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介護はプロに「お任せ」。利用者と事業者で考える介護の向き合い方

人気ブロガー・カータンさんと異色の起業経歴をもつ社長の「訪問介護あるある」

「親の介護はある日突然、玉手箱を開けたかのように一瞬でやってきます!」そう力説するのは人気ブロガーのカータンさん。両親の介護について赤裸々に綴ったブログはコミックエッセイ化され当事者は深くうなずき、未経験者には学びが多いと評判だ。

今回はそんなカータンさんと、訪問介護事業を営むケアリッツ・アンド・パートナーズの宮本剛宏代表取締役社長の対談が実現。介護サービスについて利用者と事業者の目線で語ってもらった。

カータン
2007年ブログ「あたし・主婦の頭の中」を開設。日常をコミカルに描いた絵日記が主婦層に爆発的人気を誇る。両親の介護体験は「健康以下、介護未満 親のトリセツ」「お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中!親のトリセツ」として書籍化。
ブログ https://ka-tan.blog.jp/

ケアリッツ・アンド・パートナーズ代表取締役社長 宮本剛宏(みやもと・たけひろ)
慶應義塾大学 環境情報学部卒
日清紡績株式会社、株式会社ベイカレント・コンサルティングにて、営業・コンサルタントとして勤務
2008年 ケアリッツ・アンド・パートナーズ創業
2022年 ケアリッツ・テクノロジーズの分社化、東都観光バスの事業承継に伴い、3社の代表取締役を兼任

実家を継ぐ予定が...2007年のコムスン事件で一念発起

カータン 本日はよろしくお願いいたします。っていうか、あのまず...宮本社長がイケメンで驚いているんですが...。

宮本 (爆笑)

カータン すみません(苦笑)。今の時代見た目のこととか言ったらだめだと思うんですけど、なぜ介護業界に興味を持たれたのか、まずそこが気になってしまいました。

宮本 ありがとうございます。話すと長くなるのですが...私は実家が東都観光バスという観光バスの会社を経営していまして。父からは「35歳になったら実家にもどって経営者をやれ」と言われて育ちました。大学卒業後、ビジネスの基本は物を作って売ることだ、という父のアドバイスもあって、最初はメーカー(日清紡)で営業の仕事をしていました。しかし、やはり老舗の日系企業ということもあって、若いうちからいろいろな経験ができるような環境ではなく、上司を見てもみな代わり映えのしない仕事をしているような環境。これはまずいぞってことで2年くらいで辞めたんです。

転職活動をする中で、縁あってITコンサルティングの会社(前職)に入社し、そこでは楽しく良い経験も積めていたのですが、その後いろいろあって、実家と絶縁状態になりまして(笑)。要は、家を継ぐ予定だったけどそのプランが消えちゃったんですよ。前職では結果も出ていたので、そのまま働き続けて社内で出世して社長を目指そうかとか、あるいは趣味の卓球を軸に何かビジネスでもはじめようかとか、いろいろな選択肢を模索していたところに、ちょうど世間ではコムスン事件*が話題になりました。テレビや雑誌でも介護事業が世間から叩かれまくっているのをみて、それで逆に興味を引かれたんです。

カータン ありましたね、コムスン。

宮本 当時、私の周りに介護業界の人間は誰もいなかったので、友人の母とか、様々な伝手をたどって実態を把握していきました。そこでわかったのは「介護業界は経営と現場がものすごく分離している」ということ。これは自分が現場に入って業務効率化をITシステムで実現すれば他社とも差別化できるし、業界日本一も目指せるんじゃないか、と思って起業したんです。
ちなみに、最終的には親も高齢になったものの後継者が見つからず、頼み込まれてしまったので、実家の事業も結局2年前に継いだんですけどね(苦笑)。

カータン 今にいたるまで、ものすごい歴史があったんですね。

*コムスン事件...訪問介護最大手のコムスンが介護報酬不正請求などを行い、厚生労働省の処分を受け廃業に至った一連の事件

父の失明が介護の幕開けに

カータン では今度は私の介護体験を。うちは父が79歳のときに緑内障が原因で失明してしまったんです。それも自分の誕生日にろうそくの火を消すと同時に。ろうそくの火は消し終わって電気をつけたのに「電気をつけようよ」とか言って。

