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「働きたい」と思う気持ちに寄り添う 現役職員が語る「サポステ」ってこんな場所

提供:厚生労働省

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働くことに悩みや不安を抱える人に無料で就労支援を行う場所がある。厚生労働省が委託する支援機関で、全国177カ所に広がる「地域若者サポートステーション(通称・サポステ)」だ。

「地域若者サポートステーション(通称・サポステ)」

当事者の「働きたい」と思う気持ちを引き出し、その周りの家族や親族の相談にも応える。2022年度は新規登録者の約7割にあたる1万2613人が就職や公的職業訓練に進んだ。実際にどのような支援を受けられるのか――。現場のまとめ役である統括コーディネーターの3人に、サポステの機能や地域ごとの取り組みについて語り合ってもらった。

話者紹介(順不同)

さっぽろ若者サポートステーション 総括コーディネーター 山名 徹さん

新潟地域若者サポートステーション 総括コーディネーター 河田 陽介さん

さが若者サポートステーション 総括コーディネーター 松尾 秀樹さん

事業開始から延べ約700万件の利用

――サポステでは、事業開始の2006年度から全国の総利用件数が延べ約700万件に上るなど、本人や家族など多くの方々が利用されています。あらためて、サポステとはどのような場所かを教えてください。

山名さん 一言で表すと、皆さんの「働く一歩」を応援する施設です。働きたいと思っているのに、さまざまな事情や悩みがあって踏み出せない方に対し、本人の思いや状況を加味しながら、就労に向けたさまざまなサポートを提供する場所になります。

河田さん 15歳から49歳まで幅広い年齢層をカバーして就労支援を行っていることをもっと多くの方に知ってほしいです。就労を巡る国の機関には職業紹介を行うハローワークがありますが、ハローワークで仕事を探す手前の段階で、悩みや不安がある人に活用してもらえる場でもあります。

松尾さん 私は「仕事をする前の準備運動が無料でできますよ」とお伝えしています。費用を心配されていらっしゃる方も少なくないですが、キャリアコンサルタントや社会福祉士などサポステに所属する各専門家から無料のサポートが受けられます。私自身、心理士としても相談業務にあたっています。

地域若者サポートステーション(サポステ)ホームページ

――ハローワークなど就労を巡る他の機関との違いも詳しく教えてください。

山名さん 松尾さんが「仕事をする前の準備運動が無料でできる」と表現されましたが、まさにその通りです。サポステでは生活リズムを整えるところから、職業観を身に付ける職業人講話、本人の希望に合わせた職業体験まで多様なプログラムを提供し、さらに担当も付いてサポート。主体的に求職活動ができる状態まで整えていく支援体制があります。

河田さん 求人を探す前にどのような働き方が合うかなど、考えを整理したい時にぜひサポステを活用してほしいです。考えがまとまっていないと、就職ができても、その後にミスマッチに悩むことが少なくないからです。サポステでの相談は基本的に担当者制です。話しづらいことを何度も話さずに済みますし、安心して話しやすいのではないでしょうか。

松尾さん お二人が話したように働く前の段階から、本人の困りごとや課題をサポートしていけることに加え、就労が決まった後も本人の希望に応じてフォローを行っている点も特徴の一つだと思います。

――就労後のフォローアップもあるのですね。働き始めてから生まれる悩みや困りごとも多くあると思いますので、相談できる場所があるのは心強いように思います。

松尾さん 就労は最終ゴールではなく、本人が自分らしく働き続けていけることが大事です。そのため、就労後も来所や電話などで相談を受けています。いざ向き合ってみると「実は人間関係がしんどくて......」などと悩みもぽつりぽつりと出てきます。働く前も後も頼れる場所としてサポステを思い浮かべてもらい、相談しやすい関係づくりを心がけています。

家族や親族もサポートする理由

――本人だけではなく、家族や親族の方々への相談支援を行っていると伺っていますが、どのような狙いがありますか。

山名さん 本人が就労に踏み出していく上で、家族や親族の心の余裕も重要と考えています。周囲がどうしていいか分からず切羽詰まってくると、本人にプレッシャーを与え続ける状態になりがちで、さらに本人が一歩を踏み出せなくなる悪循環に陥りやすくなります。家族や親族の方にもサポステを利用してもらい、今後の道筋が見えて心の余裕が生まれると、家庭が安定し、本人にもよい状況が生まれやすくなります。本人だけでなく、周囲も含めたサポートを行う狙いはこうしたところにあります。

――サポステは全国177カ所に広がっており、地域ごとの取り組みも積極的に取り組まれているそうですね。皆さんの地域の取り組みについてもお聞かせください。

河田さん 私が所属する新潟地域若者サポートステーションでは、職場体験のジョブトレーニング事業というものがあります。地域の企業の皆さんと連携させていただき、週1回2時間の職場体験を3カ月などのサイクルで何回も取り組み、自信をつけてもらう。地元の米農家や花農家の方にもご協力をいただき、農作業を手伝うプログラムもあります。

