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ガソリンスタンド=地域の相談窓口?出光が目指す「まちづくり」

提供:出光興産株式会社

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給油、修繕、車検、販売、保険......。自動車のユーザーは、日々さまざまな周辺サービスを利用している。しかし、SS(サービスステーション。ガソリンスタンドを指す)、ディーラー、カー用品店と、一つひとつを異なる事業者に依頼するケースも多く、利便性という観点においては満足していない人も多いのではないだろうか。

こうしたニーズに応えようとするのが、出光興産が推進する「スマートよろずや構想」である。同構想は、全国に点在するSSを活用し、給油など既存サービス以外の機能を組み込むことで、地域課題の解決を目指すものだ。SSを運営する事業者(特約販売店)と出光興産が協力することで、多彩なカーライフサービスをワンストップで提供している事例も多い。

「スマートよろずや構想」連載の第4回は、高度な技術力とサービス力を武器に、トータルカーライフサポートの提供に踏み切った千葉県のヤブサキ産業を取材。車販やEV試乗からコインランドリー、高齢者向けライフサポートまで、カーユーザーだけでなく地域社会全体の満足度を飛躍的に高める、同社のビジネス展開を掘り下げていこう。

時代と共に拡張させた、トータルカーライフサポート

ヤブサキ産業の創業は1968年。高度経済成長の最中、車社会の到来を見据えた先代社長・薮嵜 庄一氏が、千葉県市川市に出光系列のSSを建てたことから始まり、現在は千葉県トップクラスの売上を誇る石油販売店へと成長。先代に代わり、現在代表取締役を務める薮嵜 康一氏(以下、敬称略)が入社したのは1998年。この年は同社が車検事業に踏み出した時期だった。

ヤブサキ産業株式会社 代表取締役 薮嵜 康一氏

薮嵜「当時はユーザー車検を認める大幅な規制緩和が始まった頃で、ヤブサキ産業も国の指定工場を建設し、車検事業をスタートさせました。加えて、SSのセルフ化も解禁。その流れを受けて、余った人員をどのように配置するかが課題となっていました。そこで、従業員が得意とする車周りの能力を活かしたいと、カーメンテナンス型のセルフSSにチャレンジしたんです」

その後もSSに中古車レンタカーの機能を導入するなど、ヤブサキ産業は国内における先駆的な事例に次々と挑戦。さらに出光興産の特約販売店からの事業譲渡を進める形で、事業規模を拡大していく。

薮嵜「事業撤退などに伴う同業他社の事業を引き継ぐことで、板金や法人向けの燃料配達など、私たちが持っていない機能を拡張させることができました。ちょうど同じ頃、2012年に私が社長に就任し、改めて描いたビジョンが『ヤブサキサークル』です」

「ヤブサキサークル」とは、同社が持つSSや整備工場など合計25か所の拠点を活用し、車検、板金、車販・買取などのトータルカーライフサポートをワンストップで提供するモデルだ。給油にとどまらないサービスを横断的に展開することで、各事業のシナジー効果を狙う。

薮嵜「社長就任時、先代から『第二創業だと思え』といわれ、理念やビジョン、戦略をすべて書き換えようと、10カ年計画を立てました。出光興産の経営カレッジでサポートを受け、戦略的に欠けている部分を、経営やマーケティングの視点から磨き込んだことも大きかったです。自動車およびガソリンの需要が縮小する中では、付加価値を育まなければ生存できません。まずは『ヤブサキサークル』を達成し、その先にある新たな事業にも挑むことが、当社の長期的な戦略です」

進むべき道を明確化したヤブサキ産業とシンクロするように、出光興産が打ち出したのが「スマートよろずや構想」だった。次に、スマートよろずやを体現する、ヤブサキ産業の現在の姿を見ていこう。

ニュータウンの大型SSで実現する、スマートよろずやの複合サービス

出光興産が進める「スマートよろずや構想」では、ガソリンだけでなく、多様なエネルギーやモビリティを、デジタルなどを駆使してスマートに提供することを目指している。全国のSSをまちの「生活支援基地」に進化させることで、地域課題の解決にもつなげていく点が特徴だ。出光興産関東第一支店の清水 涼氏(以下、敬称略)は、担当するヤブサキ産業をスマートよろずや構想の優良モデルだと語る。