宮本 ええっ!? 緑内障とか糖尿病で視力を失うことは確かにありますけど、いきなり急に全盲というのは珍しいですね。

カータン はい...。79歳で全盲になったものですから、もうパニックになっちゃって。実家の父の部屋は2階のちょうどリビングの真上にあったんですけど、「おーい」って呼んでも1階の母には届かないから、床をドンドンって足で叩くんです。そこから母の様子がおかしくなっていきました。自由にトイレに行けなくなった父は頻尿にもなってしまい、母はトイレの介助で眠れなくなって。

引用元:カータン著『健康以下、介護未満 親のトリセツ』(KADOKAWA刊)

カータン 「認知症かも」って病院に連れて行ったりもしたんですけど、そのときは大丈夫だったんです。とはいえ、急に怒ったり泣いたり情緒はめちゃくちゃ不安定。こっちは協力しようとしているのに、死にたい死にたいうるさくて、もう正直「いつ死んでもいいよ!」って思いましたけど(苦笑)。

そんな状態なのに両親は二人とも強気で「あなたたちの世話にはならない」って言い張る。でも、このままだと母が参ってしまうから、楽させてあげなきゃってことで訪問介護を考えました。当時たまたま介護に携わっている知人がいて、何をすればいいのか聞いたら「まずは地域包括支援センターに行って」と。地域包括支援センターなんてそこで初めて知りましたよ。

宮本 そうなんですよね。地域包括支援センターってぜんぜん知られてない。我々のような訪問介護事業者は地域包括支援センターや居宅介護支援事業所など、ケアマネジャーを通してしか基本的に仕事を受注できないんです。なので、訪問介護を頼みたいと思って事業所に直接来られても何もできないし、弊社のHPから訪問介護を依頼することもできません。まずは市・区役所か地域包括支援センターに行って、要介護認定をもらうことがスタートなんですよ。

利用者家族のキーパーソンと事業者の連携がカギ

カータン 地域包括支援センターで要介護認定を受けてケアマネさんがつきました。そこでデイサービスや訪問介護のヘルパーさんの手配をやっていただきました。

宮本 基本的にはケアマネが利用者の介護レベル(要介護度)にあわせて週に何回デイサービスを入れる、訪問介護を入れるといった方針を決めます。その段階で、どの訪問介護事業者を使いますか? っていう話をされるのが一般的。利用者さんから事業者の希望を出してもいいんですが、ほとんどの人が何も知らないのでケアマネが決めるパターンが多いです。

カータン じゃあこの段階では、どの事業者がいいとかわるいとかはわからないんですね?

宮本 わからないですね。それに私たちが言うのもなんですが、事業者というよりも担当者によるところが大きいです。

カータン 私の場合、訪問介護に関してはもう本当に感謝しかないんです。文句なんてありません。迷っている方がいたら絶対利用したほうがいいと思います。みなさん「他人の手を借りるのは...」って躊躇するんですけど、父も母もすごく助けられましたから。

母のときなんて最初すごく大変で。ヘルパーさん(女性)が家に入って台所や洗濯機を使ったりすると、自分に価値がなくなったっていう烙印を押されたようで「なんであなたがやるのー!」ってすごいヒステリックになっちゃって。嫁をいびる姑みたいで本当に申し訳なかった...。でも当のヘルパーさんは「ぜんぜん気にしないでください。慣れてますから」と。プロだなあと思いましたよ。

宮本 ありがちですね。自分がこれまで守ってきた家に他人を入れたくない、という人は結構多いんです。

カータン べつに女性として嫉妬してるわけじゃなくて「自分はもう何もできない。用済みなんだ」って思うのがつらかったんだと思います。だから「ママ、お手伝いさんなのよ」とか言って工夫してました(苦笑)。

