政令指定都市の中でも人口増加比率はナンバー1で、特に20〜40代の子育て世代が多いといわれる川崎市。政令指定都市としては6番目の人口を擁する大都市である。そんな川崎市、実は環境面での成長も著しい。環境省の調査によると、市民1人1日あたりのごみ排出量の少なさが3年連続で政令指定都市1位なのだ。 今回は「環境先進都市」の、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを、「ペットボトルのリサイクル」に注目して探っていく。
毎日の買い物ついでにリサイクル
買い物客で賑わうサミット尻手駅前店。その入り口付近に何やら見慣れない機械が設置されている。実はこれ、ペットボトル回収機。利用している人に話を聞いてみると、「この機械に入れるとリサイクルされるので、できるだけここに持ってくるようにしているんです」「買い物ついでに捨てられるので便利ですよね」といった声が聞けた。
このペットボトル回収機の設置は、川崎市がスーパーマーケットチェーンのサミットなどと進めている、「脱炭素社会の実現」に向けた取り組みの1つ。2021年7月から市内3店舗(2022年2月時点)で、家庭から出されるペットボトルを回収している。回収されたペットボトルは、市内の企業が独自の技術でリサイクル。これは「ペットボトルからペットボトルを再びつくる」という、プラスチック資源の新たなリサイクルモデルを生み出すための実証実験なのだ。
こうした店舗で回収されたペットボトルは、「資源ごみ」として、市内にあるいくつかのリサイクル事業者へと運ばれて、各工場の特徴を生かしてリサイクルが行われる。
ペットボトルからペットボトルをつくる実証実験のための回収機
使用済みペットボトルから新たな製品原料をつくる
実際にペットボトルがごみとして回収された後、どうなるのか。市の臨海部に工場を構えるJ&T環境株式会社で、リサイクル工程を見せてもらった。
川崎区水江町にあるJ&T環境株式会社の川崎ペットボトルリサイクル工場では、ペットボトルの「メカニカルリサイクル」の原料(再生ペットフレーク)を製造している。ちなみにメカニカルリサイクルとは、廃棄物を新たな製品の原料として物理的に処理して再生させるリサイクル方法。この工場では、使用済みペットボトルを粉砕・洗浄するなどして、再生ペットフレークを製造している。
私たちの暮らしに身近な飲料用ペットボトル、卵パック、果実トレー、衣類といった様々なものに、こうした再生ペットフレークなどが活用されているわけだ。
リサイクル工程を簡単に説明すると、この工場では、再生ペットフレークにできない塩ビボトルやカラーボトルと、透明なペットボトルを分別した後、透明なペットボトルだけを破砕してフレーク状に細かくし、洗浄・脱水・乾燥を行っていく。途中、ラベルやキャップ、紛れ込んだガラスや金属、小石などの異物をしっかり分離除去することで、不純物が極めて少ない再生ペットフレークの製造が可能になるのだという。
ペットボトルは圧縮され運びやすい状態で回収される。キャップ、ラベル、飲み残しがあるものは機械で読み取り、はじき出す(写真はJ&T環境株式会社の「ラベル回収機」の様子)
ペットボトルを地産地消で循環させたい
「国内でも数少ないアルカリ洗浄ができる工場なので、より高品質で透明度の高い再生ペットフレークをつくることができます。今後のさらなる展開などについて、川崎市と一緒に考えていきます」(工場長・河﨑健さん)
現場を管理するJ&T環境株式会社の河﨑健工場長
粉砕、洗浄などの工程を経て、真っ白できれいなフレーク状の原料になる
なお、この工場では、リサイクル工程で除去されたラベル類は固形燃料などに、キャップやカラーボトルは製品原料として、すべて、リサイクルしている。
「ここで製造された再生ペットフレークのうち、再びペットボトルに生まれ変わる割合を、今後さらに増やしていきたい」と、河﨑さん。その理由は、キャップやラベルなど異物の徹底的な分離・除去とアルカリ洗浄により、再生ペットフレークの品質向上に努めていることと、飲料メーカーを中心に、そうした品質の高い再生材に対する社会の関心が非常に高まっていることにある。
J&T環境株式会社では、年間約15,000tものペットボトルが再生ペットフレークに生まれ変わっている
「ペットボトルのリサイクルは、地産地消で循環させていくことが理想です。川崎市は人口が多く、首都圏などの大消費地にも近いので、多くのペットボトルを処理して循環させるという仕組みを検討しやすい。集まったペットボトルを再びペットボトルに戻してお返しするという「ボトルtoボトル」の取り組みに、今後も一層力を入れていきます」(河﨑さん)
実はこの「ボトルtoボトル」の推進は、ごみの削減のみならず、新たな石油資源の消費が抑えられ、CO2削減にもつながる。当然、地球温暖化を食い止める手段の1つにもなるのだ。
日本で類を見ない技術が川崎に!
