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空き家と空き地で地域活性――島への愛がミスマッチを解決

提供:奄美群島広域事業組合

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九州と沖縄の中間に浮かぶ奄美群島は、少子高齢化や離島ゆえの人口流出に直面している。空き家や空き地も目立つ。放置された空き家や空き地を観光資源や移住・定住、地域の活性化に役立てようと立ち上がった人々がいる。沖永良部島と奄美大島での取り組みをリポートする。

サトウキビの刈入れ作業が続く冬の沖永良部島

奄美群島は有人8島で構成され、サトウキビや果実栽培を中心とした農業、クロマグロや真珠の養殖などの漁業、観光業が主たる産業だ。伝統工芸品の本場奄美大島紬や奄美黒糖焼酎の産地としても知られる。
少子高齢化や人口流出もあり、1955(昭和30)年には20万5千人を数えた総人口は、2015(平成27年)には約11万人まで減少した。

しかし、入込客数は増え続けている。2018年には人口の8倍相当の約88万人が来島した。
豊かな自然と環境の良さから、移住・定住先としての人気も高く、東京や大阪をはじめとする大都市での相談会では順番待ちの列ができるほどだ。
移住説明会やアンケートでは、年間約1500組が移住・定住の候補地として奄美群島を選択している。古里へのUターン希望者も多い。子育て世代からは、島の環境の良さに対する期待が大きい半面、移住後の仕事や住居探しがネックになっている、との声が寄せられているのも事実。入り込みは増えたものの、Uターンや移住が進まない結果、島は慢性的な人手不足となっている。さらに、空き家が増加し、住民も行政も対策に頭を悩ませている。奄美群島の空き家数は2019年12月現在、5000軒以上。その多くが放置状態となっている。

時代や社会的背景、離島という条件不利性が生みだしたミスマッチを力に変え、地域活性化に向けて動き始めた人がいる。

空き家を子どもたちの環境学習や体験交流施設に 沖永良部島 みーやプロジェクト

沖永良部島出身の市来武次さんが、子育てのためにUターンしたのは5年前。自然環境豊かな島で、子どもたちが多くのことを学んでほしいと家族全員での帰島を決めた。
帰島してしばらくすると、集落の出身者から空き家となっている実家の利活用を勧められ、市来さんはプロジェクトリーダーとして青年団のメンバー13人と大家を囲み、空き家の利活用方法を話しあった。

空き家は集落のコミュニティースペースとしての役割に加え、敷地内に体験菜園や子どもの遊び場を作り、島の将来を担う子どもたちがさまざまな体験を通じた学びの場とすることに決めた。将来的には着地型観光の拠点としての機能に加え、集落での生活を体験できる宿泊施設も目指す。

「みーやプロジェクト」を立ち上げた市来さん。室内には子どもの遊び場も設けられている

市来さんは「東京在住の大家さんは両親が沖永良部島出身の2世。都内の大学で地域福祉を研究していることもあり、親の出身集落のためならば、とプロジェクトに積極的にかかわってくれました。空き家は集落の皆さんによるDIYで改装。他の集落の方も応援に加わってくれました。2018年2月に『多目的空間みーや』が完成。利用料は定額の募金にしました。料金箱に利用料を入れます。翌年には持ち寄った資材でトイレやシャワーを設置し、宿泊機能を持たせることができました。現在、宿泊可能な定員は5人。島暮らしを体験したい旅行者の方や、出身者が帰省した際の宿泊施設として利用されています。地域のみなさんの力と夢が注がれた空間です。子どものための遊具も手作りしました。利用者の安全性にも配慮を重ねました」と語り胸を張る。

宿泊機能が加わった多目的スペースには、キッチン、シャワー、洋式トイレをDIYで整備

また、「庭で遊んでいた子どもたちがお年寄りに、花や鳥の名前を質問し、竹を使ったおもちゃ作りを一緒に楽しみ、かまどでの炊飯などを通じて目を輝かせているのを見ると、私も嬉しくなります。施設名の「みーや」は屋号の「新屋」から命名。新しい家という意味です。いつも新しい気持ちで集落の皆さんと共に歩む空間でありたいと思っています。今、島の中心地には空き店舗も多く目立ちます。改修をして、島の人にも観光客にも喜んでもらえる交流施設づくりにも着手したいですね」と力を込めた。