お母さんの機嫌を損ねないようにカータンさん、ケアマネ、ヘルパーで結託!
引用元:カータン著『健康以下、介護未満 親のトリセツ』(KADOKAWA刊)

宮本 訪問介護は始まる前に利用者家族と顔合わせをして、具体的に何をやってもらいたいのか、内容を決めていきます。その家のどなたがキーパーソンなのかを把握して、定期的にミーティングもします。

介護は利用者、その家族、ヘルパー、ケアマネ...いろんな人を巻き込んでチームで行うものなので、キーパーソンがしっかりしていれば問題ないんですけど、そうじゃない場合は大変。カータンさんのように娘さんがしっかりしてればいいんですが、子供のいない高齢者同士の夫婦で、旦那さんが介護利用者になって奥さんがキーパーソンになった場合。これがなかなか厄介です。

カータン 何が大変なんですか?

宮本 何も決まらないんですよ。決められない。過去にあった例なんですが、何をしてほしいのか聞くと「入浴介助をしてほしい」と。でも家にはなるべく入ってほしくないという。「じゃあデイサービスで入浴するのはどうですか」と案内しても、今度は不安なので外には出したくないとか。それでケアマネも困っちゃって。当時私はその地域の営業もやっていたので、その問題のお宅に試しに行かせてもらったんです。そしたら「あなたかっこいいわね」って言われて(笑)。

カータン ほら、やっぱりそれ(イケメン)って得なんですよ!

宮本 (笑)で、「あなたならいいわよ」ってことで私が現場に入ることになり、入浴介助をずっとしてました。7年くらい。

カータン 7年も。すごい!

宮本 だって私しか家に入れないのでね(苦笑)。

カータン 宮本社長はそのときはまだ、現場経験はそこまでなかったんですよね?抵抗はなかったんですか? っていうかヘルパーさんの指名ってできるんですか?

宮本 抵抗はまったくないです、仕事なんでやるしかない、と。本来、指名は絶対ダメですよ(笑)。事業者としては、すべてそれに応えていたらスケジュールが組めなくなってしまうので、原則そういった対応は難しいです。でもそういう声がでるのは、あるあるではあります。

指名はできませんけど、逆に担当者が合わないから変えたい、っていうのはまったく問題ありません。ちなみに弊社の場合は2~3人、多くて4人でひとつのお宅を担当しています。ヘルパーを固定してほしい、という要望も確かにありますが、チーム体制を組んでおくことで、誰かが休んでも対応できます。それに、訪問介護は1対1で家の中で行う業務なので、実際に現場で何が起きているか見えづらい。でも複数で担当していれば共有できますからね。

入浴介助担当時代の宮本社長とその利用者(モニター)。ちなみにケアリッツは創業メンバーも全員ヘルパーを経験している。

介護はプロフェッショナルに「お任せ」で

カータンさんのコミックエッセイに欠かせないのが、このケアマネさん。
引用元:カータン著『お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中!親のトリセツ』(KADOKAWA刊)

カータン うちは父にせん妄が出てきて、母だけの自宅介護に限界が見えてきました。ケアマネさんが「これがいつまで続くかわからない。そのうちカータンさんの家庭が犠牲になる」と言われて。見切り発車で施設にも申し込みました。

まず有料老人ホームを2~3件見学して目星をつけて、同時に特養も申し込みました。特養はだいたい200人待ちはザラで、いつまわってくるかわからないから、施設介護が必要になってからでは遅いんです。ケアマネさんには「もしせん妄がとけたら、ギリギリまで自宅で今の状態をキープしましょう。でもこれが長引いたら特養をまたずに有料に入れましょう」とアドバイスされました。

宮本 めちゃくちゃ優秀なケアマネですね。そんな先のことまで提案してくれる人はそういませんよ。

カータン 結果的に2年弱で特養の順番がまわってきて。でもそれがちょうどコロナ禍で会えないんですよね。父も83歳だったので、もうこれが最後の別れになるんじゃないかなと思って、ものすごく悩みました。でもケアマネさんが「特養に入るのも有料老人ホームに入るのも同じじゃないですか、このチャンスを逃したら入れない。大丈夫入れましょう!」って背中を押してくれたんです。

宮本 つくづく優秀なケアマネだ。

カータン みなさんそうなのでは?

