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マイホーム建設は延期すべき? 家具は便乗値上げ? ウッドショック、私たちの暮らしへの影響は

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アメリカでは木材価格が下がりつつあり、「今年の秋から年明けくらいには落ち着く」との見方もあるウッドショック。世界的な木材価格の高騰で、住宅の値上げや建設工事の遅延などが取り沙汰されてきた。日本では今も、マイホームや家具の価格など、暮らしへの影響が不安視されている。また、木材価格が上がっても山主はもうからないという指摘もあり、業界の抱える問題が浮き彫りになっている。そもそもなぜウッドショックが起きたのか、いつまで続くのか。家計におよぼす影響や、増産できない理由、背景にある日本の課題を解説する。(監修・情報提供:森林ジャーナリスト・田中淳夫、情報提供:日本総合研究所・石川智久、デザイン&イラスト:アトリエマッシュ、取材・文:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

ウッドショックはコロナ禍の影響?

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2020年の夏ごろ、アメリカで木材価格が上がり始めた。コロナ禍で木材業界が減産し、供給が減少していたところに、リモートワークの広がりや低金利政策の影響から、郊外に住宅を購入する人やリフォームする人が増加。木材需要が急激に高まった。同様のことが中国でも起き、コロナ禍における海上物流の混乱、コンテナ不足も相まって、世界中で木材供給が滞った。日本では、輸入木材(以下、外材)が不足した結果、国産材の供給もひっ迫。国産材も値上がりし、2021年4月ごろからウッドショックが話題に。

石川智久さん(日本総合研究所):アメリカで、木材の先物価格が4、5倍に上がりました。日本でも、外材で工事の計画を立てていたところは、木材が入ってこなくなり、ストップせざるを得なくなった。国産材の価格も上がってはいますが、価格高騰というより、木材が手に入らず、工事が止まったケースをよく聞きます。

値上がりは針葉樹で、家具は"便乗値上げ"の可能性も

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値上がりしている木材は、基本的に針葉樹。針葉樹は「ソフトウッド」といわれ、軽くて柔らかい。真っすぐ伸びていて、住宅の柱や梁(はり)、土台など、建築材として多く用いられる。品種はマツやスギ、ヒノキなど。一方、広葉樹は「ハードウッド」と呼ばれ、重くて硬く、家具材やフローリング材、食器やカトラリー、製紙チップなどに使われる。品種はケヤキ、ブナ、サクラなど。

田中淳夫さん(森林ジャーナリスト):今回のウッドショックで影響を受けているのは、針葉樹を使用する建築材です。広葉樹で作られている家具などに関しては、あまり影響は出ないはず。"便乗値上げ"の可能性もあるかもしれません。

日本の状況は? 山主がもうからないのはなぜ?

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外材の供給減が予測できているなら、国産材を増産しておけばよいようにも思われる。だが、そう柔軟には対応できない事情があるという。

石川さん:バブルはいずれ弾けます。アメリカの木材需給が落ち着いたら、安い外材が入ってきて、国産材の価格もまた下がる。価格が戻ることを見越して、たくさん伐採したり、増産するための設備投資をしたりするのは控えている林業家や業者が多いでしょう。また、価格が上がれば住宅を新たに建てる人が減り、木材需要も減少します。

田中さん:まず、林業は年間計画ですから、すぐに増産はできません。そもそも、人手も機材も不足しています。たくさん伐採すれば、その後の植林に費用や手間もかかるため、フレキシブルには対応できない。

また、業者間の信頼関係に課題もあるでしょう。木材流通には、一連の流れがあります。まず山主がいて、伐採業者がいる。切り出された木は製材所で板や角材になり、木材店や建材メーカーへ。最終的に工務店へ行き、施主が買う。問題は、各関係先に情報のやりとりがないこと。昨年のうちに値上がりしそうだという情報が各所で共有され、連動して備えられたら、増産できた可能性はあります。でも、そうはいかないのが実情です。山主には海外で価格が上がっているという情報がすぐには届かない。そのため、木材店などから「もっと木を切ってほしい」と要望を受けても、安く買われて損をするのではないかと疑心暗鬼になり、なかなか動けないのです。

今回の価格高騰によって、山主がもうかっているわけではありません。本来、木材価格が上がることは、山主にとって喜ばしいはず。でも実際は、伐採業者が昨年のうちに安い価格で契約して切った木材を高く販売しているケースが多いのです。

中には、山主を含め、関係各所と信頼関係を築いている工務店もあります。そういうところは今回のような供給減の影響を受けにくいでしょう。住宅建設を予定されている方は、木材の調達先などにこだわりのある工務店を選ぶのもよいと思います。

これからどうなる? 価格は元に戻る?

ウッドショックはいつまで続くのか。マイホーム建設はしばらく控えたほうがいいのだろうか。

石川さん:今回のウッドショックの終わりは、今年の秋から年明けくらいが一つの目安かと思います。アメリカの住宅事情も落ち着いてくるでしょうし、日本でも大手の工務店などが少し設備投資を開始していますから、供給も増えてくると思います。

田中さん:アメリカではすでに価格が下がってきていますから、そう長くは続かないでしょう。ただ、アメリカの木材バブルが弾けても、日本に影響が出るのは、3カ月ぐらい後になると思います。

ウッドショックから見える日本の課題

日本の森林面積は約2500万ヘクタール。国土の約3分の2が森林であるにもかかわらず、木材自給率は37.8%(2019年)で、輸入の割合が高い。どのような背景があるのだろうか。

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田中さん:ウッドショック前、日本の製材用スギ丸太価格は、1万3000円(立米単価)前後でした。1980年は3万9600円。木材価格は大きく下がってきたのです。50年代に外材輸入が解禁され、高度経済成長期に木材需要が膨れ上がり、外材に依存するようになりました。その後、円高になって外材価格が落ち、それに合わせて国産材価格も下落。伐採などにかかる経費は変わらないため、山主の受け取る純益は約10分の1に。そういった状況下で、放置される山も増え、国内の木材生産は減少してきました。

石川さん:林業界では高齢化が進み、人手が不足しています。技術やノウハウのいる世界ですから、急に木材需要が拡大しても、新たに人を雇うのは容易ではありません。輸入に頼る現状ですが、今回のように外材が急に入手できなくなることもあります。国内人口が減っていく中では、輸出産業を目指して、国産林業を育成していく必要があるでしょう。また、外材に関していえば、リスクを減らすため、調達先を多様化しておくことも大事だと思います。

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