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夫婦同姓は日本だけ。なぜ進まない? 選択的夫婦別姓制度 #令和の人権

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10月29日、国連の女性差別撤廃委員会は日本政府に対して、夫婦同姓を義務付ける民法の規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入するよう勧告した。
先の衆議院議員選挙の争点にもなった選択的夫婦別姓だが、各党はそれぞれ異なったスタンスで臨んだように、国内ではジェンダー平等の観点からさまざまな議論が交わされている。制度の導入に際して想定される改善点や課題点について識者に聞いた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/取材・文:キンマサタカ/監修:竹内豊)

この記事、ざっくりいうと?
  • 制度の導入について過半数が「賛成・どちらかというと賛成」
  • 親子の姓が違うとイエの絆が弱くなるという反対意見も
  • 選択的夫婦別姓が女性の社会進出をさらに後押しする一助に

1.選択的夫婦別姓、みんなはどう考える?

選択的夫婦別姓制度とは?
婚姻関係にある夫婦が、別姓を望む場合に、夫婦がそれぞれ結婚前の姓を称するかどうかを自ら決定する選択の自由を認める制度。
1898(明治 31)年に制定された旧民法で「家制度」が導入され、妻は夫の家に入り、夫婦は同じ家の名字にする制度になった。そこから戦後の民法改正で、夫婦は夫か妻のいずれかの名字を選べるようになったものの、夫婦は同じ名字にするという仕組みはそのまま引き継がれている。

日本では婚姻の際、妻が夫の姓を選ぶケースが多い。しかし、女性の社会進出に伴い、改姓による不便・不利益などさまざまな問題が浮かび上がっている。そこで、Yahoo!クラウドソーシングで20代以下から60代以上の5つの年代別・男女別に各300人、計3000人を対象に「選択的夫婦別姓制度」についてアンケート調査を行った(2024年10月26日実施)。

全ての世代において、「賛成」もしくは「どちらかというと賛成」の合計が過半数を占めた。また各性別・年代別で見てみると、若い世代かつ男性より女性のほうが制度の導入を支持しているのがわかる。

コメント
「銀行や運転免許証の手続きなどで、夫婦どちらか片方だけが面倒な思いをするのは良くないと思う」
「名字が変わることで、今までの積み上げてきたキャリアや認知度が落ちてしまうから」
「名字も含めて個人のアイデンティティーだと思う。結婚によりそれが奪われるのを嫌だと感じる人の気持ちも尊重されなければいけない」
「同級生の親が離婚して名字が変わったことでクラスで噂になった。そんなことになるなら別姓のままでいい」
「世界では夫婦別姓が当たり前になっている。日本は伝統を守りたいのかよくわからないが、今の時代に合う制度改革はどんどん行ってほしい」
反対
「夫婦は同じ名字が当たり前だと思う」
「女の人は嫁になったら、その家の名字を名乗るべきだ」
「日本独自の家族制度をもっと大切にしなければならない。決して古い制度ではないが海外を真似る必要などさらさらない」
「混乱のもと。子どもがかわいそう」
「家族の定義が曖昧になる」
「夫の姓になることが結婚の喜びのうちの一つだと思う」
「別姓にされると独身と偽りやすく、制度が詐欺などの犯罪に利用される機会が増えるのでは、と懸念している」

2.別姓にすることで改善される点、課題点はどこにある?

選択的夫婦別姓を法制化することについては、賛成と反対それぞれの意見がある。制度を導入することで改善される点、課題はどこにあるのか。法制度に詳しい専門家に聞いた。

竹内豊
竹内氏
現在の民法は、結婚に際して男性か女性いずれかの姓に改めることを規定しています。統計によると約95%が男性の姓を選び、結果的に女性が姓を改めることが多く、姓を変えることによる職業上、日常生活上の不便、アイデンティティーの喪失などの不利益を被る構図になっています。「親と子の名字が違うとイエの絆が弱くなる」という反対意見もありますが、情緒的な側面が大きく、それらの意見を後押しする明確な法的根拠はありません。旧姓を通称使用することで解決できるという意見もありますが、選択的夫婦別姓が女性の社会進出をさらに後押しする一助になるかもしれません。
図解

