今年の3月から一気に進んできた円安。円高に戻す時期があったものの、年初と比較すればいまだ円安基調が続いている。「ユーキャン新語・流行語大賞」でも「悪い円安」がトップテンに。Yahoo!ニュースが、円安についてユーザーにコメント欄で意見を求めたところ、530件を超えるコメントが寄せられた。値上がりで、買い物に尻込みするといった切実な声が聞かれた一方、外貨預金の倍増などで恩恵を受けている人も。なぜ、今年は急に円安になったのか、円安による生活への影響は、あとどれぐらい続くのか、個人レベルでできる対策とは──。ユーザーコメントや有識者への取材をもとにグラフィックで解説。
(11月14~23日のコメント、計約530件を基に構成)(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミスト)
※当コンテンツ内の解説は、12月7日時点のものです。
- 円安でみんなが感じたことは「外食」「買い物」「光熱費」の値上がり。一方で資産が増えるなど恩恵を受けた人の声も。
- 円安はすでにピークアウトした可能性。来年はアメリカの景気も悪くなり、円高になりそう。
- 円安で国の税収が増え、実は財政が改善。悪い事ばかりではない。年末年始用の買い出しを計画的にするなど、個人でできる対策をして乗り切ろう。
そもそも「円高」「円安」って何?
円安とは、円の価値が下がる(=外貨の価値が上がる)こと。例えば、昨日1ドルを100円で買えていたのに、今日101円出さないと買えなくなったのであれば、「円安になった」ということを意味する。逆に円高は、円の価値が上がり、より少ない円でドルを購入できる状態を指す。昨日1ドルを100円で買ったが、今日は98円で買えた場合、「円高になった」といえる。
円安の影響、みんなの声は?
円安による物価高と光熱費の高騰に言及するコメントが多かった。「電気代は、前年比8%の節電をするも12%の上昇。ガス代は、前年比8%の節ガスをするも30%上昇」、「1袋19円のモヤシが、29円になったことは驚き」などの切実な声が聞かれた。「海外旅行に行きにくくなった」との意見も多かった。また、仕事の面での影響に言及する人も。「農業してる。生産資材や出荷資材、肥料や農薬の価格は上がった。でも農作物の市場買取の値段は上がらない」といった嘆きがあった。
いい影響を受けている人や、影響はないとする声も一定数あった。「外貨建て保険の還付金があったときに、昨年と同じ額だが1万円ほど多く還付があったのでそこだけは円安に感謝した」など、外貨建ての資産が増えたとする人が多かった。影響はない、とする声の中には「値上げも感じるが、品目によって値段を据え置いている業者が多いのもまた事実。生活水準に応じて工夫したらそんなに困ることはないのでは」などの声があった。また、景気回復のためには円安のままでいいという声も複数あった。
円安が進んだ背景は?
コロナ後のアメリカの急激な景気回復による需要の増加やロシアによるウクライナ侵攻の影響などで、アメリカでインフレが進行。物価高を抑えるため、アメリカでは利上げが行われるという観測が高まった。その結果、ドルのほうが円よりも利息が増えるとしてドルが買われることになり、円安が進んだ。
日本で利上げは起こりにくい?
日本は物価が上がってはいるものの、海外と比較するとそれほど上がっていない。アメリカでは物価が上がると、「値段が上がる前に買おう」と需要が増すのに対し、日本では、デフレが長く続いたことから、「節約しよう」と考え、買い控える傾向にある。そのため日本ではまだ需要が足りず、経済が過熱していない。
金利を上げること(利上げ)は過熱するお風呂(景気)に氷を加えて適温にする行為にたとえられるが、日本はまだ温度が上がりきっておらず、仮に利上げをすれば経済に冷や水を浴びせることになる。
専門家は現状や今後をどう見ている?
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業後、第一生命保険入社。1998年日本経済研究センター出向、2000年より第一生命経済研究所経済調査部、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、2016年より現職。専門は経済統計、マクロ経済分析。
Q. この円安はいつまで続くと思う?
11月10日に発表された10月のアメリカのCPI(消費者物価指数)の伸びが市場予想を下回ったことをきっかけに、アメリカの利上げもピークアウトか、というムードになり一気に円高になった。私は以前から年内にはピークアウトと言ってきたが、その状態になった可能性はある。これだけ利上げをしてきたので、来年はアメリカの景気も悪くなるだろう。そのため、来年にはアメリカも利下げに転じそうだ。アメリカが利下げに転じればドル安になるので、来年にかけてはもう少し円高の方向に行くと思う。
