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「住みたい田舎ベストランキング」4年連続全部門1位(※)。「最強の移住地」目指す大分県豊後高田市の挑戦

提供:大分県豊後高田市

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「まず、読めない!」。自虐的なコピーで堂々とアピールする「豊後高田あるある」

「豊後高田、まず読めない!」「草がはえまくる!すごい生命力!」「虫が出るのは当たり前!覚悟!」―。一見、自虐的なキャッチコピーを17ページにわたって、インパクトが強いイラストと共にホームページに掲載しているのは、大分県北部にある豊後高田(ぶんごたかだ)市だ。うそ偽りない「豊後高田あるある」を堂々と紹介する同市は、実は移住を考える人たちの関心を長年、集め続けている。その核心はどこにあるのか。市の担当者に話を聞くと、長年にわたって移住に取り組んできた「成果」が見えてきた。
(※)宝島社2021年~24年版「住みたい田舎ベストランキング」において、「人口3万人未満の市」で総合部門、若者世代・単身者部門、子育て世代部門、シニア世代部門の各部門で1位。(人口グループ、部門名については最新年度の表記)

10年連続「社会増」の地方都市

大分市と福岡県北九州市の中ほどに位置する豊後高田市の人口は、2万1960人(2023年12月末時点)。65歳以上の市民の割合を示す高齢化率は38.1%に達し、少子高齢化が進む現代日本の典型的な地方都市だ。人の横顔のような形をした国東(くにさき)半島の西側、言うなれば後頭部に当たるエリアに広がる。白ねぎ栽培や肉用牛の肥育、周防灘の海の幸に恵まれた漁業、美しい自然風景や神仏習合の「六郷満山(ろくごうまんざん)文化」、古い町並みを生かした「昭和の町」などを素材にした観光などが主要産業だ。近年は、大手自動車工場の近隣立地を背景にした第2次産業も伸びている。

四季折々の美しい自然が息づく豊後高田市。10年連続「社会増」の地方都市

同市で特筆すべきなのは、転入者の増加だ。転入者が転出者を上回る「社会増」が2014年から10年間続いており、9年目の22年には初めて、転入者が千人を突破。同年の社会増は過去最高の148人になった。同じく15歳未満の年少人口(2461人)は5年前と同水準を維持。軒並み転出超過が続く県内市町村の中で気を吐く存在になっている。

徹底した移住者支援

その原動力の一つが、徹底した移住者支援だ。2017年に就任した佐々木敏夫市長は、人口減少による「自治体消滅」に強い危機感を抱き「地域の活力は『人』」を市政の基本理念に掲げて、さまざまな移住者支援策を次々に打ち出している。県外から移住した子育て世帯に10万円を交付する「ウエルカム未来の高田っ子応援金」や、市内に祖父母がいる県外からの移住者に10万円を交付する「孫ターン奨励金」、中には子育て世帯の引越代の一部を助成するといったユニークなものもある。
移住者の新たな拠点となる住宅についても手厚い支援を敷く。移住者に無料で提供する宅地を市内2カ所に計42区画整備したのをはじめ、メゾネットタイプの2LDKや家庭菜園付き一戸建て3LDKの市営住宅(いずれも月額4万8千円)を子育て世帯向けに提供している。また、空き家バンクを通して中古住宅を見つけた場合、賃貸借契約の仲介手数料や、物件の改修・不要物撤去・仏壇処分・ハウスクリーニングにかかる費用の一部を助成。こちらでも、空き家バンクの登録物件を視察する際のレンタカー費用や、DIYで改修する移住者の木材費、移住者のペーパードライバー講習受講料など、かゆいところに手が届く助成メニューがある。

