8月も終わりに近づき、新学期を迎える。多くの子どもにとっては、家庭と学校という空間がほぼすべてだが、どちらにも居場所のない子どもたちがいる。学校に行く必要がない夏休みは、家庭にすべての時間が託されるという状況でもある。では、もし家庭が機能不全を起こしていたら――。Yahoo!ニュースがコメント欄で「子ども時代の第三の居場所(サードプレイス)」について聞いたところ、さまざまな体験談が集まった。そこからは、居場所がない子どもたちの実情が見えてきた。彼らに対し、私たち大人ができることはあるのだろうか。(7月30日~8月4日のコメント、計1002件を基に構成)(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:全国こども福祉センター理事長・荒井和樹)
Yahoo!ニュースのコメント欄に寄せられた「第三の居場所(サードプレイス)」
家庭でも学校でもない居場所として、特に目立ったのは塾だった。ほかにも、スポーツクラブ、ボーイ(ガール)スカウト、児童館など、さまざまな場所に関する体験談が寄せられた。ただ子どもだけに、習い事など、親の意向が反映されたものが多いともいえる。そのほか多く挙げられたのは、祖父母などの親戚の家だった。知っている大人に保護される安心感がいかに大きいかを物語っている。
サードプレイスのとらえかたは人それぞれで、一般的な「場所」ではないものを挙げるコメントも見られた。インターネットを筆頭とした趣味の世界に没入することも、サードプレイスとして大きな意味を持っていることがわかる。ともすれば「現実逃避」と表現され、ネガティブにとらえられがちだが、居場所のない子どもたちには生命線であることがよくわかる。
今回のコメントで印象的だったのは、子ども時代に居場所がなかった人が、大人になって居場所をつくろうとしているという声だった。また、仕事として居場所づくりをしている人が、難しさを訴えるコメントもあれば、子どもから居場所がないと言われて悩む親の声もあった。日本の経済状況の低迷が続いた結果、社会から「余白」が減り、子どもたちのサードプレイスが奪われているという意見もあった。
家庭や学校に居場所がない子どもの割合は?
内閣府の「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」によると、「ほっとできる場所、居心地の良い場所」として、学校を「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」と回答した子ども・若者は計51.9%。「家庭」を「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」とした子ども・若者は計24.4%。約4人に1人は、家庭を居場所と思っていない実態がある。
一方で、彼らにとっての居場所として存在感を強めているのが「インターネット空間」だ。居場所だと感じている人は計56.6%で、「自分の部屋」「家庭」に次ぐ大きな存在となっていることがわかる。
「トー横」などの繁華街になぜ行き場のない子が集う?
近年、行き場のない若者の「たまり場」としてメディアで取り上げられるのが、東京・歌舞伎町の「トー横」、名古屋・栄にあった「ドン横」(2022年6月に再開発のため広場は閉鎖)、大阪・ミナミの「グリ下」などの繁華街の路上だ。若者がこうした場所に集まるきっかけも、インターネットを介したSNSの影響が大きいとされている。
NPO法人「全国こども福祉センター」理事長として、名古屋を中心に行き場のない若者の支援活動を行う荒井和樹さんは、繁華街の路上が若者の居場所となる理由をこう語る。
児童養護施設を退職後、繁華街やSNSで子ども・若者とともにフィールドワークを行い、アウトリーチ活動を実施。2012年にNPO法人「全国こども福祉センター」を設立。中京学院大学専任講師。保育士・社会福祉士。
警察庁の資料(※)によると、2021年にSNSに起因する犯罪の被害に遭った子どもは1812人。9年前と比べると約1.7倍に増えており、強制性交や略取誘拐といった重要犯罪に巻き込まれる事件も増えている。若者たちの新たな「居場所」となったSNSは出会いを広げるメリットもあるが、発信される情報の判断が子どもたちに委ねられてしまう難しさもある。
※「令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」
支援が届かない子どもがいるのはなぜ?
児童相談所の相談件数や、子ども食堂の数は増加している。しかし、援助機関の支援が届かない子もいる。学校や地域、家庭に頼れる大人が複数いる子どもは、援助機関や支援情報に直接アクセスしやすいが、そうでない子は接点がなく、距離が生まれてしまうのだ。
子どもの援助機関は、チラシや宣伝広告、啓発活動に力を入れているが、必ずしも子どもたちと信頼関係を築けるとは限らない。また、そうした宣伝・啓発活動が情報の押しつけになっている面もあり、援助の価値が伝わっていない実情もある。
児童養護施設を利用する際も、入所者の自由度が低く、管理的な支援内容が多いため、敬遠してしまう子どももいる。また、支援施設を利用しただけで、「あの家は複雑らしい」などと周囲に言われるなどのスティグマ(社会的な差別や偏見)を背負わされてしまう側面がある。
居場所のない子どもへの対処法とは?
行政の施設に行ったり、相談窓口に電話相談をしたり、小さな一歩を踏み出すにも、子どもにとっては、その一歩のハードルが高すぎるのではないだろうか。居場所のない当事者の子ども、そして周囲の大人ができることは?荒井さんにアドバイスをもらった。
居場所のない子どもができる第一歩としては、まずは自分が好きなことや趣味を通して、人間関係を広げてみることだ。他人だけでなく、動物を含めた「自分以外の何か」と触れ合うことは、多様性を理解するための助けになる。行動範囲が広がれば、新しい人、もの、価値観に出会える。積極的に行動できないときは、YouTubeの視聴や読書でもかまわない。
居場所のない子どもと接するとき、大人が「よかれ」と思っていることの多くが、操作・管理支配になりがちだ。重要なのは、子どもが主導権を握れるかどうか。ある程度の自由度があり、子どもの目的や行動が尊重される場所がよい。児童館や放課後児童クラブなどを、夜間に中高生に開放する方法もある。地域社会の一員として、ボランティアや行事スタッフなどに参加しながら、周囲の大人と協働的な関係性を築けるとよい。貸し借りをお互いにつくれる場所が大事だ。
記事作成の基となった記事はこちら。
【みんなで考えよう】子どもの頃、学校や家庭以外に「居場所」、ありましたか?
この記事をシェアする