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「ものづくりのまち・川崎」で生まれた職人技の粋。プロもうなる、オンリーワンの調理器具

提供:川崎市

最終更新:

川崎市内の金属ヘラ絞り加工企業が製造する「オーブン燻製機」

「ものづくりのまち」として発展してきた川崎市。市内には優れた自社製品・加工技術を有する中小企業が集まり、地域経済活性化の原動力となっている。川崎市では、そうした中小企業を「川崎ものづくりブランド」認定事業や、現役の技術・技能職者を匠として認定する「かわさきマイスター」事業などで支援。2019年からは「ふるさと納税」の返礼品として、「川崎ならでは」「川崎らしさ」の多様な製品・商品群を追加し、市内外に発信している。川崎市が誇るオンリーワンの製品・商品は、どのようにして生まれているのか。ふるさと納税の返礼品に20年10月から追加された、人気の「オーブン燻製機」製造企業を訪ねた。

燻製にこだわる人々から支持される逸品

「ベーコンなんかもいいけど、シシャモがね、一番の出来かな。短時間で、ふっくら黄金色に仕上がる。塩サバやチーズの燻製も、酒のおともに最高ですよ」

川崎市高津区にある、今野工業株式会社。同社専務取締役の今野靖尚さんが、ヘラ絞りという金属加工技術を駆使してつくる「オーブン燻製機」が売れに売れている。そもそものきっかけは、友人家族とキャンプにでかけた際に、燻製のつまみづくりを試したこと。「以来、燻製づくりにはまってしまって。ただ、私が欲しいと思える市販の製品が見つからず、『それなら自分で燻製器をつくってみるか』が、始まりでした」

ふたに木製の取っ手をつけたコンパクトサイズの燻製器が第1号。ふるさと納税の返礼品に選定されたのは、第2号のオーブン燻製機だ。熱燻、温燻、蒸し燻のほか、おそらく世界初、冷燻(温度を上げずに行う燻製)まで、この1台で可能。燻製商品の開発・販売企業や調理人といったプロ、燻製づくりが好きなアマチュアが、待ってましたとばかりに手をたたいた逸品だ。そんな同製品は、特許を取得し、2020年度GOOD DESIGN AWARDも受賞している。

チーズなら、1時間ほどで香り豊かなスモークチーズになる

「機能性はもちろんですが、製品の見た目やデザインにもこだわりました。また、製造工程の中でふたやボディの材質に傷ができやすいのですが、絶対に傷をつけないよう細心の注意をはらっています。お客さまに、決して安くない金額で買っていただくものですから」と、今野さん。購入者がSNS上で「素手で触るのがもったいないくらい美しい」とコメントしてくれたときは心底うれしかったと、目を細める。

異業種コラボレーションが活路

このオーブン燻製機の正式名称は、「Now Field オーブン燻製機 SMOKY FLAVOR edition.」という。今野さんが、同社ヘラ絞り加工製品のうち、個人購入できる製品群を「Now Field」というブランドで展開しているものだ。また「SMOKY FLAVOR edition.」とは、岐阜の株式会社スモーキーフレーバーとの共同開発であることを意味する。

「スモーキーフレーバーは、オリジナル燻製商品や燻製器を開発・販売している企業です。社長の服部弘さんが当社の第1号燻製器をインターネット上で見つけて連絡をくれました。こんなマニアックなものづくりをする企業なら(笑)、自分の理想の燻製機をかたちにしてくれるのではないか、と。私も服部さんのつくる燻製品を取り寄せて食し、彼の燻製へのこだわりの強さにほれて、共同開発に乗り出しました」

川崎と岐阜――離れてはいるが、Eメールや電話でやりとりし、半年ほどで製品は完成したという。「自分一人で第1号を開発した期間に比べたら、実にスムーズに仕上がった。服部さんの構想に私の技術をどう組み合わせていくか試行錯誤の連続でしたが、同じ目標や夢、しかし異なる視点を持つ仲間がいることの大切さを実感しました」と、開発過程を振り返る。

「せっかくつくったものも売れなければ意味がない」と語る今野さん

オーブン燻製機は、完成直後の予約注文が100台以上。現在も、新型コロナウイルス感染防止対策による「巣ごもり需要」などもあり、売り上げを順調に伸ばしている。「スモーキーフレーバーには、SNS上に1万人以上のフォロワーさんがいます。社長の服部さんは、そうした燻製ファンの方々からの信頼が厚い。彼なしではこの製品もできなかったし、彼とフォロワーさんたちのおかげで、その価値が徐々に世の中に広まってきていると感じます。従来の中小製造業の販路・市場ではない、新たな市場を創出する――服部さんという異業種の方とコラボレーションしたことで、それが実現しつつあります」