農家での就業体験の様子

また、現場発のアイデアで何かできることはないか、常に模索しながら取り組んでいます。企業説明会の企画・開催も継続的に取り組んでいますし、生活が困窮している方や、スーツのサイズが変わった方が採用面接を受けに行く際のスーツを貸し出す事業なども実施しています。

山名さん さっぽろ若者サポートステーションは、若者が気軽に立ち寄れる札幌市の若者支援施設のなかに入っています。こうした施設と共同で、同世代や異業種、同じ趣味を持った人たちと交流できる居場所作りにも力を入れています。例えば、イラストが好きな人どうしで集まるとか、毎週の決まった曜日にバドミントンをするとか、人とのつながりを持てる場が利用できます。就労に向けた活動を行う上で孤独感や孤立感を感じることもあると思いますが、日常の話し相手や仲間とのつながりが支えになるのではないかと考えた取り組みです。

同じ悩みを持った仲間と交流ができることもサポステの魅力の一つ

松尾さん 他の関係機関と協力するのは、われわれも同じです。同じビルに入居する「ヤングハローワークSAGA」「ジョブカフェSAGA」との一体的な運用による若者向けの就労支援が強化されており、月例の合同会議で情報共有を行い、役割分担をしながら支援にあたっています。その中で、われわれサポステでは、従来の支援窓口では十分な対応が難しかった方々を中心にアウトリーチによる掘り起こしと支援への誘導を実施しているほか、NPO活動で培った専門性を生かしたサポートで、一人一人の課題や特性に合わせたきめ細かな就職支援を展開しています。

無職長くても、それぞれに「道」

――現場で多くの就労支援にあたってきた中で印象に残るエピソードを教えてください。

山名さん 無職の期間が10年以上あった30代の方が、職場体験先でアルバイトを経て、正社員として就職が決まった例があります。当初はサポステでコミュニケーションの訓練から始め、働く上でのさまざまな基礎を身に付けた後、職場体験に参加。その後、アルバイトで働きぶりが認められ、正社員に採用されました。企業の方から「一緒に働いてみたら、一つ一つの仕事が本当に丁寧で、誠実な人柄も伝わった」と評価されたそうで、支援にあたったわれわれとしても履歴書だけでは見えない部分を認められたことが嬉しく思いました。

職業講話の様子

河田さん 就職以外にも選べる道があります。20年ほど無職だった方ですが、われわれが企画した企業説明会をきっかけに週2日の軽作業のアルバイトを開始しました。そこから「もっと働けるようになりたい」と意欲と自信が生まれ、職業訓練に移行。まだ、就職先は決まっていませんが、建設系の資格をたくさん取得され、「いつでも働ける準備は万端」というところまで歩みを進めてこられました。サポステで一歩でも半歩でも進んでいく積み重ねが、本人の自信になっています。

松尾さん 相談に来る方の中には非常に厳しい境遇で頑張ってこられた方も多くいます。ある30代の方は職場のいじめが原因で離職。幼少期に虐待を受けていたこともあり、非常に強い対人不安で「すべてに自信がない」と語っていました。そこで、私も心理士として話を聞き、コミュニケーションセミナーなども受けてもらいつつ、本人の了承を得て医療機関や福祉機関とも連携した支援を進めました。結果的に就労につながりましたが、今も時々、フォローアップでお話を聞くなどのサポートを続けています。

――最後に、就労に悩みを抱える本人、家族や親族の方に向けてメッセージをお願いします。

山名さん サポステの存在を知ってからも、いざ利用するまでに数カ月かかった人も多くいます。少しでも利用してみようかなと思ってくださった方は焦らなくていいので、自分のタイミングで地域のサポステに足を運んでほしいと思います。

河田さん 独りで抱え込まずにまず相談に来てほしいです。自分のしたいことが分からないままでもオーケーです。うまく話さなくても大丈夫。まずは来てくれるだけでいいです。「スタッフと一緒にこれから考えていきましょう」と伝えたいです。

松尾さん 来所が難しい場合は、電話やオンラインでの面談も可能ですし、訪問支援も行っています。皆さんが抱える悩みが、サポステの支援だけでは解決が難しい場合、さまざまな支援機関とも連携してサポートしてまいりますので、安心してご相談ください。

さっぽろ若者サポートステーション 総括コーディネーター 山名 徹(やまな・とおる)

さっぽろ青少年女性活動協会に入職後、札幌市勤労青少年ホームの勤務を経て、2014年から現職。キャリアコンサルタント、社会福祉士、公認心理師の資格を生かした支援にあたる。保護者向けなどの講演活動にも力を入れる。

新潟地域若者サポートステーション 総括コーディネーター 河田 陽介(かわだ・ようすけ)

2016年から新潟地域若者サポートステーションに着任し、ジョブトレーニングサポーターとして勤務。2020年から現職。関係支援機関との調整役ほか、サポステ利用者と企業を結ぶ企業説明会の実施などにも力を入れる。

さが若者サポートステーション 総括コーディネーター 松尾 秀樹(まつお・ひでき)

さが若者サポートステーションで2006年から相談支援に従事し、2016年から現職。不登校やひきこもりの子ども・若者の自立支援にあたるNPOスチューデント・サポート・フェイスの事務局長も務める。公認心理師、臨床心理士。