月4万8千円の子育て世帯向け市営住宅。メゾネットタイプ(左)や家庭菜園付き一戸建て(右)がある

相談に「庁舎ぐるみ」で即応

こういったアイデアは、どうやって出てくるのか。移住・定住施策を担当する豊後高田市地域活力創造課は「アイデアのヒントは、移住者が集う懇話会から出てくる」と話す。移住して良かったこと、困ったことを直接聞き、改善すべきことはすぐに取り組む。ペーパードライバー講習への助成も、この懇話会での発言がきっかけだったという。「施策立案にGOサインを出す市長自身が懇話会に参加し、直接意見を聞いていることもスピード感につながっているのでは」とも話す。

移住者懇話会には佐々木市長(左端)も参加

また、移住希望者の相談に「庁舎ぐるみ」で即応する雰囲気が「信頼関係の構築につながっているのでは」という。相談者の年齢や家族構成、移住の目的は千差万別。よって不安に思うこともさまざまだ。同市は普段から、相談の中で疑問点が出てきたら即座に担当課へ連絡し、その場で解決できるよう努めている。職員数は約300人。小さな自治体だからこそ職員同士がお互いの仕事をよく知り、縦割りではない丁寧な対応を実践している。「移住希望者から『できないことがあれば、どうすればいいか考えてくれる。豊後高田市の職員さんはAI(人工知能)じゃないですね』と言われたときはうれしかった」と担当者は振り返る。

「困ったときは近所の人」が最多

一方で、移住者への市民の理解が進んできたこともプラス要因に挙げる。約20年前からいち早く人口減少対策に取り組んできた同市では、市民にも過疎化に対する危機感が浸透しているという。「他の自治体より一歩でも前に出ようと、常に新しいことを実践してきた結果、移住者が増えてきて、地域で迎え入れる雰囲気が市民の間で醸成されてきたのでは」
移住後の伴走支援に市民が参加する機会も増え「豊後高田ならではの市民コミュニケーション」が発達。自治体サービスの限界と「自分でやらなければならないこと」との折り合いの付け方、田舎特有の人間関係になじむことの大変さ、昔ながらの「共助」の良さなどを移住者が受け入れられる風土が自然と築かれてきた。一部で「ファッション化」している移住へのアンチテーゼとも言える。
担当者は「市内は街灯が少なく夜道は暗い。でも、都会では見えない星空が広がる。移住した小学生が『初めて本物のオリオン座を見た』と喜んだと聞き、自分たちには当たり前の豊後高田の良さに気付いてくれたことがうれしかった」と話す。移住者アンケートでの「困ったときに相談する人は」という問いに対し、「近所の人」という回答が最多だった。「定住がうまくいっていることを実感した」

地域の理解が進み、新しい豊後高田市民が増えている

こういった姿勢は、全国的な客観評価につながっている。宝島社(東京都)が発行する月刊誌「田舎暮らしの本」が毎年、自治体の取り組みを調査し発表している「住みたい田舎ベストランキング」の最新版(2024年2月号掲載)で、豊後高田市は調査開始以来12年連続、3位以内にランクイン。さらに、総合、子育て世代、若者世代・単身者、シニア世代の各部門で4年連続1位を獲得した。

「そこまでやるか」の子育て支援

実は、この高い評価につながっているもう一つの原動力がある。それは「全国トップクラス」とアピールする子育て支援策だ。自治体にとって、負の連鎖を招く少子化と人口減少は待ったなしの施策立案を迫られている重要案件。豊後高田市はここでも「そこまでやるか」の取り組みを次々と打ち出している。
2018年、市としては全国初とされる、高校生までの医療費無料化と幼稚園・小中学校の給食無料化を同時スタート。19年には保育園の保育料と給食費、幼稚園の授業料も無料化した。また、放課後児童クラブで小学生の無料学習サポートを実施。中学生向けには市営無料塾「学びの21世紀塾」を設け、勉強を教えるだけではなく、都会に比べて「未来の自分の姿」を描く刺激が少ない子どもたちの意欲をかき立てる場にしている。さらに、市内唯一の高校である県立高田高校の生徒向けには、所得制限のない授業料の完全無料化。併せて、学力の向上や難関大学合格などを目標に掲げた公設民営の無料塾を開設。都会との学習格差の是正を図り、同校の魅力向上も目指している。