確かな技術と熟練の技+発想力

金属ヘラ絞り加工は、設計図を基に金型をつくり、その金型に合わせて金属板を機械または手作業で加工していくものだ。多くの場合、1つの製品を製作するにあたり1人の職人が工程の最初から最後までを担当する。オーブン燻製機も同様で、同社では今野さんが専任で加工を行っている。「オーブン燻製機は私の趣味から始まったようなものですから。もともと終業後や休日を利用して1人でコツコツやっていたんですよ」

今野工業の社員数は12名。父が創業し、今野さんの兄が社長を務める

市販の燻製機でありながら、プロ使用にもへこたれない耐久性、扱いやすさなどを追究。冷燻機能は、「ほかにないということは、それだけ難しいということ。でも、どうせやるなら挑戦してみよう」と、服部さんと話し合って加えた機能だという。

「ステンレスという、扱いにくく熱伝導率もよくない金属板の加工。熱で底面がゆがまないように段をつけて金属の強度を上げたり、ふたの持ち手部分に特別なヘラ絞り加工を加えて持ちやすくしたり。オーブン燻製機は一見シンプルですが多機能を狙ったので、ヘラ絞りの加工技術という観点では、かなり"ギリギリの部分"を攻めて、細かいつくりこみを行っています」

ギリギリの部分を攻めたことは、同じヘラ絞り職人なら見れば分かる。「金型つくってるときから、『結構でかいね』なんて、他の職人もちょくちょくのぞきに来て。まあ、1人で何か頑張ってるなと、見守ってくれていたんでしょうね」

「かわさきマイスター」の鍵屋清作さん

普段、同社では化学機械部品や自動車部品、照明器具部品などを受注・製作している。自分たちがつくった部品がどこで使われているか、分からないことが大半だ。しかしオーブン燻製機は、つくって、売って、使ってくれた相手の顔が見える。やはり、それが楽しいと、今野さんは言う。「価格を自分たちで決める、評価がダイレクトに届くというのは、厳しいけれどやりがいがある。下町の工場だからといった考えにとらわれず、柔軟な発想と多様な人脈で、自分自身が楽しめる仕事で、新たな市場を開拓していきたいですね」

そして今また、同製品を見たキャンプ用品メーカーなど、従来なら接点のなかった企業からの問い合わせが寄せられ、新たなつながりが生まれようとしている。

オリンピックを応援するような気持ちで川崎を盛り上げたい

オーブン燻製機がふるさと納税の返礼品に選定されて、「自分が住む町に貢献できているというか、おこがましいけれど、恩返しできているように感じています」と、今野さん。「オリンピックで自国を応援するのに近い気持ちですね」と笑顔を見せる。

川崎市財政局の土浜義貴課長は、ふるさと納税の返礼品に登録することを一つのきっかけとして、「川崎ならでは」「川崎らしさ」の製品・商品が川崎市内外に広く知られ、返礼品を通じて皆様に川崎を体感していただき販路拡大の後押しとなり、ひいてはそれが地域経済の活性化につながることを願っている。「今野さんのオーブン燻製機や、同じ時期に新たに追加された株式会社finalのヘッドフォン、ハイレゾイヤフォン、東海道BEER川崎宿工場のクラフトビール、アルテの食パンなど、返礼品として登録されたことで『あ、あの製品・商品って、川崎でつくってるんだ』と気付いていただける機会が増えました。製品・商品のみならず体験型プログラムなども合わせ、市役所内では部署の垣根を超えて、日々、川崎の"魅力的なもの探し"をしています」

川崎市ふるさと納税の返礼品には「川崎らしさ」あふれる名品が並ぶ

また「川崎ものづくりブランド」を所管する経済労働局の江津裕美係長も、「オーブン燻製機は昨年、川崎ものづくりブランドに認定されました。100を超える認定製品のうち、工業製品については消費者がじかに手にする機会はほとんどありません。しかしオーブン燻製機は、実際に消費者が日常生活で使えるもの。ヘラ絞りという優れた技術が、多くの人に体験いただけることがうれしいです」と語る。

「川崎市ならでは」の優れた製品・商品のPR、販路拡大を市も後押しする 左:市財政局資金課 土浜課長 中央:経済労働局工業振興課 江津係長

第四次産業革命の台頭で、市内にある大手企業の生産拠点は、ICT・エレクトロニクス・機械・バイオテクノロジーなど先端企業の研究開発機関に移行しつつあるが、川崎の地域経済活性化の原動力は、やはり「ものづくり」に長けた多くの製造業であることに変わりはない。今野さんは言う。「オーブン燻製機をつくってみて、私たちの強みは"しっかりした生産設備を持っている"ことにあると実感しました。この生産設備があるからこそ、実際にものづくりができる。良いパートナーたちと巡り会い、足りない部分を補ってもらいながら、一緒に成長もできる。設備の使い方、製品のつくり方、ビジネスの生み出し方――やり方次第で、道はひらける。これからも自分なりのやり方を探しながら、周りにもその効果を波及させていきたいです」