宮本 いやここまでの方は少ないと思います。正直、ケアマネジャーさんにも当たりハズレは残念ながらあって...

カータン ケアマネさんには「嫌なことは全部プロに任せて、家族の方は笑って昔話をしてください」って言われたんですよ。その言葉にすごく救われました。本当に行き詰っているときに出会ったケアマネさんだったので、姉と二人でわんわん泣きました。本当に救世主のように感じるんです。たぶんケアマネさんは介護で窮地に陥っている家庭をたくさん見ているから、私たちの泣き所がわかるんでしょうね。もう完全にカウンセラーでした。

宮本 カータンさんの場合は、幸いにも本当に人に恵まれたと思うんですが、もしケアマネさんが自分たちに合わなかったら、変えてもらうこともできるんですよ。案外ケアマネさんを変更できるって知らない人も多いみたいで。不満はあるけど我慢して、あてがわれた人でずっといかなきゃいけないと思っている人も多い。でもそこは耐えるところではありません。

この方はその後、自らの事業所を閉鎖しケアマネもやめてしまったとか。「あんなにお世話になったのに連絡先を交換しなかったことをとても後悔しています...」とカータンさん。ケアマネTさん、もしこの記事を見ていたら連絡をください。
引用元:カータン著『健康以下、介護未満 親のトリセツ』(KADOKAWA刊)

絶対にひとりで抱え込まないこと!

カータン これからの介護業界に対しての希望、言ってもいいですか? これから自分が介護される側になったらロボット...できればちょっとイケメンのロボットにお願いしたい。大きい声では言えないですが、同年代で話していると「ジャ○ーズ老人ホーム」みたいのができたらいいなあ、って盛り上がるんですよ。

宮本 すごい入居費用高そう(笑)。

カータン 見てていきいきする人に介護してもらいたいなあと思って。それを考えたとき生身のイケメンに下の世話なんか恥ずかしくて嫌だから。となるとロボットだなと。ロボットならにおいもしないし、「キョウハ トッテモ カイベンデスネ!」とか言われても恥ずかしくないし。

宮本 (笑)ロボット的なものは確かに業界的にはいろいろやろうとはしてるんですが、まだまだ難しそうです。実際、ヘルパーをサポートするために開発されたパワースーツ(力作業の補助をする)っていうのがあるんですけど、サイズがS・M・Lの3つしかないから、自分の体に当てはまらない人もかなりいる。結局、着脱に時間がかかって人間だけでやったほうが早いわ、ってことで誰も使わずに終わっちゃった、なんて話も。それに、確かに力は出るんですけど、そもそもそのパワースーツ自体が重くて移動するのが大変だったり。

カータン この記事を読まれている方のなかに、介護の当事者はまだ少ないと思うんですけど、とにかく「プロに頼れ!」ということを言いたい。

宮本 間違いないですね。

カータン ケアマネさんもヘルパーさんも何を質問したって答えが返ってくるんです。それだけ専門的なことがわかってるわけじゃないですか。だからひとりで抱え込むのは絶対NG!

宮本 そんな風に言ってくれる人が増えるといいんですけどね。だいたいのご家族は「自分たちがいちばんわかっている」というスタンス。そういう家庭は事業者と揉めやすいですよ。

カータン 正解はプロが出してくれるのでカッコつけずに頼りましょう。あと見切り発車も大切です。本当にある日突然ですよ。「自分の親に限って」って先延ばしにしていても、老いは平等に訪れますから。

★カータンさんのブログでもこの対談が記事になっています。ぜひご覧ください。

ケアリッツ・アンド・パートナーズ

2024年現在、東京都事業所数1位の訪問介護事業社。従業員数は約3500人、2023年度の売上は174億円。ITによる介護作業の効率化、介護職の待遇改善に取り組みながら業界No.1をめざしている。