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「もう一度、頑張ろう」 失意の底から、前を向き始めた人々――「佐賀豪雨」からの再生を目指して

提供:佐賀県観光連盟

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2019年8月27日から28日にかけて北部九州を中心に襲った記録的な豪雨。佐賀県は土砂災害や河川の氾濫など甚大な被害を受け、特に武雄市や大町町の被害は深刻だった。 この「令和元年佐賀豪雨災害」からの復興を目指し、前に進み続ける佐賀県は、着実に元気を取り戻しつつある。被災した施設や再生を支える人たちに会い、今の状況やさまざまな思いを聞いた。

ボランティアと社員一同で復旧作業に全力

8月28日早朝。ニュースで武雄市内の災害状況を知り、すぐさま仕事場に駆け付けた陽光美術館副館長の上薗英樹さんはがく然とする。御船山から滝のような土石流が日本庭園「慧洲園」を襲い、庭園内にある陽光美術館などの建物内にも容赦なく入り込んでいた。
「慧洲園は御船山とその下に広がる茶畑を背景に作られた庭園。雨で山の水が飽和状態になったのでしょう。土砂にまみれた庭や美術館の収蔵庫などを目にして意気消沈しました」と上薗さんは振り返る。

しかし落ち込んでいる暇はなかった。一刻も早く園外の国道にまで流れ出している土石流をくい止め、少しでも周囲に迷惑がかからないようにしなくてはいけない。

「ボランティアの人もすぐに集まってきてくれて。社員も一丸となって復旧作業に取り組みました」。まずは土のうを置き、土石流の流れを変えるなどして近隣への流出をストップ。土砂や木くずを運び出し、庭や施設の清掃などの作業を必死に進め、1週間後には開園にこぎつけた。

「館内に土砂が流れ込んでいる様子を見て、言葉を失いました」と上薗さん

「楽しんでもらいたい」の思い、より強く

9月~10月は例年よりもやや来園者は減ったが、その後はほぼ平常に戻ったという。「復旧後は、お客さまに楽しんでいただきたいとの思いがより強くなり、園内の喫茶どころで開催していた体験教室を増やしました」と上薗さん。誰でも気軽に参加できる抹茶体験や武雄の焼き物を使ったアクセサリー作り、ハーバリウムボールペン作りなど、さらに充実させていく予定だ。

約3000坪の純日本庭園「慧洲園」。1月末ごろからは紅白の梅、3月末ごろからは桜の花が咲き誇る

四季折々の趣を堪能できる慧洲園は、1月末からは白梅と紅梅が咲き誇り、3月末からは桜が見ごろ。「多くの人に慧洲園の景色やアートを楽しむ心豊かなひとときを過ごしていただくのは大きな喜びです。さまざまなアイデアを温めているので、これからどんどん形にしていきます」と上薗さんは意気込む。

周囲の人の温かいサポートが後押しに

床上・床下浸水や建物の半壊など、県内でも大きな被害を受けた武雄市。中でも低地にある北方地区の浸水被害が目立った。この地域には国道34号線沿いに20店舗以上の多彩な飲食店がある。ちゃんぽんを提供する店も多く「武雄・北方ちゃんぽん街道」としても知られている。それぞれに特徴のあるおいしさを提供する家族経営の店が多いのが特徴だ。

「所によっては2メートル近くの浸水がありました。多くの店で床や壁、テーブルや食器、冷蔵庫など全て水浸しになり、店舗はめちゃくちゃの状態。ほぼ全店が営業停止を余儀なくされました」と、武雄市商工会北方事務所経営指導員の石井和彦さんは話す。

「ほぼ全店が営業停止していましたが、ようやく再開しました」と説明する石井さん

当初は失意のどん底にいた店主たち。だが、程なくしてみんな前を向き始める。「早くまた食べたいから」「ぜひ手伝わせて」。店の客や地域の人たちが自然に集まり、片付けを買って出てくれたのだ。それは店主たちの「もう一度、頑張ろう」の大きな力となり、各店が再開を目指した。

