Yahoo!ニュース

子どもの未来をつくるデザインを表彰するキッズデザイン賞

提供:特定非営利活動法人キッズデザイン協議会

最終更新:

高層ビルと江戸創業の老舗が共存する東京・日本橋。江戸情緒残る甘酒横丁から大門通りに入ると、第15回キッズデザイン賞優秀賞(消費者担当大臣賞)に輝いた認可保育所「まちのてらこや保育園」の黄色いのれんが目に飛び込んでくる。

まちのてらこや保育園ののれん

"まち"が保育園

ビル1階入口に掛かる、のれんの真ん中には「町」に「人」(ひとやね)をかぶせた紺色のロゴ。黄色い布地に映える江戸前ロゴは粋だが、優秀賞の受賞理由は、このロゴの"デザイン"ではない。ひとやねの形が示す、まちのおじさんおばさんが子どもを温かく見守る"先生"となり、まち全体で子どもを育てるという園のユニークな保育理念と取り組みの素晴らしさにある。
園児が遊ぶ"庭"は、お年寄りらまちの人がくつろぐ、まちの公園だ。園児が学ぶ場の一部は、近所の和菓子屋や組み紐屋、和紙店などの老舗。店主のおじさんおばさんらから、お菓子作りや組み紐・紙透き体験の手ほどきも受ける。まちそのものが"遊び・学びの場"として園児の前に開かれている。

地元の人と交流

このビルの中の園児約30人の小さな保育園は、園児と触れ合う大人の輪が広がるたびに、ビルの延床面積からは想像もできない、広さと豊かさを手にする。園児を中心につながる大人の輪はまちの人的交流も活発にする。
東京の真ん中で静かに進行するこの保育園の試みにいち早く気付き、多くの応募作の中からその意義を見抜いて顕彰したのが、3月から第18回の作品募集を始めた、子どもたちのよりよい未来を目指す2007年創設のキッズデザイン賞だ。
まちのてらこや保育園を設立した高原友美理事長は「賞という公の形で評価されたことで園の取り組みに対する共感の輪が広がり、保育士をはじめ私たちの自信につながりました。保育の試みは応募対象ではないと当初思ったのですが、応募可能と知人に教えられ応募しました。素晴らしい保育の取り組みは全国にたくさんあります。いくつかでもキッズデザイン賞に応募されて受賞を通じて世の中に広まれば、関係者の参考になり、子育て環境はもっとよくなります」と話す。

課題変化に応じて成長

キッズデザイン賞が、まちのてらこや保育園の試みをいち早く評価できたのは、子どもを取り巻く課題の解決に向けて幅広い観点からのアイデアを長年募ってきた背景がある。子どもの身体特性に配慮した製品やIT活用の各種子育て支援、子ども向け商品開発の基礎データにもなる調査研究など、子どもに関するさまざまな「もの、こと」を、子どもを守り育てる社会に役立つ「デザイン」として顕彰し世の中に広めている。
第17回までのキッズデザイン賞の受賞総数は3911点。この賞を主催するNPO法人キッズデザイン協議会(東京都港区)の高橋義則理事は「キッズデザイン賞もやっと18才の"大人"に成長した」と感慨深げに振り返る。「受賞作すべてが頭の中に入っている」(協議会スタッフ)といわれる高橋理事は、わが子も同然の受賞作の"成長"ぶりをこう語る。
「キッズデザイン賞の対象は、子どもに配慮した製品、感性、創造性の向上や子育てに関する諸活動、アプリ・サービス、建築・空間、調査・研究など幅広い。この幅広さはこの賞の特長だ。当初は子どもが安全に使用できる製品などの受賞が目立ったが、子育て環境の変化や技術の進展などを背景に、近年は新たな発想の多様な子育て支援やアプリ活用事例の受賞も増えている。この賞そのものが子どもを取り巻く諸課題の多様化に応じて成長している」