「~家の嫁」という言葉があるように「イエ」という単位は日本人に広く浸透している。夫は外で働き、妻は家事や育児を担うといった性別による役割分業の意識はいまだに根強く、配偶者控除など専業主婦を優遇する制度もある。
しかし、現在では多くの女性が社会進出しており、結婚前と同じ名字で仕事を続けられれば、これまでのように仕事相手に通知したり、名刺やメールアドレスを変更したりするなど業務上の支障がなくなり、離婚した際のプライバシーも守られる。結婚して姓が変わる際に必要な公的書類変更の煩雑な手続きも必要なくなる。名字が変わることで論文など記録としての実績がリセットされかねない問題も回避できる。

一方で、反対派が日本の古き伝統として家制度を維持することを強く訴える背景には、選択的夫婦別姓を導入することで、同性婚などの問題にも波及して社会が急激に変革していくことへの警戒感がある。ただ、自らの意思に基づいて夫婦別姓を選択することで、夫と妻はそれぞれ独立した人間であること、ひいては「男女平等」を強く認識できるともいえる。

3.同姓なのは日本だけ。諸外国の状況は?

図解

「法務省のHPで公表されているように、夫婦のいずれかの氏を選択しなければ結婚できない制度を採用している国は世界中で日本だけです。『結婚後に相手の名字になる』という私たちの常識は、世界的にとても珍しいことなのです」(竹内氏)

10月29日、国連の女性差別撤廃委員会は夫婦同姓を義務づける民法の規定を見直し、選択的夫婦別姓を導入するよう通算4度目となる勧告を出した。世界ジェンダーギャップ報告書によると、世界146カ国のうち日本は118位で、G7の中で圧倒的に最下位に甘んじている。 世界中で導入されている夫婦別姓だが、各国により制度が異なり、(1)夫婦同姓と夫婦別姓から選択できる(2)夫婦別姓を原則とする(3)夫の姓は変わらず、妻が連結姓となる--という3つに大きく分けられる。現在、日本が導入を検討しているのは(1)である。また子どもの姓は婚姻の際に、あらかじめ夫または妻のいずれかの姓を名乗るのを決め、結果としてきょうだいは同じ姓になる。

4.別姓制度の導入に、各政党はどんなスタンス?

図解

先日行われた衆議院議員選挙の際に各党が掲げた公約を見ると、多くの政党が選択的夫婦別姓の導入に賛成の姿勢であることがわかる。その一方で、選挙で結果を残せなかった自民党は、従来通り制度導入に慎重な姿勢を崩さなかった。これは自民党の支持層=保守派への配慮ともいわれている。維新は旧姓に法的効力を持たせる形での選択的夫婦別姓の導入推進を掲げる。参政党のみが明確に制度導入に反対している。

5.今後の見通しと課題は?

姓にしなくても、旧姓を通称使用にすればよいのでは?

竹内氏
公的手続きなどは法的根拠がない旧姓を使用できないため、2つの姓を使い分ける必要があります。会社員を例にとれば、たしかに通称を使用すれば社内外的に不都合がないように思えるかもしれませんが、旧姓(通称)使用を認めている企業は戸籍姓と旧姓を使い分けて管理するため、多くの負担がかかります。そのため、業務において通称使用を認める企業は全体の半数にも満たず、転職したら通称が使えなくなる可能性もあります。それらは制度を整備することで解決できる可能性もありますが、通称を法的手続きに使えるようになったとしたら、それは夫婦別姓と大差がないといえるでしょう。

Q.別姓にしたら子どもの姓はどうなる?

竹内氏
検討を進めている制度では、子どもの姓は、夫婦どちらかの姓にする必要があります。結婚をするときに夫婦で話し合い、どちらの姓を名乗らせるかを決めることになります。そのため、子どもが複数いる場合は、全員がどちらかの親の姓になります。離婚などの事由があっても子どもの姓は変わらず、アイデンティティーの喪失や環境変化のストレスを与えることにはなりません。子どもの姓を親に合わせて変えるためには、家庭裁判所での手続きが必要になるでしょう。

Q.制度が導入されたら婚姻後に、別姓に戻すことはできる?

竹内氏
制度の導入前に結婚して同姓になった夫婦は、いずれかが別姓に戻したい場合、配偶者との合意に基づいて、法律の施行1年以内に配偶者と届け出ることによって、婚姻前の姓に戻すことができるとされています。

#令和の人権」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。日常生活におけるさまざまな場面で、人権に関するこれまでの「当たり前」が変化しつつあります。新時代にフィットする考え方・意識とは。体験談や解説を通じ、ユーザーとともに考えます。

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