飲食店の明かりが再びともった北方地区

営業再開へと歩みを進めていたのは、ちょうど消費税増税の時期だった。新型レジの導入など、新しい取り組みも同時進行しなければならない。機器の使用法に詳しい店主が他店に教えにいくなど、店同士も何かにつけ協力し合った。

武雄市商工会北方事務所では「少しでも力添えになれば」と商工会に属する窯元に打診。市内の11窯から新品の皿や茶わんなど約1000点を無償で提供してもらい、希望する飲食店に無料配布した。「食器が全滅していたからとても助かったと喜んでいただけました」と石井さんは笑みを浮かべる。

武雄市内11窯が提供した新品の皿や茶わん。ケースに「武雄飲食店の方々...是非使って下さい」のメッセージが

建築業者の人手不足。増税前の駆け込み需要による品不足。さまざまな要因が重なり、復旧には時間がかかったが、11月中までにほとんどの飲食店が営業再開を果たした。一時は飲食店の明かりが消え、寂しかった北方のまちは再び活気づいている。

通常営業の宿泊施設も予約キャンセル

佐賀県の代表的な観光スポットの一つである嬉野温泉など、豪雨被害を直接的には受けなかったが、風評被害に見舞われた地域もある。武雄市内でも、武雄温泉は営業に支障をきたすほどの被害はなかった。佐賀市内も浸水に見舞われたが、豪雨翌日には営業していた。

被害が大きかった武雄市でも、武雄温泉は通常通り営業を続けていた=武雄温泉楼門

「8月28日~9月9日の期間、県内の宿泊施設における予約キャンセルは延べ約1万2000人に上りました。内訳は嬉野温泉が約3000人、武雄温泉が約1500人、佐賀市内は約4500人などです」と佐賀県文化・スポーツ交流局観光課の山田博則さんは風評被害の状況を説明する。

宿泊割引キャンペーンで「元気さが!」アピール

その後も宿泊予約の戻りが鈍いとの声を受け、佐賀県と佐賀県観光連盟は観光需要の早期回復を目的に、9月中旬~10月末まで、2000人を対象に県内の宿泊施設の宿泊費を3000円割り引くキャンペーンを実施した。同キャンペーンは好評を博し、11月から規模を6,000人に拡大し、2月までを対象とした、第2弾の「元気さが!宿泊キャンペーン」を実施。

さらに1月10日(金)から4月10日(金)まで、福岡・北九州・山口・広島から高速道路を使って佐賀県を訪れると高速料金が割引になるキャンペーン(詳しくは、NEXCO西日本の公式WEBサイト「みち旅」)もスタートする。「観光地は受け入れ体制が整っているので、安心して足を運んで、佐賀県の魅力的な自然、文化、温泉、食を存分に楽しんでいただきたいです」と山田さん。

「通常営業していた宿泊施設も予約キャンセルが相次ぎました」と山田さん。左は佐賀県観光連盟の山口さん

冬の佐賀で、再生を目指す人々の力に

武雄市北方地区など復興に時間を要している被災地がある中で、佐賀の観光や物産を大々的にアピールするのは気が引けると感じていた県民も少なくなかった。佐賀県観光連盟は、その思いもくみ取りつつ、さまざまな形で「元気な佐賀」を発信してきた。

情報発信・企画宣伝担当の山口公恵さんは「武雄・北方ちゃんぽん街道も再開し、いよいよ本格的なリスタート。魅力的な情報をたくさん伝えていきたいです」と取り組みを強化し、佐賀の再生を応援していく構えだ。

1月下旬からの見どころについて、山口さんは「嬉野温泉の『うれしのあったかまつり』や武雄市の『TAKEO・世界一飛龍窯灯ろう祭り』は見応えがあります。酒蔵開き、竹崎カキや竹崎かになどのグルメもおすすめです」と旬の情報を教えてくれた。佐賀に出掛けて、見て、買って、味わう人が増えるほど、佐賀が生き生きとする。再生を目指す人々の力にもなる。