妊娠・出産・育児・教育。徹底した子育て支援で産み育てる不安を緩和

子育て支援は「未来への投資」

同時に、妊娠・出産・育児をサポートする取り組みも推進。2019年に始めた「子育て応援誕生祝い金」は第1・2子に10万円、第3子に50万円、第4子に100万円、第5子以降は最大200万円を支給。妊産婦の医療費・健診費用の無料化、予防接種費用の助成など、経済的負担の軽減を図っている。また、子育て中の親子が交流でき、一時預かりや病後児保育などにも対応する「花っこルーム」を3カ所に設置。妊娠から出産、子育て期の相談・支援にワンストップで対応する「子育て世代包括支援センター」も設け、ホームビジターによる家庭訪問やワンコイン保育などさまざまなサービスと連携して、知り合いが少ない移住地で子育てをする夫婦を支えている。

子育て・移住の先輩たちが、マンツーマンで保護者を支える「花っこルーム」

市全体で取り組む子育て支援の広報に当たる企画情報課は「子育て支援は、将来を担う子どもたちのための『未来への投資』。移住と共に早くから取り組み、仕事をしながら子育てできる基盤を確立してきた」と話す。「花っこルーム」の運営を支えるNPO法人「アンジュ・ママン」では、子育て初期に「支えられた人たち」が「支える人たち」として新しいスタッフに加入。子育て経験者だからこそ分かる保護者の苦労や悩みに寄り添い、子どもの数が少ないからこそできるマンツーマンの支援を実践している。

支援の財源はふるさと納税

このような豊後高田市の子育て支援の主要財源になっているのは、ふるさと納税の寄附金だ。個人版に加え、企業版の寄附の呼びかけにも力を注いでいる。
個人版で一番人気の返礼品は、大分県北部地域のソウルフードである鶏の唐揚げ。揚げるだけでおいしく食べられるように詳しい調理法の手引きを同封し、市民に愛される味を届けている。白ねぎや「おおいた和牛」、コメなどに加え、移住してきた木工家具職人のテーブルなど、違った「豊後高田らしさ」を感じられる返礼品も出てきた。

山海の幸がそろう「ふるさと納税」の返礼品。子育て支援の貴重な原資だ

豊後高田市ふるさと納税特設サイト

2022年度の個人版ふるさと納税の寄附金は、4億2880万3千円。返礼品の購入費や事務手数料などを除いた2億3481万2409円が子育て支援に充てられた。内訳は▽保育料・副食費 8302万円▽学校給食費 5860万9409円▽子ども医療費 4820万2千円▽子育て応援誕生祝い金 3400万円▽高田高校寮運営補助 460万円▽妊産婦医療費 365万1千円▽保育士等処遇改善 273万円。明確な使途をホームページで公表し、さらなる支援につなげることを目指す。

「自治体の思いを感じてふるさと納税を」

担当する企画情報課は「一般財源の急激な伸びはあまり期待できない中、子育て支援による持続可能なまちづくりを進めるためには、返礼品をさらに充実させることと、子育て支援に積極的な企業に市の取り組みを知ってもらうことを強力に進めなければならない」と言葉に力を込める。
一方で「ふるさと納税は、納税者の意思で応援したい自治体を選べる制度。返礼品だけではなく、ふるさと納税への姿勢や寄附金の使い道など、各自治体の思いを感じてほしい。豊後高田市はこれからも、寄附金を全て子育て支援費用に活用させていただく。少子化に本気で取り組み、この町の『確かな未来』を築きたい」と呼びかける。その先には、市の「ファン」と交流人口、そして移住者を増やし、さらなる活性化につなげる未来図を描く。
さまざまなニーズをくみ取り、その期待に応える。基本的だが難しいこの姿勢を継続することこそ、豊後高田市の未来に向けた大きな課題かもしれない。

「この町の『確かな未来』を築こう」と意気込む佐々木市長(後列中央)と豊後高田市職員