出光興産株式会社 関東第一支店 販売二課 清水 涼

清水「ヤブサキ産業さんは、出光の構想と目指す方向が合致しています。リスクを加味しながらも実験的な取り組みを進め、時代の一歩先をいくSSを体現されています。その最たる好例が、千葉県佐倉市にあるフォーユーステーションユーカリが丘SS(以下、ユーカリが丘SS)でしょう」

ユーカリが丘SSは、2023年7月にオープンした大型複合店舗のSSだ。約1,500坪もの広大な敷地に、車買取販売専門店、セルフ洗車場のほか、EV充電器、EVカーシェア、コーティング専門店、コインランドリー、カフェエリアが併設されている。

SSに併設された車買取販売専門店/セルフ洗車場/コーティング専門店/コインランドリー/カフェエリア

薮嵜「出光さんからお話をいただいたのは約3年前。現在整備中の八千代バイパス沿いに、将来の交通量増加を見越して大型SSを建てるという構想でした。とはいえ八千代バイパスは整備段階。莫大な投資も必要になるため躊躇した点もありましたが、同エリアにマッチする次世代のモビリティステーションを構想し、出光の担当者さんとブラッシュアップしていきました。特に、2030年を目処にEV需要が高まっていく予測を立てていたため、今から動き出すことには意義を感じました」

ユーカリが丘SSではEVの急速充電設備と普通充電設備が設置されているだけでなく、EV専用のカーシェアサービスを提供。試乗によってEV車両の体験ができ、これから購入を検討している層のニーズに応えている。

薮嵜「加えて、EVの二輪車、キックスクーターのレンタルも開始しました。現在は実験段階ですが、敷地内で試乗できるイベントを開催しており、今後は車検時の代車といった需要を見込んでいます。また、広大なニュータウンであるユーカリが丘では、近距離の移動が不便です。そこにライドシェアとして普及させられれば、利便性が向上するはずです」

また、月額固定の洗い放題システムが導入された洗車場の横には、巨大なコインランドリー設備が設置されている。布団やシューズの洗濯乾燥機器も設置され、洗車中に衣類を洗濯できる仕組みだ。

薮嵜「ご家族でお越しいただければ、1人が洗車、1人が洗濯を進め、お子さんをキッズスペースで遊ばせることも、終わったらカフェで休憩をすることも可能です。共働きのご家庭では平日に家事をする時間がなかなかとれません。休日に洗濯物を車に乗せ、効率的な1〜2時間をSSで過ごす。そんなユースケースを想定しました」

さらにユーカリが丘SSでは、防災拠点として地域社会にも貢献している。緊急時発電機を設置し、災害時停電でも給油が可能な仕組みを整備。建物には太陽光パネルも設置され、電源を確保するとともに環境配慮にも寄与しているのだ。

薮嵜「EVをはじめとした次世代モビリティステーションなど、ユーカリが丘SSの設計コンセプトは、地元のデベロッパーである山万株式会社の協力も得ています。地域密着企業である山万さんは、住民のニーズを熟知しており、共にSSのあり方を考えられたことは、当社にとっての最大のメリットでした」

清水「特約販売店とデベロッパーさんが、共にまちづくりのような視点からSSを作り上げていく事例は画期的です。住宅地にSSが新設される場合、地域住民の方のご理解が不可欠です。ユーカリが丘SSでは、ヤブサキ産業さんが近隣の住宅に挨拶に回るなど、丁寧な対応をしたこともあって、喜んでいただける住民の方が多かった印象です。実際に出光公式アプリ「Drive On」の利用率を見ると、ユーカリが丘SSでは他のSSの平均値の約2倍と、みなさまが期待感を抱いていることがわかりました。今後さらに地域ニーズに応えていくことで、街に溶け込んだSSに進化すると思います」

"カーライフからライフへ"を掲げ、高齢者サポートをスタート

ヤブサキ産業ではカーライフサポートを超えたサービスも提供している。中でも注目すべきは「まごころサポート」というライフサポート事業だ。高齢者のユーザーを中心に、買い物代行、スマホのサポート、ハウスクリーニングなど、生活のあらゆる困りごとにアプローチしている。