コモン活用の地域創生

鮎喰川コモンで遊ぶ子ども

この集合住宅「大埜地(おのじ)の集合住宅」は20戸で子育て世帯約70人が暮らす。入居者は、県外からの移住者や県内移住者のほか、もとから神山町に住んでいたが子育てするための新居として同集合住宅に引っ越してきた町民もいる。
町の委託を受けて町の地域創生に取り組む神山つなぐ公社(神山町)の高田友美さんは「町に住む人が子育てを楽しみながら暮らせる神山町らしいコミュニティづくりに努めています。集合住宅では人口が減少する中でも子育て世帯の保護者・子ども同士の交流が生まれます。 集合住宅の隣にある鮎喰川コモンは、町民誰もが立ち寄れる交流施設や原っぱがあり、町民を緩やかにつなぐ役割を果たしています」と話す。
町の中心を流れる鮎喰川は町民の郷土愛の源泉である町のコモン(公共財)だ。その側の鮎喰川コモンで元気に遊ぶ子どもたちの姿は町の大人たちも元気にする。子どもたちは松ぼっくりなど自然の素材を使った遊びを日々考え出す。想像力や人への思いやりなど遊びの中で子どもが得るものは少なくない。

自然豊かな神山町

高田さんは「遊び相手が近くにいない子どもは家の中に閉じこもってしまいがち。鮎喰川コモンはとても大切な場です。鮎喰川コモンは、誰もが気軽にふらっと立ち寄れる開かれた空間です。農家の方がおすそ分けの野菜を置いていくこともありますよ」とコモンの役割を説明する。
「キッズデザイン賞の応募の準備、受賞を通じて、これまでの取り組みの意義をあらためて見つめ直し、持続可能な町のあり方を深く考える機会になりました」と語る高田さん。受賞を今後の活動の力に変えている。
高橋理事は「人口が減少する中での地域創生という困難な課題に挑戦する意欲的な取り組みだ。同じように人口減少に直面する地域を勇気づける」と評価する。

増えるオンライン相談

産婦人科オンライン・小児科オンラインのイメージ

少子化や子育ての課題に医療専門家が向き合った取り組みが「産婦人科オンライン(第13回奨励賞 キッズデザイン協議会会長賞)・小児科オンライン(第11回優秀賞 経済産業大臣賞)」だ。
このサービスは、妊娠、出産、子育てにおける孤立を防ぐことを目的とする。スマホで気軽に産婦人科医や小児科医、助産師という専門家に相談できる。現在130の自治体の妊娠、出産、子育て支援施策や約50の企業など各種団体の福利厚生や付帯サービスの一環として展開されており、対象者は無料で利用できる。スマホを使い慣れたネット世代の利用が多い。
受賞の最大ポイントは、産婦人科医や小児科医、助産師が相談に応じるため回答の専門性、信頼性が確保されている点だ。
このサービスを提供するKids Public(キッズパブリック、東京都千代田区)の橋本直也代表(小児科医)は「医師・助産師が回答する点を評価していただきうれしかった。回答の信頼性は当然のことですが、一番こだわっている点です。子どもの発達や妊娠中の体調など専門家でないと回答できないことはたくさんあります。ネット世代は、日ごろから親しんでいるインターネットの誤った情報を安易に信じてしまう。私たちは、そんな様々な情報に晒されて余計に不安になっている方へなるべく適切な情報をお伝えしたいと思っています。また、なるべく心のハードルを下げて相談していただきたいと思っています。不安や悩みを一人で抱え込むことなく、気軽に相談してほしい」と語る。
高橋理事は「インターネットは便利だが、誤情報にさらされる危険が常にある。人工知能(AI)の悪用などネット社会の"落とし穴"から子どもや保護者をどう守るかはキッズデザイン賞の大きなテーマの一つだ。孤立する子育て世帯をネット上の誤情報から守り、必要な情報へと導く、産婦人科オンライン・小児科オンラインは質の高い情報インフラの役割を果たしている」と述べる。