空き地・空き家調査を行い移住希望者とマッチング 奄美大島 NPO法人ねりやかなやレジデンス

「島に住みたい人、滞在したい人がいるのに家が足りない。しかし、空き家や空き地は増える一方」と話すのは、奄美群島内の空き家・空き地の利活用に取り組んでいるNPO法人ねりやかなやレジデンスの代表理事佐藤理江さん。副代表理事の山腰真澄さんと共に島々の住環境を中心とした課題解決に取り組んでいる。

空き家を活用したNPO法人の事務所で打ち合わせをする代表理事の佐藤さん(左)と副代表理事の山腰さん

2017年には、沖永良部島で農業繁忙期に長期滞在する農家アルバイトのためのドミトリーを整備。1年間で延べ150泊の利用者があり、島の農家を後方支援。奄美大島では築100年以上の空き家となった古民家を再生し、移住者家族に転貸した。

佐藤さんは「移住希望の方には、『島』に移住したいという気持ちの芽生えから、『島なら奄美がいい』という決意するまでのプロセスがあります。関心が高まった方には『移住体験イベント』への参加を呼びかけ、実際に島での暮らしを実感したい方には、空き家を活用したゲストハウスでの『お試し暮らし』をおすすめします。移住・定住の希望者の要望を理解し、くみ上げることがマッチングには不可欠。移住・定住を力強く呼びかけても、その思いが一方通行では相手に届きません」と話し、多様な移住希望者のニーズに耳を傾ける必要を訴える。

2019年には奄美大島の龍郷町で集落空き家調査を行った。「龍郷町内でも移住希望者の人気のあるエリアの集落を調査しました。その集落は約60年で世帯数は3分の2、人口は5分の2、子ども数に至っては5分の1まで減少していました。調査の結果、集落民ですら家探しに困るほど住まいが足りていない現状が見えてきました。空き家や空き地はあるのに、流通していない。空き家比率は建物数の約1割。空き地は集落面積の2割を占めていました。空き家の中で修繕なしで住める家は3軒程度。未登記物件が過半数で、登記済みであってもほとんどが40年以上前。空き地はほとんどが登記されていたものの、50年前の登記が約4割でした。集落内に土地購入希望者が数世帯ありましたが、空き地はあっても売り地はありません。空き家はあっても、貸家の空きもないという状況でした」と調査を振り返る。

しかし、調査の過程で集落の方々との関係が深まると、空き家を貸しても良いという大家さんも現れた。サブリース契約を結び、賃貸希望者とのマッチングに舵を取る。

熊本県から奄美大島に移住した森さん(右)と山下さん。仕事に趣味に充実した奄美ライフに笑顔がこぼれる

佐藤さんによる声かけで、今年1月に龍郷町の空き家に入居が決まったのは、熊本県から奄美大島に移住した森慎一さんと山下初代さん。移住後に入居した住宅が手狭になったこともあり、広い家と奄美らしさが感じられる立地への引っ越しを希望していた。

島内での転居となった森さんは「家賃が抑えられている空き家は、不動産業を仲介しての流通も少なく、家主さんとの直接交渉が求められます。ハードルが高いのですね。力を貸してくれたNPO法人の皆さんには感謝しています。私は移住後も島で歯科技工士としての仕事を続けており、パートナーは熊本在住時の仕事をテレワークで続けています。好きな海と山に恵まれた奄美大島で充実した毎日を過ごしています」と笑顔で語った。

保育園跡地に展開した規格型住宅。空き地の活用に加え、災害時の避難場所としての活用も見込まれている

佐藤さんと山腰さんは、空き地を有効活用するために規格型住宅を開発。取り壊された保育園の跡地に、現在2棟を建てた。現在はモデルハウスとしての役目に加え、移住体験のゲストハウスとしても稼働している。台風の時には近隣住民から避難所としての利用を申し込まれたそうだ。「今後も活動を通じて島の使われていない空き家や空き地を減らしながら、島に来る人、島にいる人が幸せになるプロセスを担っていきたい」と語り、奄美群島の可能性に自らの夢を託した。

離島という条件不利性を力に変え、地域づくり・島づくりにチャレンジを続ける人々がいる。未来の島の姿には、今の時代を生きる我々の姿が映り込む。地域の課題に正面から向き合い、次の世代への責任を持ったバトンタッチを果たしたい。