Yahoo!ニュース

牛・豚肉が使えず鶏肉で代用――物価高に人手不足、学校給食がピンチ #こどもをまもる

ビジュアルで知る

2学期が始まり、学校給食が再開した。しかし、学校給食を取り巻く環境は深刻だ。 慢性的な人手不足と物価高に伴う度重なる給食費の値上げ。しかも、来年度にはさらなる大幅な値上げが見込まれるという。学校給食の課題を4つのポイントで整理し、それぞれについて専門家に聞いた。(監修:成田崇信/デザイン&イラスト:オザワタクヤ/取材・文:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

この記事、ざっくりいうと?
  • 給食調理員の労働環境は過酷で人手不足
  • 物価高により牛・豚肉、パン、麺が食べられないところも
  • 「おいしい給食」実現のためには国の支援が不可欠

1. 人手不足

「学校給食実施状況等調査」(文部科学省)によると、学校給食調理員の数は年々減少している。令和4年度の全国有効求人倍率も2.18* と、求人に対する求職者が足りていない。原因は低賃金に加え、気楽に働ける職場でもないことがあげられる。夏の調理場は40度を超え、食中毒予防にも気を配る必要がある。過酷な労働環境に対して、相応の賃金が支払われていない。また、腸チフス、コレラといった病原性細菌が多く存在する開発途上国に旅行する際には、生水、生野菜、氷、アイスクリーム、皮を剝かないで食べる果物を口にすることは禁止されている。

* job tag(厚生労働省)

図解 給食調理員

管理栄養士の成田崇信氏は「人がいないから人手不足なのではなく、人が集まらない条件であることが原因」と指摘する。ではなぜそのような条件のままなのか。

成田崇信(なりた たかのぶ) 管理栄養士、健康科学修士

待遇が向上しない要因は?

成田崇信
成田崇信
給食の委託事業が入札制度で決まるためです。一番安い入札業者は人件費も安くなります

人手不足による提供方式の変化

学校給食の提供は大きく2つに分類される。校内で調理を行う「自校方式」と、外部の大型施設内で行う「センター方式」だ。センター方式は1970~80年代から全国に広がりはじめ、現在では小中学校ともに過半数を占めている。

図解 学校給食の提供方式

センター方式は1万食を10人前後で調理することができるなどコスト効率に優れる一方、メニューが画一的になったり、長距離配送に耐えるために味が犠牲になったりしている。

成田崇信
成田崇信
調理員が足りず自校方式をやめ、センター方式に移行する学校も増えています。給食調理員を公務員として雇っている自治体であれば人が集まりますが、公務員としての雇用も、経費削減の風潮に押され厳しくなっています

2.物価高

昨今の物価高も給食に大きな影響を及ぼしている。限られた予算の中でなんとか必要な栄養素を満たすため、既存食材の使用頻度を減らし、別の食材を代替として使用せざるをえない事態になっている。

食材にどんな変化がある?

成田崇信
成田崇信
牛肉、豚肉 メインの献立が減り、鶏肉、卵、豆類でたんぱく質を補ったりしています。単価が高く、傷みやすい果物も、センター方式では高コストな個包装になるため頻度を下げたり、缶詰になったりします

炭水化物についての影響は?

成田崇信
成田崇信
パンは単価が高く、麺類も、生徒数減少にともなって採算が取れなくなり撤退する業者が増えています。小麦価格の高騰による値上げをカバーできなくなり、全部ごはん給食のところも出てきました

米不足による影響は?

成田崇信
成田崇信
米価が事前に決めておいた基準価格を上回った場合、自治体などが補助したり、数カ月単位で価格契約をしたりするため、現場レベルで給食材料費に困ることはあまりありません
図解 物価高に伴う給食の食材の変化

3.給食費値上げ

物価高を受け、給食費は過去最高額を更新している。

グラフ 給食費の推移(平均月額)
成田崇信
成田崇信
来年は多くの自治体で値上げ幅300円を超えることが予想されます。現在、食材費高騰分を公費補助によって補っていますが、来年度からはこの補助がなくなる自治体が多く、物価高が給食費にダイレクトに反映されることになるでしょう

給食費無償化に向けた動きは?

成田崇信
成田崇信
自治体の財源の豊かさによるところが大きいです。無理やり無償化を実現させた結果、給食の質が低下してしまった場合に「無償だからしょうがない」となる恐れがあります。貧しい自治体ほどその傾向が高まるのではないでしょうか

4.食べ残し

環境省の調査によると学校給食における児童・生徒一人あたりの食べ残しは年間7.1kgに及ぶという。「食べ残し」の理由で最も多いのは男女ともに「嫌いなものがあるから」となっている。

図解 給食の食べ残しが発生する理由
成田崇信
成田崇信
「嫌いなものがあるから」を掘り下げると「おいしくないから」という理由に突き当たると考えます。自校方式よりもセンター方式の残食率が高いというデータもあります。カバーエリアが広がると配送時間が延び食中毒のリスクが高まります。対策として殺菌を強めるため、硬くて水分のない肉や、味の抜けたカット野菜を使用することになってしまうのです

味以外の理由については?

成田崇信
成田崇信
味以外の理由については給食時間が15分しかない学校があるなど、食事の時間を十分にとれていない問題もあります。あとは小学校高学年以降の女子にみられるダイエット志向。一人が始めるとその友達も同調して給食を残すのが当たり前な空気が出来上がってしまうことがあります。それは間違いだと伝えなければいけません

5.【箸休め】 知ってる? ご当地給食

学校給食は地域によって趣が異なる。地元の野菜を使った地産地消の取り組みや、ご当地ならではの郷土料理で食育を意識した取り組みが行われていることもある。そんな「郷土給食」をいくつか紹介したい。

図解 ご当地給食

6.学校給食の改善には国の支援が不可欠

限られた予算や制限のなかで、人手不足、物価高、給食費値上げ等、外部に起因する課題への対応は限界を迎えつつある。解決の糸口はどこにあるのか。

成田崇信
成田崇信
現場や自治体は、学校給食の課題解決に向け、涙ぐましい努力を重ねていますが、実際に効果を上げている取り組みはあまり見当たらないのが実情です。現場任せ、自治体任せだけでは解決できないどころか、自治体の財政事情によって給食格差が生まれかねません。調理員の待遇改善や給食費の物価連動など、国全体の施策が必要だと考えています

「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会 課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のた めに、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。

この記事をシェアする

Yahoo! JAPAN