男性の育児参加を促進

男性の育児参加を促す「濱帯」

オンライン相談は技術革新のネット時代に生まれた新サービスだが、対照的に第17回キッズデザイン賞では伝統ある産業と昔の子育て習慣に学んで誕生した、男女共同参画の新時代にふさわしい子育て商品が優秀賞(男女共同参画担当大臣賞)を受賞した。中小企業ワンスレッド(横浜市)の「濱帯(はまおび)」だ。
濱帯は、横浜で昔盛んだったシルクスカーフの伝統縫製と捺染(なっせん)技術で製作した長さ約5メートル、幅約35センチの布。赤ちゃんをおんぶしたり抱いたりする「子守り帯」として活用できるほか、災害時はけが人を背負う搬送布やロープの代用としても使える。
ワンスレッドの半田真哉社長は「男性の子育てを促進する商品を作りたいと考え、昔見た赤ちゃんをおんぶするさらしを参考に作りました。帯の結び方を教え合うなどして夫婦で子育てするきっかけにもなります。地元の伝統技術も残したかった」と語る。商品普及も兼ねて開く「濱帯体験会」は若いパパも数多く参加する。半田社長は「受賞で濱帯の知名度が上がり注文も増えました。会社の信用も増し、自治体と一緒に行う子育て・防災の催事も増えています」と喜ぶ。高橋理事は「商品開発だけでなく濱帯体験会も開き、地域や子育て世帯をつなぐ点が素晴らしい」とたたえる。

創作ダンスで校歌残す

子どもたちの身体表現の楽しさを伝えるワークショップ

布の特性を生かして用途を広げる濱帯に似た融通無碍(むげ)さを示すのが、宮崎県を拠点に国内外で活躍するコンテンポラリーダンスカンパニー「んまつーポス」(宮崎市)。「逆さから物事を考えることで新たな価値を創造する」ことを掲げ、スポーツマンの逆さ読みを団体名称とする、んまつーポスは第11回から毎回受賞するキッズデザイン賞の"常連"だ。
んまつーポスの豊福彬文代表は「キッズデザイン賞は、私たちが取り組むコンテンポラリーダンスという一見分かりにくい身体芸術表現を社会に説明する際に橋渡ししてくれる"表現"の一つです。受賞で活動の舞台は広がりました。地元宮崎県の行政や企業にも応募を呼びかけています」と連続応募の理由を語る。
これまで子どもたちに、身体表現の美しさ、面白さ、楽しさなどを、舞踊教育学の研究者・高橋るみ子さんらと一緒に伝える「身体表現ワークショップ」を被災地や全国各地の美術館などで展開して受賞を重ねてきた。
第17回奨励賞(キッズデザイン協議会会長賞)を受賞した最新の取り組みは、長崎県対馬市の対馬博物館と組んだ「創作ダンスで校歌を残すプロジェクト」。対馬市の小学校で、校歌の歌詞や学校の思い出などを身体で表現する「創作ダンス」を各小の児童や教諭らと共創し、踊った映像などを博物館の展示資料として残した。少子化で廃校が増え多くの校歌が忘れられている現状や新型コロナ以後みんなで元気に歌うものから静かに聴くものに変化した校歌を覚えられない子どもの増加などが、このプロジェクトの背景にある。
豊福代表は「その土地ならではの身体表現があります。土地の文化、歴史、民俗は"体"に宿ります。対馬の子どもたちが校歌や学校の思い出を身体で表現した創作ダンスには対馬の文化、歴史、民俗が刻まれており、ダンス映像の鑑賞を通して、校歌や学校の思い出、対馬の文化は将来世代にも伝わります」と話す。
高橋理事は「研究者の学術的知見を取り入れたり、異分野とダンスの融合によって、独創的な取り組みを次々と生み出している」と逆転発想の豊かさを指摘する。

子どもの未来のために

第18回キッズデザイン賞の応募を呼びかける高橋義則理事

第18回キッズデザイン賞の応募が3月から始まった。締め切りは5月13日。デザインミッションに基づく3つの部門と作品分野の5つのカテゴリーから、1つずつを選んで応募を受け付けている。応募審査料は原則6万500円。自治体・公的機関は1万6500円。調査・研究の応募は無料。応募方法など詳細はキッズデザイン賞ホームページ。高橋理事は「みんなでよりよい子どもの未来をつくっていきましょう」と応募を呼びかける。