さて、川崎市内の同じ臨海部に、画期的なペットボトルリサイクルを行う「すごい会社」がある。それがペットリファインテクノロジー株式会社。実はこの会社、日本で類を見ない技術を持って、使用済みペットボトルを化学(ケミカル)の力でリサイクルしているのだ。
「当社が手がけるケミカルリサイクルは、世界中で技術開発が急がれている技術の1つです」と話すのは、伊賀大悟社長。「通常のペットボトルリサイクルの場合、どうしても不純物が蓄積してしまうといった理由から、1つのペットボトルを原料としてリサイクルできる回数には限りがあります。しかし私たちは、独自のケミカルリサイクル技術で使用済みペットボトルを分子レベルまで分解、再構築させるため、まったく新しいペットボトルをつくることができます」
新たなペットボトルを、化学の力で繰り返し蘇らせるケミカルリサイクル。SDGsへの関心が高まり、サステナブルという言葉が浸透するにつれて、同社独自の資源循環を実現させる技術への注目度も上がっている。
ケミカルリサイクルの工程を説明するペットリファインテクノロジー株式会社の伊賀大悟社長
工場の本格稼働は2021年10月からなので、同社がリサイクルしたペットボトルが本格的に流通するのはこれから。「飲料メーカーなど、利用いただく企業の計画次第ですが、既に一部店舗ではケミカルリサイクルで再生したペットボトルが並び始めています」と笑顔で話す、伊賀社長。
「ペットボトルのリサイクル意識を高めていただくにも、何に生まれ変わっていくかを、使った人が実感できることが大事です。わざわざペットボトルをきれいに洗ってフィルムを剥がし、分別してごみの日に出してくださった皆さんの行動に応えるかたちで、"循環が実感できるものづくり"を、私たちもサポートしていきたいと思っています」(伊賀社長)
ケミカルリサイクルの工場。稼働時は水蒸気が吹き上がる
ペットリファインテクノロジーでケミカルリサイクルしたペットボトルが、世の中に出回るようになった時には、同社のシンボル・ハチのマークをペットボトルに印刷するなどして、「これが生まれ変わったペットボトルなんだ」と消費者が実感できる仕組みを考えていきたいと、伊賀社長は構想の一部を明かしてくれた。
目指すは循環型のプラリサイクル都市
川崎市におけるごみの歴史を紐解くと、実は1990年に「ごみ非常事態」を宣言した過去がある。人口増加や経済の発展とともにごみが増え続け、市が持つ焼却処理能力の限界に迫る状況になったからだ。
「そこが1つの大きな転機になったはず」と話すのは、川崎市環境局の稲垣厚之氏。川崎市ではごみを減らすために、地域住民から"減量指導員"を募って市民の指導や啓発活動を推進。また、普通ごみの収集回数の見直しや分別品目の明確化、事業ごみの削減など様々な取り組みを進めてきた。
廃棄物の政策を推進する川崎市環境局の稲垣厚之氏
「地域の皆さんの協力のもと地道な取り組みをコツコツと続けた結果、(1990年当時)年間55万t以上焼却していたごみも、昨年度には36万t以下まで抑えることができました。人口は30万人以上増えているにもかかわらず、です。今、ごみを減らす手段の1つはリサイクルですが、リサイクル推進にあたっては『自分が出したごみが何に生まれ変わるのか?』が分かることも大切。それが分かれば、必要な行動も伴いやすいと感じます。ですから、まずはペットボトルという身近なものをきっかけにして、環境やリサイクルに興味を持ってもらえるよう積極的に市民の皆さんに働きかけていきたいと考えています」(稲垣氏)
川崎市が掲げるのは、「100%プラリサイクル」という大きな目標だ。ペットボトルだけでなく、市内で回収するすべての製品プラスチックを100%市内でリサイクルする「循環型のプラリサイクル都市・かわさき」を目指している。
川崎市が目指すプラスチック循環のイメージ
「ペットボトルはすでに約9割の分別率ですが、容器包装プラスチックなどは約60%が焼却処分され、資源として生かせていないのが現状です。しかし、川崎臨海部のリサイクル事業者には市内で年間排出されるプラスチックの何倍もの量を処理できる能力、つまり100%プラリサイクルを実現できるポテンシャルがあるので、市民の皆さんや事業者との連携を強化し、プラリサイクルの可能性を広げていきたいです。なんといっても川崎市の強みは、メカニカルとケミカルの両方のリサイクル技術でペットボトルの再生利用を進められること。脱炭素社会の実現に向けては、資源循環の取り組みが重要。川崎市の取り組みを1つのブランド、あるいはリサイクルスキームとして、他の自治体にも広めていけたらと思います」(稲垣氏)
こうした先駆的な取り組みが「川崎モデル」として根付き、全国へ羽ばたく日は、そう遠くないのかもしれない。
私たち一人ひとりのリサイクルへの興味・関心の高まりが、川崎の未来をつくる