2023年4月、北海道科学大学高校は札幌市・豊平区中の島から、系列校の北海道科学大学がある手稲区・前田に校舎を移転。これを機に高校と大学が同じキャンパス内にある環境を最大限に活かした高大一体教育をスタート。高校生たちが大学教員による講義を受けられたり、日常的に大学生と交流する機会が増えています。さらに2024年度からは、高校在学中に大学の単位を"先取り"できる「コンカレントプログラム」を道内で初めて導入予定。「生徒が自分の人生に必要な学びを探るきっかけを提供したい」と目標を掲げる、同校の取り組みの様子や期待されるメリットを取材しました。
高校生と大学生が日常的に交流
取材にうかがったのは、北海道科学大学の学科の学びを高校生が体験するイベント、「コネクトフェス」の開催日。大学からは工学部を中心とした学生が、高校校舎内に体験・展示ブースを設置し、自分たちの学科・団体の研究や取り組みを高校生たちに紹介しました。高校と大学が同じキャンパス内にある、同校ならではの取り組みです。大学生が制作したWebアプリやゲームの体験、電子工作、VRを使った溶接体験など、高校生にとっては、大学でどのようなことを学び、何ができるのか、具体的なイメージを抱くことができます。高校校舎内で開催されるとあって、気軽に参加できるのもうれしい設定です。
参加した高校2年生の熊坂さんは「イラストとデザイン、プログラミングに興味があります。身近な先輩の作品を見て、アドバイスをもらえると、私自身もこうなりたいというイメージが湧いてきます」と手応えを感じている様子。また、大学生側にもメリットがあり、電気電子工学科4年の船田さんは「他者に見てもらうことを意識すると、勉強や研究・開発のモチベーションが一段と高まります」と笑顔で語ってくれた上で「僕自身もこの高校の出身ですが、こうして大学生と交流する機会ができたのはいいことですよね。目標が具体的になり、勉強のやる気がアップすると思います」と、続けます。
生徒が「自分が本当にめざしたい場所」を見つけるために
HUSリンクスの概要(北海道科学大学高校ホームページより)
「HUSリンクス」と名付けられた一連の高大一体教育プログラム。「大学生の学び」を日常的に体験できるようにした狙いや期待について、橋本達也校長は、次のように話します。
橋本 達也 校長
「少子化が進み、大学全入時代の到来が言われる今、高校生にとって大事なのは"自分が将来本当にめざしたい場所"を見極めること。その後押しをするのが本校の高大一体教育の狙いです。大学で何を学びたいのか、卒業後は何になりたいのかを見極める上で、北海道科学大学は多彩な学科を持つ実学系の大学であり、高大接続プログラムの学びが職業選択にも直結するという好環境です。
北海道科学大学は工学部、薬学部、保健医療学部、未来デザイン学部の4学部に13学科(※)を持つ総合大学で、プログラミングやモノづくりから、薬学や看護といった医療、デザインやビジネス、心理学など幅広い分野にまで学びを広げています。 ※2025年度に一部改組予定
「進む道選びを急かすことはありません。むしろ生徒たちには将来像を狭くとらえず、いろんなことにチャレンジしてほしい。本当に自分の選択はこれでいいのだろうかと、とことん悩んでほしいです。学校としては可能な限り多様な選択肢と体験の機会を与え、その上で生徒自身に自らの責任で決めさせたい。高校の3年間、大学の学びに継続的にふれながら、じっくり時間をかけて進路選択を行い、ミスマッチを防げると期待しています。偏差値に基づく進路決定から脱却し、自分の将来像から出発する進路選択をしてほしい」
高校校舎内の教室をつなげているのは廊下ではなく吹き抜けのオープンな空間。あちこちに椅子や机が置かれ、生徒たちは好きな場所で休み時間や放課後を過ごせます。冷暖房も完備で「快適に過ごせる」と好評です。
橋本校長は高校の勉強への取り組み方が変わることも期待しています。「高校での学びは基礎なので、学んでいる間は、卒業後、何に役立つのか、どう繋がっていくか、なかなかわからないものです。でも"単に大学入試合格のため"という時代は終わりました。コネクトフェスのように、大学生の学びにいち早く触れることで、こういうことをやるために高校の学びが必要なんだと。一方的に情報として与えられるのではなく、自分にとって何を学ぶことが必要なのか、体験して自らが気づき、実感することは、意欲的に高校生活を送る上でとても有意義。日常的に大学というレンズを通して人生に必要な学びを、体験を通して考え続けられる高校をめざしています。」
道内初のプログラムが今年スタート予定
コンカレントプログラムの概要(北海道科学大学高校ホームページより)
HUSリンクスの取り組みの中でも、特に画期的なのが、2024年からスタートする、北海道科学大学への進学が決まった生徒を対象とした「コンカレントプログラム」です。生徒は3年後期、大学で講義を受け、その単位は高校と大学の相互で認定されるという、北海道初の制度です。大学進学後は先取りして履修した分だけ時間的な余裕が生まれ、学科によっては学期の1/4が授業の受講が不要な期間に。夏休みと組み合わせれば約3ヶ月もの長期間になります。この期間は自由に活用でき、海外留学やボランティア活動、企業へのインターンシップといった学外活動に挑戦するチャンスも広がります。
コンカレントプログラムを詳しく見る「高校時代に大学の単位を先取りすることで発生する時間的な余裕をどう活用するのか、自分自身で考え、実践する経験は将来に生きるはずです。また、大学の学びに本格的にふれることで、改めて高校での勉強で何が大事なのか、自分の将来に何が必要なのかを再認識して、必要だと思うものを身につけて卒業してほしいですね」
高大連携によるチャンスを、より多くの人へ
図書館や学生食堂、コンビニなどの大学施設は、高校生も利用可能。昼休みになると、高校から食堂に駆けていく生徒が多く見られました。
コネクトフェスで取材した高校2年生・熊坂さんは、このイベントのポスターのイラストを担当。美術同好会に所属しており、その活動をPRしようと、自ら大学生に制作させてほしいと依頼し、連携をとりながら作り上げたそう。「大学が身近になったからこそできたと思います。多くの人に見てもらえて嬉しいですし、自分から動けばチャンスは作れると実感しました」
熊坂さんがイラストを担当したポスター(左)、熊坂さん(右)
橋本校長は「今後は部活動やサークル、生徒会活動を含めた高大連携をもっと深め、さまざまな"科"学反応が起こることを期待しています。どの生徒にも主体的に人生を選択し、自分で選択したことに責任感を持てる人材になってほしいです」
新たなスタイルの教育の今後にぜひ注目ください。