂糖をまぶした豆菓子などとの詰め合わせギフトも展開。業者も増産態勢を取ったが生産が追い付かず、注文を受けても3カ月待ってもらうこともあった。

以降、東は東京、西は九州まで各地の百貨店やご当地イベントに出店。しぼり豆を武器に黒大豆を売り込んだ。佐野さんは、「10年くらいは発送業務ばかりしていた印象。請求書や発送伝票が素早く作成できるシステムを導入するなど販売課を挙げて取り組み、組合長から『ようやった』と表彰状をもらった」と懐かしむ。

また、「加工することで捨てていたものが売り物となり、農家の所得につながる。付加価値を高めることで、生産者の収入が増え、『また来年も頑張ろう』という意欲が湧く。農業遺産に認定された歴史は、外から見れば分からないこと。今までとは違った黒大豆のイメージをいかにつくっていくかだ」と、加工の分野にも期待を寄せる。

あこがれのブランド食材 「もったいない」が原点に

「丹波篠山 食の未来塾」が販売している、黒大豆をはじめとする丹波篠山の特産を使った加工品

今のように多種多様な商品ができ始めたのは、ここ10~15年。江戸時代から続く300年の歴史からすれば、まだ最近の話だ。地域おこしを目的にした「ご当地グルメ」が注目され始めた時期と重なる。

市内の農家、加工業者、市民グループなど約30団体でつくる「丹波篠山 食の未来塾」が、特産振興などを目的に市の支援を受けて発足したのも2010年。煮豆、みそ、コーヒーなどの黒大豆商品のほか、コシヒカリのポン菓子、伝統食の「とふめし」、シカ肉のドッグフードなど丹波篠山の食材を生かした年間延べ約80アイテムを、地域のイベントや直売所、メンバーそれぞれの販路で販売している。メンバーの中には、パッケージなどが担えるデザイナーもいる。

「料理人があこがれる『丹波篠山ブランド』の食材が身近にあるのが、何よりの強み」と話すのは、「篠山里山本舗」の屋号で加工品を作っている副会長の中山史夫さん(63)。同じく副会長で、加工品工房「グリーンウェーブ」の家澤美智代さん(67)も「とにかく丹波篠山の食材はおいしい。加工品は食材ありき。取れ過ぎた野菜は捨てれば楽だけれど、『もったいない』。そこが原点」と、黒大豆に限らず地元産の素材の良さを誇らしげに語る。有機野菜を栽培する農家らでつくる市民グループ「篠山自然派」とも密に連携している。

それぞれが得意な加工技術を教えたり、新商品にアドバイスしたり、必要な資材を共同購入したりと、グループの利点を生かす。「『こんな加工品を作ってみたい』と相談すれば、いろんなヒントがもらえて、刺激を受ける。素材がいいからこそアイデアも出る」と家澤さん。グループ全体のレベルが上がれば引き合いも増え、丹波篠山のブランド力はさらに上がる。結果的に個々の売り上げもおのずと上がる。そんな好循環を目指している。

自動車販売店の店舗内で商品を販売する「丹波篠山 食の未来塾」のメンバーたち。「おいしいですよ」「どんなふうにして食べたらいいの」。訪れた客との会話も弾む

アイテムの中でもコンスタントに売れているのが黒大豆の煮豆。ふっくらとして、甘さ控えめで、黒大豆本来のうまみを残す。ただ、煮豆といえば、「おせち料理」。食べる機会が限定的なイメージがある。どうすればもっと食べる人の裾野が広がるのか、どうすれば若い人にも興味を持ってもらえるか。

中山さんにはこんな考えがある。「煮豆を"スイーツ"と位置づけ、生クリームをちょっと添えて提供する。そんな発想も必要では」。コロナ禍になる前のイベントで、黒大豆の煮汁をホットミルクで割って「黒豆オレ」として販売し、好評を得た経験が発想を広げる。さらには地元産野菜をスープにし、シリーズ化する"構想"も描く。「丹波篠山にはおいしい素材がたくさんあるのだから、まずは黒大豆や山の芋の知名度を生かした商品から開発し、クリ、小豆、カボチャ、サツマイモなどを加えて彩りも豊かなラインナップをそろえていく」