ヤブサキ産業の行う「まごころサポート」

薮嵜「当社では数年前から『"カーライフ"から"ライフ"へ』を掲げ、お客さまに寄り添ったライフサポートを目指しました。きっかけとなったのは、免許の返納です。当社のSSを長年ご利用いただいているお客さまに、『免許を返すから、ヤブサキさんとはお別れだよ』といわれるケースが増えてきており、スタッフも寂しい思いをしていました。せっかく信頼していただいているお客さまに、今後も提供できる価値はないかと、新たにライフサポート事業を始めたのです」

まごころサポートは現在、月間100〜120件の依頼が入っているという。一つひとつの依頼は、電球交換などの小さなものだが、より潜在的なニーズを手厚くフォローすることで新規事業にも発展していくと、薮嵜氏は見据えている。

薮嵜「多くの方は80歳を超えると、ケアマネジャーさんを必要とするため、介護領域との連携によってサポートを提供できます。老人ホームの入居相談にも乗ることで、施設側にもマッチングの価値を届けられるでしょう。また、独居の場合は不動産の処理も課題となりますし、相続などの準備も必要です。不動産事業者や司法書士、行政書士などネットワークを広げながら、私たちが窓口となるよう機能できれば、それこそ本当の"よろずや"になれるのではないでしょうか」

こうした地域住民との信頼関係は、日々SSで働くスタッフにより築かれている。まごころサポートを実践するのも、日頃はカーサービスに従事する人材だ。薮嵜氏はどのような姿勢で、組織づくりや人材育成に臨んでいるのだろうか。

薮嵜「育成の柱は、マインドとスキルです。マインド面では、行動指針やミッション、理念をまとめた『ヤブサキビジョン手帳』をスタッフに配布。研修の前後に各自が日頃感じたことを議論するなど、会社の方針を自分ごととして考えられるようにしています。スキル面では、カーサービスの基本技術や商談能力はもちろん、議論や言語化といった広範なビジネススキルも育みます。年に1回、全従業員と面談を行い、欠けているスキルを洗い出すなど、成長の筋道を可視化できるよう心掛けています」

清水「ヤブサキ産業さんの突出している点は、経営理念、ビジョン、部門ごとのミッション、一人ひとりの行動指針が、明確に一貫していることでしょう。事業所のいたるところにビジョンを掲げたポスターが貼られ、階層別の会議では細かく課題が共有されています。みんなが同じ方向を見ているからこそ、新たな事業に踏み出す際のスピードも速い。そして従業員一人ひとりの実直な姿勢が、地域に根付いた価値を生んでいるのです」

ガソリンをコアにしながらも、社会変化へ柔軟に対応する

ヤブサキ産業では、年度ごとの目標をイラストで示した「ビジョンマップ」が全社で共有されている。売上高や新規事業のほか、キャンピングカー購入やハワイ旅行といった目標も描かれている点がユニークだ。地域課題にもアプローチするヤブサキ産業は今後、どのように事業を成長させていくのだろうか。

薮嵜「高みを目指しながらも、楽しく働ける会社でありたいなと考えています。経済的・精神的に従業員が幸せにならなければ、お客さんに笑顔で接することはできません。まずは給油拠点としてのSSを中心としたヤブサキサークルを、領域ごとにさらに拡張していきたいですね。例えば買取販売であれば、リースや輸出入へと広げることもできますし、それ以外にも類似業種のM&Aを行い、規模拡大も図ります。ガソリン需要は低迷しますが、無くなることはないと考えます。その中核部分を大切にしながら事業を広げていけば、新たな道は開けていくと考えています」

ヤブサキビジョンマップ

着実に事業領域を広げながら、時代に合ったサービスを展開するヤブサキ産業。モビリティをはじめとしたビジネスモデルが変化する中で、ビジョンをカタチにしていく姿勢には、大きな可能性を感じとることができた。スマートよろずやは今後、どのように日本の未来社会の中で機能していくのだろうか。現場の最前線に立つ事業者たちの挑戦に期待したい。