「&ONE(アンドワン)」とはバスケットボール用語で「得点後にもう1本シュートを打てるビッグプレー」を意味する。男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)1部の川崎ブレイブサンダースが取り組む地域貢献は、他者と向き合って共生・共栄していく姿勢も表し、人と人とのつながりがビッグプレーを生むという希望を込めて「&ONE」と名付けられたという。
スポーツパートナー制度の成功が生み出すもの。バスケが、チームが、この街が、好きになる
川崎市は2013年に「かわさきスポーツパートナー」制度を設けた。市をホームタウンとし、トップリーグに所属するなど優秀な成績を収めていて継続した活躍が期待できるとともに、その知名度により川崎市の魅力を発信できることなどがパートナーとなれる要件だ。パートナーとなったチームには、競技の普及やスポーツ推進に貢献する役割が期待される。一方、市はチームの取り組みをPRするなどし、チームを全面的に支える。互いに連携し、スポーツの推進と市のイメージアップを図る狙いだ。
かわさきスポーツパートナーになっているのは、川崎ブレイブサンダースのほかにサッカーの川崎フロンターレなど6チームある。いずれもリーグ屈指の強豪チームだ。「こうしたスポーツチームの存在は川崎市の強み。市民が応援しチームが結果を残すことで、市民としての誇りや市への愛着が生まれるのでしょう。シビックプライドの醸成につながります」と川崎市市民スポーツ室の担当者は話す。
川崎ブレイブサンダースが行った「ふれあいスポーツ教室」=2019年、川崎市内の小学校で
川崎ブレイブサンダースのかわさきスポーツパートナーとしての活動は積極的で、市の担当者も感謝する。選手による小学校でのふれあいスポーツ教室はコロナ禍で2019年を最後に中止となっているが、それ以前は活発に行われていた。選手2人が学校に派遣され授業を行い、ドリブルやシュートの手ほどきから選手対大勢の子どもで変則ゲームを行うなど、子どもたちにとってプロの迫力を間近で感じながらバスケットボールの楽しさを味わうことができるものだ。ようやく、学校外でふれあい教室を再開しつつあるが授業での再開が待ち遠しい。この夏、川崎ブレイブサンダースは川崎フロンターレとコラボしたTシャツを市に寄贈。市立中学・高校57校のバスケットボール部員に配布されるなど、チームの地域貢献は多岐にわたる。
ファンの熱心な応援と行政支援、そして結果を残すチーム、チームの地域貢献というサイクルが成功しているのだろう。ブレイブサンダース広報部の担当者はこう話す。「街を活気づけるものとしてプロスポーツを大切にしてくれる行政の思いを感じます。市長も出陣式やホーム開幕戦に来てくださるなど、市の方々が応援してくれていることを実感しながらチームも動いています」。
今年9月、シーズンの出陣式に川崎市の福田紀彦市長(中央右)が出席。「期待しています」とエールを送った。中央左=川崎市スポーツ特別賞を受賞した藤井祐眞選手 (C)KBT
「健康」と「働きがい」、川崎市を「住んで幸せな街」にすること
2020年から川崎ブレイブサンダースが始めたSDGsプロジェクト「&ONE」。バスケットボールやホームゲームでの試合運営を通して、全ての人に「健康」と「働きがい」の機会を提供すること、川崎市をより「住んで幸せな街」にすることがテーマだ。ベースとなっているのは、国連で採択された2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」の17目標のうち、「すべての人に健康と福祉を」「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」の3つを対象として施策を推進している。
今年8月、川崎ブレイブサンダースは京急川崎駅近くに「カワサキ文化会館」を開設。ブレイキンやヒップホップダンス、eスポーツ、3×3バスケットボールなどが体験でき、若者文化の創造発信拠点として運営している。同社の元沢伸夫社長はこの夏の会見時に「川崎からバスケを文化として育て、地域振興に貢献するというチームの存在意義を実現していく」と話した。その後もチームは、市内の商業施設や公園にバスケットゴールの設置を市と連携して行い、子どもや若者が気軽にバスケを体験できる環境づくりを次々と進めている。若者文化をこの街から世界に発信したいというのは、チームと川崎市、共通の思いだ。
若者文化の情報発信などを目的に今年8月に開設した「カワサキ文化会館」 (C)KBT
