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阿蘇・くじゅうの絶景で、なぜこれほどに輝く? 世界中をトリコにする和太鼓集団「DRUM TAO」の魅力

提供:大分県

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コシノジュンコさんとTAOメンバーの岸野央明さん(左)、江良拓哉さん(右)

日本伝統の和太鼓で世界中を熱狂させる、エンターテイメント集団「DRUM TAO」(以下、TAO)。これまで26カ国500都市で、のべ800万人以上を動員してきた人気の秘密は、TAOしか成し得ないステージングにある。日本を代表するデザイナー・コシノジュンコさんの艶やかな衣装に身を包んだ演者たちが、舞台上でめまぐるしくフォーメーションを変えながら舞い、大小さまざまな太鼓を打ち鳴らす。その力強い響きを篠笛や三味線、琴が彩る。唯一無二の衣装や、勇壮で幻想的な楽曲・演出はどうやって生まれたのか――TAOが本拠地を構えるくじゅう(大分県竹田市)に新しく完成した野外劇場「TAOの丘」で、コシノジュンコさん、メンバーの岸野央明さん、江良拓哉さんに伺った。

舞台に魔法をかける、コシノジュンコさんの衣装

TAOの舞台でまず目を奪われるのは、日本の着物や甲冑を思わせる、華麗でスタイリッシュな衣装だろう。男性演者の鍛え上げられた逞しい体を魅せるようデザインされた衣装は、約10年前から世界的なデザイナー・コシノジュンコさんが手がけている。初めてTAOの公演を見に行った時、コシノさんは「すぐに衣装のアイデアが湧いた」という。「TAOについて何も知らなくて、太鼓だからふんどしで演奏をするのかなと思っていたの(笑)。でも違った。太鼓だけでなくさまざまな和楽器も奏で、舞台上でフォーメーションを変える。多彩な演出に惹かれました」。衣装を変えたらもっと面白くなると感じたコシノさんは、すぐにTAOの衣装デザインを引き受ける。

「TAOの丘」につくられた「TAO HOUSE」に、これまでの公演の衣装が展示されている

デザインのテーマは "コンテンポラリーな日本"だ。「私もTAOも互いに切磋琢磨し、毎回挑戦しないとあっという間に平凡になってしまう」とコシノさんは語る。大事なのは単に新しいものを作るのではなく、"その人らしさ"があるか。そうやって演者をとことん考えた衣装は「着た瞬間、スイッチが切り替わる」とメンバーの江良さんは言う。「ジュンコ先生の衣装を着ると、魔法にかかるんです。まるで自分が侍になったかのようでした」。

圧巻の光景に息をのむ野外劇場がついに完成

これまでの衣装はほとんど、室内での公演で使用されてきた。しかし今後は、野外での公演を想定した衣装も必要だとコシノさんは言う。というのも、TAOの定期公演が行われる天空の展望公園 野外劇場「TAOの丘」が、2020年9月に完成したのだ。場所は彼らの本拠地「TAOの里」にほど近い、大分県竹田市の阿蘇くじゅう国立公園内にある高台。舞台に立った演者の背景には、刻々と表情を変えるくじゅう連山の丘や森、阿蘇五岳といった、豊かな自然が織りなす雄大な景色が広がる。

阿蘇・くじゅうの絶景を背にした野外劇場「TAOの丘」での公演

実際に野外公演を鑑賞したコシノさんは「この野外劇場には人工的に作られたものが一切なく、そこに感銘を受けた」と話す。「大自然の中に居ると、人間は本当に小さな存在だと実感します。しかしTAOは、演奏も個人の魅力も、自然の舞台に負けていません。それが素晴らしかった」。野外劇場ができたことをきっかけに、今は風や光を考慮した衣装の構想を膨らませているという。そしてこの特別な劇場は、TAOのメンバーにも今までにない"力"をもたらしている。岸野さんは「この舞台に立っていると、観客や大自然と一体になって、パワーをもらっているような気持ちになるんです」と語る。

ギタリスト・SUGIZOさんとコラボ、TAOの新たな挑戦が始まる

今、野外劇場をオープンできたことは、withコロナの時代に合った方法での公演を開催できると江良さん、岸野さんは考えている。実際に鑑賞してみると、彼らの試みがよくわかる。風が吹く開けた劇場で、観客たちはソーシャルディスタンスをとった座席に座り、目の前で繰り広げられる迫力のある舞台を観ることができるのだ。この大自然とエンターテイメントを掛け合わせた新たな舞台のスタートとして、LUNA SEA・X JAPANのギタリストでヴァイオリニストでもあるSUGIZOさんとコラボレーションした公演が開催された。今後も外部のアーティストを招いた作品づくりを構想している。

2020年9月に開催された、ギタリスト・SUGIZOさんとのスペシャルライブ 

そもそも彼らはなぜくじゅうに本拠地を構え、共同生活を営み、練習と創作活動に励んでいるのか。江良さん、岸野さんは「練習も創作も、この場所でしかできない」と言い切る。「熱中してつい夜中まで太鼓を叩いても迷惑にならない。こんなにも自由な環境は他にはありません」と岸野さん。江良さんは、「創作も大自然が助けてくれるんです」と言葉を継ぐ。TAOの楽曲や演出は、メンバーが自ら手がけている。「もちろん他の場所にいても作曲はできますが、くじゅうにいると景色がインスピレーションをくれるんです」。

大分でなければ、TAOのクリエイティブは生まれなかった

心からリラックスできる場所だからこそ、イメージが湧いてくる。くじゅうは「時間があれば帰りたくなる」という、彼らの創作の原点である。その楽曲や演出は、演出家からテーマが出された後、メンバー全員で考え具現化しているという。テーマに沿って演出家にさまざまなパターンを提案しては、意見を交わし、互いの目指すところを一致させていくのだ。1曲が完成するのは早ければ1~2時間。長いときは1カ月以上もかかる。TAOが演奏するのは、一公演につき14曲ほどだが、実際はその3~4倍もの楽曲を彼らは作っている。「だからこの大分・くじゅうの景色が良いんです。追い込まれたときは自然が癒やしてくれますから」と江良さんは話す。

楽曲や振り付け、演出などのクリエイティブもTAOメンバーが手がけている 

時間をかけ、苦労を重ね、TAO独自の世界観を生み出すのは、ここでしかできないことなのだ。公演を観た人が口々に「元気が出た」「感動した」「爽快な気持ちになった」と言うのは、TAOならではのクリエイティブとくじゅうの大自然が持つ力の二つがあるからに他ならない。ちなみに、この環境に魅了されたTAOだけでなく、今、竹細工や木工、革細工などのアーティストが続々と大分県竹田市に移住しているという。

大自然とパフォーマー、観客が一体になった「TAOの丘」野外ステージ 

コシノさんの激励に応えるように、TAOは「今できること」の一つ、かねてから実現したかったプロジェクトである、動画配信をスタートしたという。野外での公演、映像配信、そしてコロナ対策をしっかりとした室内公演と、着実に「新しいTAO」は前に向かって歩んでいる。

"今だからこそ"の舞台が、大分にある。"ここでしか楽しめない"舞台が、くじゅうにある。激動の時代でも文化、芸術を発信し続ける大分県に出かけることは、未来へ進む"力"をくれるに違いない。