Q. 日銀の動きは今後どうなると思う?
日銀はこれまで利上げをしていないが、日本の景気が十分回復していないことを考えると正しい金融政策をしている。おそらく、来年の4月に総裁が任期満了を迎えるまでは、このまま金融緩和を続けるだろう。ただ、新しい総裁になったら政策の転換が起こる可能性はある。そういう意味で次の日銀の人事は非常に重要だ。
Q. 物価高に対応するため所得が上がる可能性は?
日本の経営者はマインドが萎縮していて、人材流出の危機感が薄いので、物価高でも賃金を上げるところと、上げないところでばらつくだろう。熊本県では台湾の半導体工場が進出し、人材の奪い合いが起きはじめているので、県内や近隣の鹿児島で賃金が上がりつつある。そのような外圧があれば周りも上げざるを得ないのだが、日本は20年以上デフレを放置してきた国。相当なショックがないと変わらないだろう。個人は賃金が上がるのを待つのではなく、副業や転職をするなどして前向きに動くべきだ。
Q. 円安で日本に起きている意外な影響は?
円安で日本の財政が改善されている。円安は短期的には国民にとって物価が上がって大変という側面があるが、円安で恩恵を受ける大企業からの税収が増えるので、政府にとっては円安のほうが潤う。政府が持っている外貨建ての資産も増える。コロナ前と比較して、政府の純債務も減っているし、今年度の税収も過去最高を更新する可能性が高い。円安には日銀の利上げで対応するのではなく、国が再分配するという財政政策で対応するべきだ。
Q. 国としてできる対策はないか
円安が進みやすい理由の一つに、日本企業は海外の現地法人で稼いだもうけを日本に戻さないで、海外に投資していることがあげられる。そのもうけを国内に戻したら大幅に減税するなどして優遇する「レパトリ優遇」(レパトリエーション=本国へ帰還する、の意味)という政策が有効だ。外貨が円に換えられて、国内の投資も増える。アメリカでは2005年のブッシュ政権やトランプ政権で減税が行われた。岸田政権はこの政策に慎重だが、単なる「痛み止め」ではない政策をやる必要がある。
個人で円安対策している人も
コメント欄からは、「対策は難しい」という声が聞かれる一方、さまざまな試行錯誤がうかがえた。「手間と労力がとてもかかるが、複数のお店に行ってどこのお店で何が安いのかをあらかじめ把握してから商品を買う」「とにかく自炊。スーパーで値上げがあるかもしれないが、値上げの外食を利用するよりよっぽどいい」「携帯会社は格安に変えて、洋服は一切買わない。髪も3カ月我慢かな?」などの節約術が挙がっていた。
私たちにできることは? 専門家に聞いた
外資系投資銀行を経てファイナンシャル・プランナーとして独立。2015年よりシンガポール在住。
食費を抑えるポイント
主食を自給率ほぼ100%のコメ中心に変えたり、自給率の高い野菜中心の献立にしたりすることが考えられる。魚介類も実は自給率が6割を割っており、イクラ、ズワイガニ、紅サケ、たらこ、ウニ、ホッケなどはロシアからの輸入が多い。これらを避ける工夫もよいだろう。
カニなどのぜいたく品はふるさと納税の返礼品を活用するのも手。クリスマスや年末年始の出費は直前に準備するとかさむために計画的に。
暖房費を抑えるポイント
電気代に関しては、暖房の管理の徹底を。室温は20度を目安に。厚手の床まで届く長いカーテンは効果的。サッシ枠に断熱テープや、窓ガラスに発熱シートを貼ることも有効な対策だ。
住宅ローンのポイント
住宅ローンについては、フラット35は金利の上昇が緩やか。今のうちに安全な固定金利にしておきたいという家庭にとっては狙い目かもしれない。変動金利は、今すぐに上昇するようには感じない。しかし、将来的に他の国のように金利を上げざるを得ない局面も出てくると思うので、今のうちに長期で固定しておくことも考えられる。
円安時の心構え
円安は家計にとっては光熱費と食料品の価格上昇のダメージが大きくなる。また、海外旅行や海外留学をしにくくなる。将来の購買力を維持するためにも、日本で生活をしている人でも資産の一部でまずは外貨預金などをしてみるのも手かもしれない。アメリカに旅行に行くのが好きな人は、ドル預金があると旅行先で利用することもできるので、リスクも抑えられるのではないか。
「#生活危機」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。
急速な円安の進展、相次ぐ値上げ、光熱費の高騰――。私たちの生活は今後どうなるのか、危機に陥った生活をどのようにして立て直すのか。
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