中山さんと家澤さんは、「丹波篠山の農家が大事にしてきたことが、日本農業遺産として認められたことは、とても誇りに思う。これからどのように特産を守り、育てていくのか。われわれは加工という立場から考えていきたい」と話す。

若い女性筆頭 「黒豆スイーツ」圧倒的支持

丹波篠山市が「リクルート」社に委託して今年8月に実施した、市の認知度などを問う「GAP調査」によると、2015年の前回調査と比べ、市の認知度、訪問経験ともに上昇。19年の市名変更(篠山市から「丹波篠山市」へ)後のイメージの変化については、「丹波」の名を冠したことが要因か、「黒豆のイメージ」が40%近く上昇した。同社によると、この数字は大型テーマパークが開園したときと同程度という。

わざわざ行きたくなる要素では、「黒豆スイーツ」が若い女性を筆頭に全世代から圧倒的な支持を集めている。

同社は「女性をターゲットにしながら、スイーツをどんどん生み出してPRすることが重要。ブランドアップに向けての鍵は『食』。黒大豆もさらに磨いていく必要がある」とし、「ブランドを作るのは地域の人。そのため、地域巻き込み型を進めることが必要」とまとめた。

"映える"デザインも「おいしかった」が一番

かわいらしい動物の顔のデザインが人気の「丹波篠山黒豆プリン」。7種類のラインナップのほか、ゼリーや容量がやや小ぶりの商品も発売

今、かわいらしい動物の顔をデザインした瓶が「映える」と話題になり、ブレイクしているご当地プリンがある。丹波黒の中でも最も歴史があるとされる川北黒大豆をふんだんに使用した「丹波篠山黒豆プリン」。自身も黒大豆生産者の山本季代子さん(65)が開く「和み工房」が19年12月に発売した。山本さんも「丹波篠山 食の未来塾」のメンバー。発売時は、定番のカスタード「マメちゃん」と、黒大豆の豆乳を使った「クロちゃん」の2種類でスタートし、現在は、枝豆、小豆、クリ、カボチャなど7種類に増えた。うち6種類には、「食の未来塾」で教わった黒大豆の煮豆がゴロゴロ入っている。

根底にあるのは、「広めたい」と思える川北黒大豆の素材の良さ。煮豆、みそ、きな粉は作っていたものの、「若者からお年寄りまでが喜んで食べてくれるものに加工できないか」と、JR篠山口駅構内で市と神戸大が開く起業・継業塾「篠山イノベーターズスクール」の門をたたいた。

講師からヒントを得てプリンに着目。黒大豆自体には自信がある。あとは煮豆と相性のよい生地を研究するだけ。各地のご当地プリンを取り寄せ、「食べまくった」。星の数ほどあるプリンの中から、まずは手に取ってもらえるように、「映える」瓶のデザインも決まった。ただ、売れるかどうかは「分からなかった」。

変色や傷のあるさやを取り除く作業。「中身はなんともないで」。枝豆プリンの材料になる

20年2月、マスコミなどが取り上げると人気に火がつき、都市部をはじめ遠方から訪れる人も。「女性も多いけど、バイクに乗った男の人がツーリングの途中で立ち寄ってくれることも多い。驚くよ」と笑う。よほど気に入ったのか、毎日必ず2個、買って帰る近所のおばあちゃんもいる。

「最初は見映えで買ってくれたかもしれないけれど、『おいしかった』と言って、もう一度買いに来てくれたときが一番うれしい。食べてみたいと思ったものを求めて現地へ出向くのが、最近の流れのようですよ」。リーフレットやホームページには、商品だけでなく丹波篠山の名所なども紹介するようにした。「農業遺産になるほど高い評価を受けた丹波篠山の黒大豆。収穫の時期だけでなく、1年を通じて長く食べてほしい。これからも素材のうまみを生かしたプリンを目指していきたい」

農作物のうまみをそのままに、手を加えて味わい尽くす。加工品には、丹波篠山の食材にほれ込んだ人たちのまっすぐな思いがしみ込んでいる。