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マイナンバーカード、作った? 作らない? 〜見えてきたメリットと不安〜

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マイナンバーカードの交付率が53.5%に達した(11月末時点・総務省)。政府は20日、最大2万円分のポイントが受け取れる普及策の申請期限を12月から来年2月まで延長すると発表している。

現在の紙の健康保険証を2024年秋に原則廃止し、マイナ保険証として一本化を目指す。Yahoo!ニュースがユーザーにコメント欄でマイナンバーカードに関して意見を求めたところ、2200件を超える声が寄せられた。ユーザーからは、「公的証明書がコンビニで発行できて便利」といった声がある一方で、管理システムの膨大な維持費に対する懸念や個人情報の外部漏えいを心配する声も。メリットや課題についてひもとく。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:梅屋真一郎)

この記事、ざっくりいうと?
  • マイナンバーカードを実際に作った人の声には賛否あり
  • 作成を迷っている人の懸念点は「個人情報の漏えい」と「政府への信用度」
  • マイナンバーカードの目的は、税・社会保障・災害が起きたときの速やかな支援

コメントから浮き彫りになった、マイナンバーカードへの関心

図解

【みんなで考えよう】マイナンバーカード、作った? 作っていない? あなたが感じた利点や懸念点を教えてください」に届いた全コメントを対象に、単語の登場回数などを割り出す解析を実施。各コメントの段落内に同時に出現した頻度の高い単語同士を線で結び、「共起ネットワーク」を作成。なかでも多くの単語のつながりがあった特徴的なネットワークを抽出し、グラフィックにした。(11月22日〜12月1日のコメント、約2200件をもとに構成)

この図からは、「コンビニ」と「住民票」「便利」「発行」「取得」などがつながっていて、コンビニで公的な証明書が取得できる利便性があげられているのがわかる。また、「保険証」と「免許証」が相互に結びついており、マイナンバーカードを各種証明書としていることがわかる。

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コメント欄でも、「役所がやっていない平日夜にコンビニで公的証明書が発行できるのは便利」「マイナポータル連携で年末調整に必要な控除証明書などのデータが取得できて感動した」といった声があった。他に、マイナポイント(一人あたり最大2万円分)がもらえることをメリットとしてあげる声、引っ越しや年末調整、確定申告などの手続きや本人確認が一気通貫でできる便利さをあげる声が多かった。

マイナンバー制度について企業実務の観点からの影響度分析に従事・研究をしている、野村総合研究所 未来創発センター 制度戦略研究室長・梅屋真一郎さんは、こう解説する。

梅屋さん
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ポイントを付与することで、街中でもQR決済や電子マネーが利用できる場所が増えてキャッシュレス化が進みます。また、接種証明などがアプリでできるとペーパーレス化につながるという副次的な効果もあります。

その一方で、マイナンバーカードを作ったユーザーからは下記のような不満や意見も見られた。

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不満としては、カードの受け取りで本人が役所へ出向く必要があることの手間や2つの暗証番号の設定が必要なこと、カードと暗証番号の有効期限が異なることへのわずらわしさをあげる意見が多かった。

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一方で、「作らない」「作っていない」人からは、情報の管理・流出や紛失時の対応への不安の声のほか、特定の会社の製品に依存したためにかかっている管理システムへの膨大な維持費を疑問視する声もあがった。申請・発行にかかる手間や労力についての指摘もあった。

また、下記の共起ネットワークを見ると、「個人情報」と「漏えい」、「政府」と「信用」が結びついており、マイナンバーカードの普及による個人情報の漏えいと政府への信用度に対する懸念が一定数あることがうかがえる。

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コメント欄には、「国や政府、自治体が導入したITシステムは信用ならない」「個人情報が漏えいするリスクや漏えいした際に誰が責任を持ち、どう対処するのかが明らかになっていない」という声もあった。

梅屋さん
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現状、不正取得を防ぐため、カードの申請・交付時には役所などの職員による本人確認が必要となっていますが、自治体によっては、役所に出向くことが困難な住民のために「出張申請」をしているところもあります。今後、政府は高齢者の本人確認をケアマネージャーらの代理で可能にするなど、緩和していく方針です。
また、公金受け取り口座で登録されるのは金融機関名と口座番号で、国が預貯金を把握することはありません。「登録したら勝手に税金が引き落とされるのでは?」という不安の声もありますが、引き落としではなく、給付金の振り込みなどに使われます。
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国民全員が健やかに暮らすうえで欠かせない保険証。医療現場では、マイナ保険証の読み取り機などの導入には補助金が出るが上限を超えてしまうケースや、機器のトラブルが起きた場合に、受け付け事務や診療に差し障りがあるのでは、と戸惑いの声も。実際に、全国保険医団体連合会によると、マイナ保険証の運用を開始した医療機関の4割超で、カードの読み取り機が起動しないなど不具合も起きている。

梅屋さん
梅屋さん
政府は2022年10月に診療報酬を改定。現在は健康保険証よりマイナ保険証を提示したほうが医療費は安くなりますが、それ以前は医療機関によってはマイナ保険証のほうが高くなるケースもありました。
医療機関ではこれまで医療保険の申請手続きは目視で確認してコピーを取り、手で記入をしていました。マイナ保険証の導入により患者さんの医療保険資格確認が端末でできるようになります。そうすれば人的ミスも減りますし、今後は医療機関や薬局の窓口などの事務処理もスムーズに行えるようになるでしょう。

