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これってステマなの? ステマの何がだめ?──10月から実施される規制の本質

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ステルスマーケティング(ステマ)に対する規制が10月から開始される。だが、その内容についてはどれだけの人が正しく認識できているだろうか。

Yahoo!知恵袋の質問を分析したところ、「これはステマになるか」といった具体例を挙げての質問や、「何が問題なのか」といった根本的な疑問が見られた。私たちの日常生活で身近な商品やサービスに影響が及ぶステマ規制だが、広く理解が浸透しているとは言いがたい。規制に至った背景や取り締まりの対象者などの概要について解説する。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:板倉陽一郎)

この記事、ざっくりいうと?
  • ステマ(消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為)は公正な判断を阻害する
  • 規制対象となるのは広告主のみ(景品表示法による規制の対象が広告主のみのため)
  • 今後さらに問題視されると、インフルエンサーにも規制が広がる可能性がある

みんなが感じているステマの疑問は?

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ステマとは、事業者が自らまたは第三者に依頼するなどして、消費者に商品やサービスの宣伝と気づかれないように宣伝する行為を指す。

Yahoo!知恵袋の「インターネット、通信」カテゴリで投稿された「ステルスマーケティング(ステマ)」に言及した質問を対象に、単語の登場回数などを割り出す解析を実施。各コメントの段落内に同時に出現した頻度の高い単語同士を線で結び、「共起ネットワーク」を作成。なかでも多くの単語のつながりがあった特徴的なネットワークを抽出し、グラフィックにした。

この図からはステマを行っているサイトや、商品紹介、大手ECサイト上でのレビューに関心が高いことが読みとれる

また、個別の投稿を見てみると、インフルエンサーが自身の発信に悩む場面や、病院など身近な施設やサービスにも「口コミ」の影響力が広がっていることがみてとれた。

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飲食店の無料招待や病院の口コミの依頼、歌ってみたの依頼については、依頼された側が「どのように紹介するか」の裁量を持っている場合は、基本的にはステマになるとは言い切れない(依頼主と依頼される側の関係によってステマになる場合もある)。また、商品紹介に嘘がない場合でも、宣伝と気づかれないように宣伝する場合は規制の対象となる。10月1日以前の過去の投稿についても規制の対象となる可能性があるため是正が必要だ。

ステマの問題点と解説

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ステマは消費者の誤認を誘発し、公正な判断を阻害する点が問題視されている。そのため商品説明や感想について嘘がなかったとしても、市場の健全な競争環境維持のために認められるものではない。

前提となるのは「広告主の表示であるにもかかわらず、そう見えない」かどうかだ。ステマは典型的なものとしては次の2種類に分類される。企業自身が宣伝であることを隠す「なりすまし型」と、第三者に報酬を支払い、宣伝をさせる「利益提供秘匿型」だ。

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ステマは常にインターネットサービスのトレンドに乗じて発生してきた。ブログ隆盛の2010年代に芸能人ブログでのオークションサイトの紹介が詐欺的だとして騒動となり、Twitter(現在はX)、InstagramなどのSNSが台頭してくると、多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーに金品を渡し宣伝させる手法が増加した。

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インフルエンサーを取り巻く環境の変化。悩む当事者も

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Yahoo!知恵袋には、人気タレントやインフルエンサーの発信を「ステマ」と疑うような投稿も見られた。消費者庁の調査によると、ステマを依頼されたことのあるインフルエンサーのうち、44.7%が「受けた」と回答している。ステマを断った大半の理由として、フォロワーの信頼や自身のブランド価値を棄損することを挙げている一方、 受けた側にはそうした理解が足りていなかった様子がみてとれる。

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インフルエンサーを取り巻く環境はどのようになっているのか、インフルエンサーマーケティング事業を手がけるPien株式会社代表の森泰輝氏に聞いた。

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Q.インフルエンサーはステマをどのようにとらえている?

森泰輝さん
森さん
フォロワーが数十万人以上いるようなインフルエンサーにとっては、ステマによる炎上リスクが自身の破滅に直結するため、応じる人はまずいないでしょう。一方でフォロワーがそこまで多くない駆け出しの場合だと、そもそも炎上までつながらないこともあるため、ステマに応じてしまう人がいるかもしれません。

Q.広告主や代理店の状況は?

森泰輝さん
森さん
ステマについては、過去にさまざまな事件やトラブルがあった経緯から、発注側の意識も高まっています。そのため、現在まともな広告主や代理店が扱うことはないでしょう。

Q.消費者側の反応は?

森泰輝さん
森さん
これまでのステマに関するトラブルを経て、ユーザーの疑いの目も強くなっています。例えば、唐突に商品紹介をされれば違和感を覚えますし、複数のインフルエンサーが同じような投稿をしていたら不自然に感じ、「これはステマなんじゃないか」と警戒するようになっています。

Q.消費者の警戒が高まることによる影響は?

森泰輝さん
森さん
インフルエンサーは誹謗(ひぼう)中傷にさらされることが多く、していないのにステマと決めつけられることもあります。消費者側が疑いを強くするあまり強い言葉で非難したり、弁明に耳を貸さなかったりすることに対して、どのように向き合っていくべきか。現状、消費者、インフルエンサーともにステマについて過敏になっている節があるため、適正化されることを願っています。

「広告」の表示があっても不明瞭なものは違反対象

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10月のステマ規制は、「景品表示法(景表法)」が禁止する不当表示にステマが指定されることによるもの。景表法は広告主のみが行政処分の対象となるため、代理店やメディア、インフルエンサーへの直接の効力はない。

規制の背景には、インターネット広告費が総広告費全体の43.5%を占め、消費者への影響が大きくなっていることがある。たとえ広告であることが表示されていても、そのことが不明瞭な場合は違反となる。

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日本より一歩踏み込んだ海外のステマ規制

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アメリカでは推薦者が実際に宣伝する商品を使用する必要があり、韓国ではインフルエンサーも処罰対象となりうるなど、日本よりも踏み込んだ規制が見られる。

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専門家に聞く ステマ規制のギモン

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Q.規制でステマはなくなる?

板倉さん
板倉さん
ステマ規制の告示後に、あるネットのグルメレポート上で早速「この牛丼××円、味噌汁××円は提供を受けました」とありました。発注側にこのような対応の兆しが見られるため、一定の減少は期待できそうです。

Q.規制の課題や今後は?

板倉さん
板倉さん
処分の対象となる広告主はもちろんのこと、代理店やメディアも理解を深める必要があります。認識が甘いまま違反をしてしまった場合、自身は罰せられないが大事な取引先を失うことになります。

Q.商品を無償提供する「ギフティング」で違反となる線引きは?

板倉さん
板倉さん
「どのように表示されるのか」を広告主がコントロールしているかどうかです。商品のギフティングだけではなく、「それをどのように紹介するか」。その裁量が贈られた側にある場合は、コントロールしているとは言えません。ただし、これまでその会社の商品を好意的に紹介してきたインフルエンサーに対し謝礼を渡した場合、それ以降の紹介が広告主自身による表示とされることが考えられます。また、いきなり10万円以上などの高額な報酬を送りつける場合も、好意的な紹介をする他ないということで、コントロールしていると判断されかねません。

Q.今後もインフルエンサーは規制の対象にならない?

板倉さん
板倉さん
民事で広告塔の人物を訴えるケースもありますが、ほとんど認められていません。海外ではインフルエンサーも規制の対象になっているところもあります。さらに問題視されるようなことがあれば、規制が広がることも考えられます。


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