ホームゲームの入場者数に1円をかけた寄付金を、チームが川崎市内の「こども食堂」に送っているのも「&ONE」の取り組みの一つ。昨シーズンから試合のアシスト数×1000円を、子どもたちのバスケットボール振興のための活動にと寄付も行っている。チームによると、昨シーズンはB1最多の1353アシストをマーク。個人ではなくチームで戦う伝統的なプレーのコンセプトがSDGsにもつながっている。子どもたちにとっても川崎市をより「住んで幸せな街」になるように力を注いでいる。
川崎ブレイブサンダースの「&ONE」やスポーツパートナーとしての取り組みを「スポーツの力が感じられる」と行政も高く評価している。
利用者と市のつながりを深めるふるさと納税
Bリーグ1部で年間王者を決めるプレーオフに毎シーズンのように進出している川崎ブレイブサンダースは全国的に知名度の高い選手が多く、川崎市内だけでなく、近郊の横浜市、東京都など全国的にファンが多い人気チームだ。そのホームゲームを観戦できるチケットが、このほど川崎市のふるさと納税の返礼品に登録された。
今季から入場規制がなくなり、とどろきアリーナには満員の5000人の入場が可能になった (C)KBT
チケットは1階アリーナの指定席。コートサイドでじっくり試合を観戦できる。スタンドから観戦する野球やサッカーなどと違い、コートサイドで観戦すれば選手との距離が近く、臨場感は他の競技とは比べものにならない。
川崎市財政局資金課でふるさと納税を担当する職員は「返礼品のチケットを利用して実際に市に足を踏み入れてもらえば、川崎を応援したことを忘れないと思います。まちの新たな発見があれば、ふるさと納税の利用者とのつながりがより深まります」と説明する。
返礼品にはユニフォームもある。2022-23シーズンのレプリカで、使用済みペットボトルや繊維クズなどから再生されたリサイクルポリエステル素材などを使用して作られている。左脇には川崎市のマークとなっている3色カラーが描かれている。チームの事業戦略マーケティング部の担当者は「リサイクルの素材を使用し、大小さまざまなドットのグラデーションやサイズの多展開で多様性を表しています」と説明する。
多様性の包括は川崎市のテーマでもある。若い世代を中心に住む人が増え続け、人口は今年154万人を超えた。神戸市を抜き政令指定都市で第6位を誇る。製造業が盛んで製造品出荷額は大都市で全国1位(令和2年工業統計調査)。文化・芸能、スポーツなど地域資源は豊富。「Colors,Future! いろいろって、未来。」という市のブランドメッセージの通り、まさに多彩であるのが川崎市だ。ユニフォームはブレイブサンダースの「&ONE」プロジェクトを凝縮しているだけでなく、市のブランドイメージにしっかり寄り添っている。
昨季のレギュラーシーズン最優秀選手賞を受賞した藤井祐眞選手のユニフォーム(レプリカ)。人気マスコットキャラクター「ロウル」のぬいぐるみ(右上)。応援に欠かせない選手名タオル(右下) (C)KBT
「一押し選手」のプレーに目を光らせるファン
10月21日にとどろきアリーナで行われたシーホース三河戦は、満員に近い4600人を超えるファンが詰めかけ、熱戦を楽しんだ。東京都文京区の山本裕美さん(52)は川崎ブレイブサンダースのポイントガード篠山竜青選手の大ファン。「たくさん点を取るし、チームを引っ張る姿がいい。会場を盛り上げてくれる。他のチームのファンでも篠山選手を嫌いという人はまずいない」とBリーグを代表する篠山選手のプレーを見守った。
他のチームのファンからも一押し選手に挙げられている篠山竜青選手(中央) (C)KBT
ファンなら選手のプレーをより近くで見られる席を好むのは間違いないところだ。東京都足立区の男性会社員(32)は観戦チケットが返礼品になったことを初めて知り、思わず指をくわえた。「ファンクラブに入っていてもコートサイドのチケットはなかなか手に入らない。良い席で観戦できる一つの手段としてふるさと納税があるのなら、ぜひ利用したい」と声を弾ませた。
返礼品の一つでもある選手の名前入りタオルを掲げる川崎ブレイブサンダースのファン (C)KBT
「&ONE」と市の理念が全国へ
選手の体がぶつかり合う音。ドリブルする時のボールの振動。目の前に選手が飛び込んでくる意外性。コートサイドでの観戦はバスケットボールの醍醐味が十二分に味わえる。
川崎ブレイブサンダース広報部の担当者は「試合を含めて全ての面でチームはSDGsに取り組んでいます。それは大きなハードルではなく、みなさんも気軽にブレイブサンダースに接してほしい。試合観戦やユニフォームを着ていただくだけでSDGsの達成につながります」とチームの取り組みへの参加を呼びかけている。
こうしたスポーツチームの存在は全国に誇れる川崎市の強み。バスケットボールの試合とは別に、川崎ブレイブサンダースのもう一つの重要な活動を川崎市も応援している。ふるさと納税を通して「&ONE」と川崎市の理念が全国へと広がっていくはずだ。