イチからわかるマイナンバーカード メリットや不安も

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ICチップには上記の図にある情報と電子証明書(第三者が間違いなく本人であることを電子的に証明するもの)が記憶されている。電子証明書の使用の際には暗証番号が必要で、不正な読み取りが行われた場合は、ICチップが壊れて使えなくなるので不正利用の予防にもなる。

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マイナンバーカードの主な申請方法は5つ。個人番号通知書または通知カードに同封された交付申請書を使用して郵送、スマホやパソコンでのオンライン、街中の証明写真機(写真機によって申請できないものもある)、自治体によっては、地域センターや集会施設、ショッピングモールなどに申請窓口を設け、職員が対応する出張申請受け付けもしている。また、ケータイショップで受け付けているところも。

マイナンバーカード所持で何ができる? どこに注意が必要?

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最大のメリットといわれる「マイナポイント」を受け取るには、2023年2月末までにカードの申請をする必要がある。現状、運転免許証更新時のオンライン講習の対象は、優良運転士者のみ。今後、酒やたばこを購入する際に、セルフレジで年齢確認ができるようになり(政府は2023年1月末に認める方針)、プロスポーツ観戦やコンサートのチケット販売にも活用される予定だという。

なくしたり個人情報が漏れる恐れは...?

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現在進められている、健康保険証や運転免許証との一体化が実現すれば、マイナンバーカードを持ち歩く機会はこれまで以上に増えるだろう。その際に懸念されるのが、カードの盗難・紛失だ。また、企業や行政機関で相次いだマイナンバー情報の紛失・漏えいにより、不正アクセスも起こっている。

カードの盗難・紛失に遭った場合、情報として漏れるのは、券面に記載された情報のみ。カード内のICチップには税や年金、医療・薬剤情報といったプライバシー性の高い情報は記録されていない。写真付きのため、なりすましなどで悪用される可能性は低いという。

紛失した際は、コールセンター(0120-95-0178/24時間・365日対応)に電話し、一時停止手続きを行おう。再発行には手数料(条件によっては無料)と1カ月程度の時間がかかるので注意が必要(2024年秋には10日程度に短縮予定)。

海外の国民IDカード事情は?

台湾 新型コロナ対策で活用したデジタル健康保険証

台湾のICチップ付き「全民健康保険」カードは、デジタルIDとして身分証や運転免許証としても使用可能。コロナ禍で、マスク・消毒剤・ワクチンなどの物資の在庫管理システムを政府が改修、オープンデータ化を実施。国民のIDナンバーなどのデータを統合することで、薬局のマスク在庫数や個人の購入履歴情報が一元管理され、全国民に対するマスクの最低限の確保を実現させた。

エストニア カード普及率99.9%のIT先進国は官民で利用可

政府が公的身分証として15歳以上の全ての国民に「デジタルIDカード」を発行、所持が義務づけられている。重複したシステムを余計に作らないように国家情報システム「RIHA」で管理する一方、一元的にデータを管理せずに各データベースで管理。必要に応じてデジタルIDを利用してデータベースにアクセスする安全で効率的なシステムを官民で利用している。

ドイツ 個人情報管理に厳しいドイツでは運用も限定的

2003年に租税通則法が改正され、納税義務者に対する納税者番号が、出生時または外国からの転入時に付与されることになった。2009年から税務での利用が開始に。電子証明では、氏名・生年月日・出生地・写真が記録され、行政手続きや商取引等の本人確認に関して限定的に使われている。

政府、自治体、国民それぞれの課題とは?

一気通貫なシステムとして利便性の声がある一方で、各所からシステムの不具合や懸念の声もあがっているマイナンバーカード。政府・自治体・国民それぞれの課題について、梅屋さんに伺った。

「国民皆保険制度」の日本において、2024年秋に現在の健康保険証の廃止を目指す以上、政府は自治体や民間とも協力をしていかなくてはいけません。現状、正しい情報が知れ渡っていないために、マイナンバーカードの取得を迷っている方もいるかもしれません。特に個人情報漏えいやセキュリティー面での懸念がいわれていますが、マイナンバーを知られるだけでは悪用できませんし、国があらゆる情報を一元管理することは一切ない、としています。

また、マイナポイントがインフラとして機能しているケースもあります。自治体によってはボランティア活動や結婚・出産の支援としてマイナポイントを付与するなど独自に工夫を凝らしています。

海外でIDカードが奏功したケースでは、コロナ禍での台湾の取り組みがあげられます。ところが日本では、正確に世帯人数の把握すらできないことが露呈しました。マイナンバーカードは、税と社会保障そして災害対策において速やかに支援できる仕組みにもなります。

今後、利用機会が増えていくなかで新たに見えてくる課題もあるでしょう。政府は国民から信頼を得たうえで、国民はプライバシーの向き合い方を理解したうえで、普及・所持していくべきだと思います。

梅屋真一郎さん

野村総合研究所に入社、システムサイエンス部配属の後、NRIアメリカ、野村ローゼンバーグ出向。帰国後、金融関連本部で活動。経営企画部を経て、2013年4月から現職。マイナンバーやキャッシュレスインフラ等の制度分析やあるべき姿などの情報発信などを行っている。主な著書に『これだけは知っておきたい マイナンバーの実務』(日経文庫)。

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